3人の子を育てるシングルマザーだった馬場加奈子さんは、チラシ配りのアルバイトや、保険会社の営業職を経て、39歳で子どものための学生服リユース店「さくらや」を立ち上げました。「売り上げより子ども優先」の体制を貫き、育児と仕事の両立を目指してきた馬場さんに、昨年、更年期による体調不良が襲いかかります。さまざまな難局を乗り越えてきた馬場さんが、今考える女性の働き方とは。(全4回中の4回)
退職したら子どもがよく喋るように
── さくらやでは、「10~15時の短時間営業」や、「子どもの体調や行事優先」を掲げていますが、売り上げへの影響はありませんか?
馬場さん:経営者として売り上げも必要ですが、母として子どもとの時間を優先したかったんです。以前は保険会社で朝から晩まで働いていましたが、退職して家にいる時間が増えると、子どもたちがよく喋るようになりました。
「子どもって、ママに話を聞いてもらいたいんだ」と思うと同時に、「子どもは成長して、いつか私の元から離れてしまう」と気づいて。そのとき、「限りある子どもとの時間を最優先にできるビジネスをしよう」と決意しました。
── お子さんたちは、馬場さんと話がしたかったんですね。
馬場さん:シングルマザーになったばかりの頃は、お金に困る毎日でした。でも、思い返せば、子どもの誕生日にみんなで小さなケーキをちょっとずつ分けて食べた、あのときが幸せだったなと。子どもはいつか親元を離れていきます。そう思うと、子どもたちが学校から帰ってきたときに「おかえり」って言える環境で仕事をしたかったんです。
育児とキャリアの狭間で悩むママたちへ
── 私も今、育児のために仕事をセーブしています。でも、フルタイムで働くママを見ると、経済面でもキャリア面でも「このままでいいのかな」と思うこともあって。フルタイムで働くママも、育児とキャリアの狭間で悩みを抱えていると聞きます。
馬場さん:バリバリ働くか、セーブして働くか、どっちが正解なんて、きっとないですよ。今は手軽にいろいろな情報が手に入る時代だけど、周囲の情報にママが振り回されてしまうと、子どもも周りに流される子になってしまうんじゃないかな。
ママたちは、自分が正しいと思う道を突き進んだらいいと思います。
── すごく心に響きます!「自分の思った道が正解」ということですね。
馬場さん:そうそう!ママそれぞれが、自分のなかで優先順位をつけて、正しいと思う生き方が、本人だけでなく家族にとっての正解だと思います。
── 今はどのような生活をされているのでしょうか?
馬場さん:今は、香川県に私の母と長女がいて、東京には私と末っ子の家と、夫の家があるので、三拠点生活です。
昨年再婚して名字が変わったんですが、公的書類はもちろん、仕事の書類も新しい姓に変更しなきゃいけなくて、本当に大変ですね。結婚して1年経ちましたが、まだ変更漏れの書類が届くんです。早く夫婦別姓が認められたらいいなと思います。
更年期障害になり見つめ直した働き方
── 昨年といえば、更年期障害で体調を崩されていたと伺いました。
馬場さん:他人事だと思っていたのですが、昨年51歳で更年期障害になってしまって。食事も作れないほどぐったりしていましたよ。今は週3回のホルモン注射に通ってずいぶん良くなりましたが、改めて女性の働き方について考えないといけないと思いました。
── と、いうと?
馬場さん:50代で更年期障害になる可能性を視野に入れて、30~40代の間に自分がいなくても仕事が回る体制や、周囲が手を差し伸べてくれる環境をつくっておくべきだと思います。
更年期障害の症状って人によりますし、怪我みたいにひと目で分かるものじゃないですよね。だけど、当事者はすごく辛いんです。更年期障害で、せっかく積み上げてきたキャリアを手放した友人もいますが、本当にもったいない。働く女性が増えている今、更年期障害への社会の理解も必要だと思います。
── 育児や起業、再婚や更年期障害を経験して、馬場さん自身は今後どのような働き方をしようとお考えですか?
馬場さん:いつまでも現役というわけにはいかないので、8年ほど前から引退の仕方を考えていて。今は東京で、さくらやを引き受けて継続してくれるビジネスパートナーを探しています。かつてはなかった制服のリユースビジネスですが、今ではなくなると困る子どもたちがいるので、私の引退でなくすわけにはいきませんね。
並行して、障がい者や高齢者、マイノリティの人が活躍できる施設づくりにも取り組んでいます。障がい者の就労支援施設をつくって、そこでさくらやの活動をしながら、地域コミュニティを循環させたいです。
PROFILE 馬場加奈子さん
香川県生まれ。シングルマザーとして3人の子どもを育てるなか、制服の購入に苦慮した経験から、2010年全国初の学生服リユースショップ「さくらや」を開業。育児優先の企業姿勢が評価され、ウーマン・オブ・ザ・イヤー子育て家庭応援ビジネス賞他、受賞多数。知的障害のある長女の子育て経験から、マイノリティの居場所づくりにも力を注ぐ。
取材・文/笠井ゆかり 撮影/二瓶 彩 画像提供/馬場加奈子