子どもたちの心を蝕む「いじめ問題」。一部では深刻化するケースもあり、大きな社会問題になっています。文部科学省は2023年2月に、学校に対して「悪質ないじめが起きた場合、直ちに学校から警察へ相談、通報するように」と通知しました。これを受けて、イラストレーターの迷える親羊☆志水恵美(@shimizoon)さんが、文科省が示した具体例のイラストを描きTwitterで発信したところ、大きな反響を呼びました。
学校と警察が連携して悪質ないじめに対応
── 志水さんがイラストで描いた「犯罪になり得る19のいじめ事例」のツイートが、現在3.2万件以上の“いいね”がつき、大きな反響を呼んでいます。イラストを見ると一目瞭然。これは「いじめではなく、悪質な犯罪」だと分かりますね。
志水さん:そうですね。私は子どもの頃から「『いじめ』ってなんやねん。犯罪だろ」とずっと思っていたんです。どう考えてもいじめた子が悪いのに、日本ではいじめを受けた子が不登校になり、転校せざる得ない子もいます。
一方いじめた子は、何事もなかったかのようにクラスに君臨し続けて、ともすると“陽キャ”として大学時代を過ごし、いいところへ就職している人もいるんです。でもそれっておかしいですよね。
これまで学校でいじめが起きても、「これは子どもがしたことですから」と見過ごされてしまうことがしばしばありました。しかし、今回の文科省の通知によって、悪質ないじめは学校と警察が連携して対応することになったんです。被害を受けている子はもう泣き寝入りしなくていいんですよ。
── 今回、文科省は「いじめは犯罪だ」と正式に認めたということなのでしょうか?
志水さん:いえいえ。調べてみると2013年に『いじめ防止対策推進法』が施行されており、そこで「いじめは犯罪だ」と既に決まっていたんです。
今回、イラストで紹介したように、文科省が「犯罪に該当しうる悪質いじめ19事例」を示し、事例に該当することがあったら警察に通報するように過去に通知は出していました。
しかし、実際のところ、学校側にはいじめがあれば通報する義務があるにも関わらず、それができていなかった。そこで改めて、「この19事例のような悪質ないじめが発覚した場合、学校側は速やかに警察に相談、通報してください」と改めて念押しのような形で通知がなされたのです。
今回、イラストを投稿して反響を見て感じたのですが、多くの保護者はその事実を知らなかったようです。今回の投稿で初めて「いじめは犯罪だ」ということを知ったという方も多かったです。
── 今回の文科省の通知によって学校の現場ではどのような変化が期待できますか?
志水さん:まず前提として、警察への悪質ないじめの通報は「学校側」がします。ところが学校に相談しても対応してもらえず、いじめがもみ消されてしまいそうなときは、「先生、こういったケースでは学校側から警察に通報することが法律で決まっていますよ」と保護者は言えるわけです。つまり、以前よりも保護者はいじめの被害を学校に訴えやすくなりました。
一方で、悪質ないじめをしていたにも関わらず、保護者のなかには「子どものしたことで、わざわざ警察に通報するなんて」と加害を認めない方もいるんですね。そういった保護者に対して学校側は「これは、法律で決められていることですから」と言うことができる。つまり、法律という後ろ盾があることで、保護者に対する説明の負担も減るのではないかと私は期待しています。
「いじめは犯罪」その知識が子どもの身を守る
── そもそも今回、このイラストをTwitterで発信しようと思ったきっかけは?
志水さん:私は今、痴漢抑止活動センターという団体でボランティア活動をしていまして、そこの代表が新聞で、「文科省が学校や教育委員会に対して、学校のいじめが犯罪に当たると見られる場合、警察に通報徹底をするように通知した」という内容の記事を見つけたんです。
興奮した様子で「志水さん、すごいの出ているよ。イラストをつけてぜひSNSで投稿して」って。もともと「性犯罪のない世界をつくりたい」と10年間啓蒙されてきた方なので、学校のいじめ問題で苦しんでいる子どもたちを見過ごせなかったのでしょう。
その新聞では文科省が示した事例が3つほどしか掲載されていなかったため、代表がすぐに文科省へ問い合わせてすべての文書を手に入れてくれたんですね。そしたらもう、描くしかないぞと。しかし私自身も調べるなかで問題意識が高まり、「イラストの力で多くの人たちに届けたい」と思って今回描きました。
── 今回、Twitterで発信をされた後に、無料でイラストをダウンロードできるようにされました。
志水さん:直接学校の先生から、「保護者や生徒に『悪質ないじめの事例』を説明するために、このイラストを使わせていただけますか?」と連絡を何件もいただきました。「学校がいじめ問題に対して率先して動こうとしているんだ」と希望を感じました。またコメントで「このイラストを教室に貼ってほしい」という声を多くいただいたので、すぐにダウンロードできるようにしました。
── このイラストが教室に貼ってあれば、いじめの抑制にも繋がりそうです。
志水さん:そうですね。今まで学校側で蔓延していた「いじめぐらいで大げさな…」と加害者を許すような空気さえなくなれば、いじめの件数は減っていくと思うんです。
それは子どもたち同士も同じ。「いじめが犯罪なんだ」と分かれば、たとえいじめに加担することを強要された場合でもきちんと断ることができる。
一方でいじめられている子も声を上げることができます。子どもたちも知識として持っておくことが大事だと思いますね。
── そうですね。今後そういった知識が多くの学校で広がっていくといいですね。
志水さん:ええ。そもそも私たちは、子どもを刑法で裁くことがしたいわけではないですよね。誰もが安心して学校生活を送ってほしい。皆さんそう願っていると思うんです。いじめという大きな社会問題に対して、子どもたちを加害者にも、被害者にもしたくない。そのためにこのイラストを教育現場で活用してもらえたらと思っています。
画像提供/迷える親羊☆志水恵美
参考/文部科学省「いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携等の徹底について(通知)」(令和5年2月7日)