今年も桜の季節が到来。今年は、今大河ドラマで話題の江戸幕府が新田開発した地でもある、さいたま市に広がる「見沼田んぼ」の「日本一の桜回廊」を楽しむのはいかがでしょうか。見沼田んぼの両端を流れる見沼代用水沿いには、全長20キロにも及ぶ桜回廊が散策する人の目を楽しませてくれます。この桜回廊の魅力について、さいたま市の「見沼田圃政策推進課」馬上(もうえ)さんと増田さんにいろいろと伺いました。
江戸幕府が開発・整備した「見沼田んぼ」
── 桜の季節がやってきました。全国で最初にソメイヨシノを楽しむことができる関東圏ですが、埼玉には「日本一の桜回廊」があるんですね。正直、今まで存在自体を知りませんでした…。
馬上さん:もっと「見沼田んぼ」の「日本一の桜回廊」をPRしていかなければいけませんね。「日本一の桜回廊」になったのは平成29年ですが、実は今年初めて桜まつりを「みぬま木崎ひろば」という場所で3月25日・26日に開催します。
「日本一の桜回廊」ではあるのですが、一人ひとりの心のなかに「日本一の桜」ってあると思うのです。なので、決して見沼田んぼの桜だけが「日本一」ではないなと…。
── 控えめですね。見沼田んぼは江戸幕府が新田開発した地と伺いました。今年は大河ドラマで徳川家康公が取り上げられて話題になっていますし、ぜひもっとアピールしてほしいです!見沼田んぼについていろいろ教えてください。
馬上さん:喜んで(笑)。Googleマップなどで埼玉県の地図を見てもらうとわかるのですが、さいたま市から川口市にかけて縦断する1260haにも及ぶ一面緑に覆われた広大な場所があります。結構な面積でしょう?ここが「見沼田んぼ」です。
江戸時代初期に、江戸幕府が灌漑(かんがい)用の水源を確保するため、この地に「見沼溜井(ためい)」という貯水池を作りました。
その後、八代将軍吉宗の時代に、享保の改革の一環として新田に干拓されました。土木技術家の井沢弥惣兵衛為永(いざわやそべえためなが)が、吉宗の命を受けて新たな用水路を整備して作ったのが、「見沼代用水」です。
そんなわけで、井沢弥惣兵衛さんはさいたまの偉人です。さいたま市にある東京ドームの約2.3倍の面積を誇る「見沼自然公園」には立派な銅像も建っていますよ。さいたま市は井沢弥惣兵衛さん推しですね。
── 特にどのあたりが推しですか?
馬上さん:江戸中期に井沢弥惣兵衛さんが作った「見沼通船堀」という閘門(こうもん)式運河というのがあるのですが、これがすごいです。
パナマ運河と同じ造りになっていて、しかも、パナマ運河よりも183年も前に造られている。幕府直営で運営されており、江戸の産業をおおいに発展させたと言われています。今は、国の指定史跡になっていて、今でも1年に1回、8月に開門の実演が行われています。なかなかの見応えですよ。
── パナマ運河よりも古いとは!驚きました。
増田さん: 見沼は古い歴史が残る土地ですから、深掘りするとなかなかおもしろいと思いますよ。
さいたま市には「つなが竜ヌゥ」というPRキャラクターがいます。見沼の川には古くから竜が住んでいると言われており、水害が起きると「竜神様のたたり」とされてきました。「つなが竜ヌゥ」は、見沼の主の子孫という位置づけで、見沼に伝わる竜神をモチーフにしています。
見沼田んぼの近くには、氷川神社の総本社といわれる氷川神社もありますし、竜神伝説が残る神社やお寺もあります。
日本一の桜回廊を守るための「桜のカルテ」づくり
──「桜回廊」はいつごろできたのでしょうか。
馬上さん:記録を見ると、官民で力を合わせて見沼代用水の土手に桜を植え始めたのは、昭和60年代です。
平成25年に、さいたま市長を会長として「目指せ日本一!サクラサク見沼田んぼプロジェクト」が発足し、ホームページなどで寄付金を募りました。
多額の寄付をいただいたおかげで、プロジェクト発足から5年で桜回廊の距離が2キロ伸び、平成29年には20キロを超え、「散策できる桜回廊」としては日本一になりました。
──田んぼの緑と桜のピンクのコントラスト、素敵ですね。
馬上さん:桜の見ごろは3月20日頃から4月上旬です。2000本の桜がその間に一斉に咲くので、それはもう見事ですよ。
ただ、見沼田んぼはもともと沼地だったので、水はけがよくないんです。桜にとってはタフなコンディションなので、植えても育たないことも多くて、当時の市の担当者は、苦労も多かったと思います。
── 桜回廊を守るのも大変ですね。桜の木の寿命はどれくらいなんですか。
馬上さん:ソメイヨシノの寿命は50年くらいと言われています。見沼田んぼの桜も、古いものは35年と、そろそろ老木にさしかかってきました。桜回廊の管理も、「桜を植える」から「桜を守る」フェーズに移行しています。
増田さん:桜の木を管理するために、今年度は2000本の桜の木にナンバリングをする作業をしました。1本1本写真を撮って、台帳を作りました。これで、桜のサポーターの方から報告があったときに、すぐに対応できます。
── 桜のカルテのようですね。今年2月まで、ふるさと納税によるGCF(ガバメントクラウドファンディング)も実施されました。
馬上さん:おかげさまで100万円の目標を達成しました。桜の木だけでなく、回廊の整備もしなければいけないので、ありがたいですね。
これまで、土手の地権者の方や管理者の方の協力があって、桜回廊が守られてきました。これからは桜回廊を活用して、いかに市民のみなさんに還元していくかということも考えていきたいです。
── もうすぐお花見シーズン、おすすめのスポットを教えてください。
馬上さん:見沼田んぼの魅力は、「農地」「斜面林」「見沼代用水」を一望できる田園風景です。昭和40年代に、埼玉県が「見沼エリアでは原則開発をしない」というルールを策定し、地権者の方の協力のもと、景観が守られてきました。
開発していないので、レストランなどの建物はありませんが、その代わりにお弁当持参でピクニックをするのにちょうどいい自然公園はたくさんあります。大宮公園駅近くの「見沼グリーンセンター」では、菜の花と風車と桜回廊の景観が楽しめますよ。たくさんのリスもいます。
はるか昔の風景がそのまま残っているので、思いを馳せていただければと思います。
取材・文/林優子 写真提供/さいたま市