生き生きとした刺繍作品が魅力の小菅くみさん。SNSをのぞけば、その暮らしぶりもまた生き生きと楽しそうです。人気レスラーの中邑真輔選手が記者会見で羽織っていた刺繍ジャケットを手がけたことも話題に。「刺繍を始めた頃は、実はクヨクヨするタイプだった」と言う小菅さん。どんな心の変化があったのでしょうか?(全2回中の2回)

 

小菅くみさんの刺繍作品
古着に刺繍をほどこし、まったく新しい洋服に

友人の「真似をする」ことで変われた

── 作品だけでなく、小菅さんご自身もとても健やかに楽しそうにしていらっしゃいますよね。なにか心がけていることはありますか?

 

小菅さん:もともとはマイナス思考で、 ずっと「ツラい、ツラい」と言ってるタイプだったんですよ。だけどあるときから、すごく楽しそうに生きてる人を見つけたら「どうやって考えてるの?」「どうやって気持ちを切り替えてるの?」と聞いてみるようになりました。単純にうらやましくなったんでしょうね。

 

刺繍作家・小菅くみさんの作品
マイケル・ジャクソンと猫を組み合わせて

友人や尊敬する先輩、いろんな人に「おしえて」と尋ねて、ちょっとずつその人たちのいいところを真似をしながら取り入れていっています。

 

たとえば、すごく忙しそうな友人が「仕事があって働けるということは幸せなことだし、この会社に入りたくて入ったんだったってことをいつも思い出すようにしてるんだよね」と言っていて、すごくいいなと思って。

 

そういう「いいな」と思った考え方は、ちょっとお裾分けしてもらうような感覚で少しずつでも真似をするんです。もちろんすぐに習慣にはならないけれど、「忘れそうだった〜、危ない危ない」と気をつけるようにはなります。

 

── そうすることで、小菅さん自身も徐々に変わってこられたんですね。

 

小菅さん:そうですね。それから、「ため息つくと幸せ逃げるよ」なんて言いますけど、それと同じで口に出す言葉って本当に大事なので、「何を言うか」についても気を配るようになりました。なるべく、マイナスに働いてしまうようなことは口にしないようにできればと思ってるんです。

 

明るい人の真似をして「あの人だったらどう考えるだろう」「あの人だったらどう言うかな」とお手本にさせてもらいながら、日々行動しています。

 

刺繍作家・小菅くみさんの作品

── 身近に、「お手本にしたい」と思える方がたくさんいらっしゃるのはいいですね。

 

小菅さん:ありがたいですね。趣味の「サウナ」にしてもそうなんです。それまで「暑くて苦しくて、サウナなんて苦手だ」と思ってたんですけど、10年ぐらい前に友人が「あなたみたいな性格の人は絶対サウナに入ったほうがいいよ」と言ってくれて。先入観を捨てていざ試してみたら、大好きになってしまいました。

 

あれこれと考えていたことがどうでもよくなって、「これかあ!」と。わたしのくよくよしている性格にはサウナがピッタリだと見抜いていたんでしょうね。そこから、なんでもまずは取り入れてみよう! と思うようになったんです。

40代から、楽になれた

── ライフステージの変化や年齢を重ねても、変わらない友人関係があるというのにもまた憧れます。

 

小菅さん:もちろん多少は変化しているとは思うのですが、人に恵まれているなあと日々実感します。ただ、以前のわたしは関係性を大事にしたくて、ついつい過剰になっていた部分もあったんですよ。

 

たとえば、誘いは絶対に断らないだとか。だけどそれって、やっぱり無理をしているところがあったし、もう少し楽に構えていいかな、と思うようになりました。

 

40歳を超えてから、なんだか急に楽になった気がするんですよね。先輩たちが「いろいろと諦めもつくし、深く考えないようになってくるよ」と言っていたのが、今になって本当によくわかります。いい意味で手放せるものは手放しながら、身近なものをもっと大切にできるようになったんじゃないかな。

 

それに会わなくたって、大事に想い合える関係ってたくさんあるから。そういうこともわかるようになってきたのが、ここ最近なんです。

 

刺繍作家・小菅くみさんの作品
キャップやジャケットなど、意外なアイテムに刺繍をする試みも

—— これからの40代を、どんなふうに過ごしていきたいですか?

 

小菅さん:刺繍に夢中になっていると、どうしても目が疲れたり、肩や腰に痛みが出ちゃうことがあるんですよね。そういうときは整体とか鍼に行くようにしています。

 

そんなふうに、心も体も自分なりのケア方法を見つけながら、自分自身のことも大切にしていきたいですね。「もうすぐ老眼がくるよ」と周りの人に言われるんですが、なんだかそれもちょっと楽しみだったりするんです(笑)。変化ともうまく付き合っていける自分でありたいなと思います。

 

刺繍作家・小菅くみさんの作品

わたしには101歳になる祖母がいるんですけど、趣味で油絵を描いていて、この前は書き溜めていた作品の展示会をする機会もあったんですよ。ずっとずっと手仕事が大好きで、前向きでやさしく、とっても好奇心旺盛なんです。

 

祖母はわたしにとって、あんなふうに年齢を重ねたいな、あんなふうになりたいな、という憧れの存在。わたし自身も祖母から受け継いだ「ものづくり愛」を大事に、ずっとずっと楽しんで刺繍を続けていきたいです。

 

PROFILE 小菅くみさん

1982年生まれ。 刺繍ブランド〈EHEHE(エヘヘ)〉の制作をはじめ、ユーモア溢れる刺繍作品を手がける。 著書に『小菅くみの刺繍 どうぶつ・たべもの・ひと』(文藝春秋)など。名古屋「fons」にて個展を開催予定(3月18日〜4月3日)。

 

取材・文/中前結花 写真提供/小菅くみ