親であれば誰しも、わが子にはベストな環境を与えてあげたいと思うもの。しかし、その環境とはどういうものなのか、じっくり考えたことはありますか。今回は、娘さんが好きなことに取り組めるよう、中学受験をして環境を整えたつもりが、状況が変わり始めたことに悩む親御さんからのご相談。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生が回答します。

 

「バレエ専念のため中学受験したのに…『学校を辞めたい』と言う子の心理」P1
「バレエ専念のため中学受験したのに…『学校を辞めたい』と言う子の心理」P1

【Q】習い事と学校生活のバランスが…

娘が大好きなバレエを6年間のびのびとやらせてあげたいと思い、中学受験をし、私立の学校に通わせています。しかし、学校に通い始めて数か月たった頃「学校を辞めたい」と言うように。バレエがあるので、中学では学校の部活に参加しないことを選んだのですが、それがために学校で友達ができず、疎外感を感じてしまっているようです。

 

ほかの友達は、部活の仲間と集い、友達と一緒に下校したり、学校帰りにカフェで勉強したりと学校生活を満喫しているようですが、娘はバレエがあるのでできません。せっかく好きなことをのびのびさせようと思ったのに、こんなことになるとは…。親としてどうしたら良いかわかりません。娘になんとアドバイスをすれば良いのでしょうか?

お子さんの「自分理解」のサポートを

人は成長する過程で、自分の立ち位置や友達関係、親子関係などを見つめ直し、自分というものを再発見していきます。それが、いわゆる思春期です。

 

中学に入った頃はまさに思春期の入り口であり、小学校の頃とは全然違うことを言ったり考えたりするようになるのは当然なこと。ご相談者様には、娘さんの成長をわかってあげてほしいなと思います。

 

そのうえで、娘さんが自身を客観視し、自分の気分や気持ちを説明できるよう、お手伝いをするのがよいと思います。「学校を辞めたい」とおっしゃっているようですが、自分のことを客観的に見つめられていない状態で行動を決めてしまうのは非常に危険。絶対後悔しますので、疎外感とはどういう心理から生まれているのか、自分はどういった人間関係を望んでいるのかなど、娘さんが自分のことを理解できるようなサポートこそが今必要なことです。

 

専門的な知識をもとに「あなたの今の成長は、こういうことらしいよ」と伝えてあげる、あるいは心理学の入門書などを親子で一緒に読むのもいいですね。

 

そのためにもまずは親御さんが、ホルモンの変化や社会性といった思春期についての学術的な知識を持たれることをお勧めします。たとえば、厚生労働省のe-ヘルスネット「     健やか親子21」のページ「思春期のこころの発達と問題行動の理解」などのウェブサイトや、心理学や精神科の先生方による著書など、思春期を迎えた子どもの向き合い方について学べるツールはたくさんあるので、ご覧になってみてください。

 

私が主催する子育て講座の参加者によくご紹介している『こころキャラ図鑑』(西東社)もおすすめです。感情にキャラクターをつけて説明している本なのですが、「自分の気持ちはどれに近いかな?」と言って見せてあげると、娘さんも自分の感情に向き合いやすくなるのではないかと思います。

「のびのびやらせてあげたい」を改めて振り返る

もうひとつ、「友達とは何か」というテーマについてもゆっくり語り合ってあげてほしいなと思います。

 

友達とは、共通の話題があれば楽しいし、同じ空間を共有するにも心が通じ合いやすい。しかし、ただ一緒に時間や場所を共有する関係ばかりではなく、同じ目標に向かって頑張り合って認め合う関係もあります。

 

また、それぞれに頑張りたいことがあり、違いがあるからこそ認め合える人間関係も成長していくうえで大事ですよね。一生の友達というのは、そういう関係性である場合も多いものです。だから、「たくさんの友達を持つ必要はなくて、1人でも2人でもわかり合える関係ができたらいいね」と伝えてあげるとよいと思います。

 

友達からどういう人だと思われたいのか、どう扱われたいのかも聞いてあげましょう。中学校に入って寂しさを感じたのはどういうときだったか、友達と一緒に下校することはどううらやましいのかなど、一つひとつ聞いてあげてください。

 

注意点としては、考えを押しつけたりしないこと。「あなたが自分自身のことをわかることが大事だと思っていて、そのお手伝いをしたいから教えてね」と伝えて安心させてあげましょう。

 

そしてもうひとつ、大好きなバレエを「のびのびやらせてあげたい」とのことですが、受験当時、どういう状態が「のびのび」であると思ったのか、親子それぞれに今一度振り返ってみてほしいと思います。

 

多くの時間をバレエに費やしたい、納得できるまで取り組みたい、同志たちと表現活動に没頭したいなど、いろいろ考えられますが、いずれにせよ今は、イメージしていた「のびのび」に対する納得感が十分でないから学校での疎外感が気になり始めているのでしょう。

 

思春期も相まって、バレエに対する思いそのものも娘さんのなかで変化してきているのではないでしょうか。バレエについても今どう感じているのか、親御さんはご自身の願望や期待をいったん横に置いて、娘さんの本心を聞いてあげる必要がありそうです。

 

こうしたコミュニケーションを取ることで、今後の中学生活や高校生活をどう送りたいかという対話も深まっていくのではないかと思います。

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!