駒澤大学陸上部の寮母・大八木京子さん。学生の食事作りと子育てを並行しながら、栄養士資格取得のため学校にも通った。一方、時代の移り変わりと共に、大八木監督の指導法にも変化が。大八木監督が変化していく様子を、妻として、寮母としてどのように見ていたのだろうか。

寮母と子育てをしながら栄養士の学校に通って

95年から駒澤大学陸上部の寮母になった大八木京子さん。2007年から栄養士の学校に通い、2009年には栄養士の資格を取得した。寮母と子育てに追われるなか、学校に通おうと思ったのはなぜか。

 

「選手たちがどんどん成績を上げていくなかで、私もさらに、アスリートに向けた食事を作りたいと思いました。また、大学卒業後にオリンピックや日本代表を目指す選手も一緒に練習していましたが、そういったレベルの選手に対しても、今の食事で大丈夫なのかと思ったんです。2年間の学校生活で大変だったのは、テストですね。若い頃と違って、頭にスッと入ってこないんですよ(笑)」

 

「納豆を食べよう!!」寮には京子さん手書きの張り紙も

栄養士の学校に通っていたときは、平日朝9時から16時くらいまで授業。その後、寮に行って夕食作りに取り掛かり、片づけも含めて終了するのは20時半だった。また、栄養士の資格を取得したのち、福祉施設でも5年間栄養士として勤務した。

 

当時は、子育ても真っ最中だった時期。

 

「子どもが小さかった頃は、学校が終わると寮に来て、学生たちが一緒に遊んでくれたり、勉強も見てくれたり、助かりました。夕飯も寮のご飯を一緒に食べていましたね」

箱根駅伝は深夜2時から朝食作り

大会までのカウントダウンや結果も表記

正月には箱根駅伝が開催。12月30日あたりから各選手の発表や、寮内でも緊張感が高まっていくという。しかし、京子さんは2022年まで箱根駅伝の応援に駆けつけたことはなく、大会中は選手の食事作りに追われるそうだ。

 

「1区から10区まで、選手がスタートする時間によって、選手ごとに時間を変えて朝食を出しています。だいたい元旦の深夜2時くらいから食事作りを始めて、1区の選手は朝4時くらいに食事をして寮を出発。その後、2区、3区と時間差で選手に食事を出し、5区の選手を送り出した頃に、大会が始まりますね。翌日は、6区の選手は箱根に泊まりますが、7区以降はまた時間差で食事を出していきます」

 

箱根駅伝は、6区以外は寮から一時間程度で各区間に着くため、大会当日も選手は寮から会場に向かう。また、箱根駅伝の朝食は、選手のリクエストを聞いて朝食を作る。うどんやご飯、お餅などあっさりしたもの、かつ炭水化物でエネルギーを蓄えられる食事のリクエストが多いそうだ。

 

2023年の箱根駅伝は、駒澤大学が優勝!初めて、学生と一緒に応援に駆けつけたという。

 

「最後だと思ったので、行ってみました。直接応援できてよかったです」

「男だろ!」発言を見ながら夫の変化

「男だろ!」と書かれた瓶。中身は焼酎

「男だろ!」。大八木監督が、前を走る選手の後方の車から、選手に鼓舞する激励は有名だ。しかし、平成から令和に時代は移り変わり、時代にあわせて指導法も柔軟に変化していったと聞く。京子さんから見て、どう感じるのか。

 

「家族は毎日接しているので、そんなに変わったような感じはしないんですけど…(笑)。ただ、選手が変わってきているので、昔は通じていたことが、今では全然通じなくなってきていますよね。もうちょっとやんわり伝えるとか。直接ではなく、間接的に伝えるとか。そういった工夫はしているような感じはします。たぶん、7、8年前くらい…から徐々に変わってきたような気はしますね。

 

OBがよく遊びにきてくれたり、顔を出してくれたりするんですけど、すごい驚きます。昔と接し方が全然違うと。前は、少し怖いイメージというか、変なことを言ったら怒られそうな雰囲気もあったと思いますけど、今は違うみたいですね」

 

昔に比べると、学生との距離もだいぶ近くなったそうだ。

 

2023年3月で大八木監督が陸上部の監督を勇退し、今後は総監督として指導にあたる。これからは、世界に向けて少人数の選手に対して指導を行うそうだ。京子さんも寮母としての食事作りはいったん終了となるが、一部の選手への食事作りは続いていく。

 

「夫も50人すべての選手を見るのは大変になってきたし、私も50人の食事を作るのはちょっとしんどくもなってきました。今後は、夫はさらにトップレベルの選手を見ていくので、私も毎日ではないですが食事作りを担当する予定です」

 

改めて寮母になった感想を聞いた。

 

「この生活が普通になっていますが、普段できないような生活を28年もさせてもらったと思います。今後は、選手を絞って食事を作りつつ、自分の趣味に時間を…、旅行にも行きたいです。今までは、夫の実家に帰省するタイミングで、途中で温泉に寄ることもありましたが、もっといろいろ行ってみたいですね。もちろん、箱根駅伝も応援していきます。今度は現地に行って、応援できることを楽しみにしています」

 

取材・文/松永怜