お笑い芸人として人気絶頂だった28歳のころ、日本の芸能界を飛び出し、ひとりニューヨークに渡った野沢直子さん。当時のことを振り返って今感じること。アメリカで過ごす老後資金についてどう考えているのでしょうか。(全5回中の5回)

28歳で日本を飛び出して…

── 野沢さんがアメリカに渡って、今年で32年が経ちます。

 

野沢さん:28歳のとき、自分の実力のなさに絶望し、とにかく新天地に行って経験を積みたい。その思いでこれまでなんとか走り続けてきました。幸いなことにアメリカでバンドメンバーに出会えたり、旦那のボブとも出会い結婚することもできました。子どもたちも、反抗期などで大変なことはありますが、独り立ちできるようになってきて、だいぶやりたいことをやりつくしたんじゃないかと思います。

 

── ボブさんは、以前はバンドをやっていたそうですが、今は看護師として働いているんですね。

 

野沢さん:彼もずっとバンド活動など好きなことをやってきましたが、40歳を過ぎてから改めて自分の人生を見つめなおして、看護師の職に就くため、学校に通いました。

 

── ボブさんはどのくらい学校に通っていたのでしょうか?

 

野沢さん:6年間です。アメリカでは大学に4年間通って、残り2年間はインターンとして働きました。

 

── 旦那さんが学校に通っている間、収入はどうしていたのでしょうか?

 

野沢さん:私が日本に出稼ぎに行ったりしながら稼ぎました。また、父の会社の株主になっていたので、会社役員として給料をもらっていたなどもあるので、それでなんとかギリギリやりくりしてました。今は、彼が働いて、私が専業主婦のような状態です。

 

ホームパーティで盛り上がる

──「アメリカに行く決断をしてよかった」と思いますか?

 

野沢さん:あのとき思いきって決断してよかったです。アメリカに来たことで、人生も価値観も大きく変わりました。

 

また、アメリカは自由の国といわれていますが、コンサバティブな人もいれば、人種差別もあります。

 

私は、これまでニューヨークとサンフランシスコに住みましたが、これらの街はたくさんの移民を受け入れていることもあり、ひとつの価値観にとらわれないんですよ。みんな価値観が違っているけど、それをよしとする風潮があります。

 

日本では、誰かが右といったら全員が右を向かないといけない。1人だけ左を向くと、和を乱すといって、はじき出されてしまうこともあります。内陸のほうの田舎に行くと、保守的な社会もあります。

 

ニューヨークなど大きな都市にいると、お互い価値観が違っていてもいいし、右を向いても左を向いても上を向いてもいい。違いがあって当たり前という感じです。

 

── 今改めて考える「28歳のときの人生の選択」は、正解だったといえますかね?

 

野沢さん:大正解だったと思います。アメリカ5大都市を回ってライブをやったり、パフォーマンスをやったり。ショートフィルムを作ったり。好きなことを思いっきりできています。

 

日本のテレビの仕事は、それはそれですごく楽しかったとは思うんですけど、アメリカに来たことで、日本では見られないたくさんの景色を見ることもできました。

貯金はゼロも「これから稼げばいい」

── 野沢さんは「貯金ゼロでも生きていける」と伺いましたが、これはどういうことですか?

 

野沢さん:うちは子どもが3人いますが、高校を卒業してそれぞれ自分たちの道を歩き始めています。だから一般的に言われる教育コストはそこまでかかっていません。

 

── 日本では「老後の資金として2000万円が必要になるから個人で貯めなければいけない」と、不安になっている人も多いです。

 

野沢さん:私は老後資金について、日本人がそんなに焦っているとはまったく知らなくて。著書『老いてきたけど、まぁ~いっか。』の最後に「貯金はありません」と正直に書いたら、読者の方からすごく驚かれました。

 

これまでは「これから稼ぎ続ければいいんじゃない」と思っていたんですが。とはいえ、もし年を取って体が動かなくなったりした場合、アメリカでも老人ホームのような施設に入ったらお金がかかる。そのお金をだれが負担するのかといったら、子どもには迷惑かけられないから、やっぱりある程度は貯めておくことも大事なのかなと、いまさらながら考えたりしています(笑)。

 

今60歳なので、施設に入るまでにあと20年あるから、そんなに心配しなくてもいいかなとも思います。

 

── 書籍のなかで「稼がないと、と思えばそれも働くモチベーションになる」と書かれていましたね。

 

野沢さん:それもあります。本当に働かなければいけないと思ったら、頑張って働きますよ。私も東京の下町生まれなので、江戸っ子気質じゃないけど、「どうにかなる」と思う気持ちもあります。貯金については、私のなかでは意識は低いけれど、お金を稼ぐことが働くモチベーションになっているのも事実ですね。

 

貯金がないことは悪いことではなくて、2割くらいは働くモチベーションになるし、残り8割はどうにかなるさでいいのかなと気楽に考えています。

 

PROFILE 野沢直子さん

東京都出身。超人気コント番組『夢で逢えたら』などに出演。人気絶頂期に渡米を決意。アメリカ人の彼と国際結婚し現在アメリカ在住。長女は格闘家の真珠野沢オークレアー。『老いてきたけど、まぁ~いっか。』(ダイヤモンド社/野沢直子)。

 

取材・文/間野由利子