誰もが自分にとって頼れる人とつながれる社会の仕組みを実現するため、2020年3月に24時間のチャット無料相談「あなたのいばしょ」を始めた大空幸星さん。子どもの自殺が増加傾向にある今、わが子が悩みを抱えたときに親としてできること、また生きる意味についての大空さんの思いとは──。(全3回中の2回)

 

 ※本記事は「自殺」などに関する描写が出てきます。ご体調によっては、ご自身の心身に影響を与える可能性がありますので、閲覧する際はご注意ください。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

デジタルネイティブ世代はチャットと相性がいい

──「あなたのいばしょ」には子どもからのチャット相談も多いそうですが、特に小中学生はまだ言葉の理解や表現自体が幼いですし、相手が言ったことを誤解してしまうこともあるのではないかと感じますが…。

 

大空さん:誤解を恐れずに言うと、子どもがチャット相談することに対して大人が心配しようがまったく関係ありません。

 

今の子どもたちは、生まれたときからスマホやSNSがあります。大人よりも断然テキストコミュニケーションが上手なんです。子どもたちにとって、電話よりもSNSのほうが使いやすいことはデータでも明らかになっています。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん
今年9月、慶應義塾大学総合政策学部を卒業した大空さん。孤独対策をテーマにした卒論は優秀卒業プロジェクトに選ばれた(大空さんのTwitterより)

とはいえ、対面の相談と比べると、当然テキストコミュニケーションならではの難しさはあります。息づかい、声のトーン、表情など非言語情報がないので、相談員が想像力を働かせながら、相談者が置かれた状況や悩みの本質を把握するためには一定以上のスキルが必要です。

 

「あなたのいばしょ」にいる700名以上の相談員はボランティアですが、だからこそ全員がとても厳しい選考や研修をクリアしています。

 

── 言葉の受け取り方で誤解が生じないように相談員の方は訓練をしているのですね。

 

大空さん:相手に伝わりやすい表現を子どもたちは自然と身につけていて、相談員は研修でこれらを習得しています。たとえば「大丈夫ですか。」という言葉なら、「大丈夫ですか。。」と句読点を増やすだけで、心配している気持ちがより伝わる気がしませんか。

 

また、虐待を受けている子どもからの相談も毎日受けますが、「児童相談所へ行ってください」とは絶対に言いません。そういう言葉を求めて相談しているのではないとわかっているので。

 

「好きな音楽は何ですか?」など、まずは話しやすい話題から会話を積み重ねていき、信頼関係をつくりながら必要に応じて自治体の支援につなげるようにしています。

「死にたい」と追いつめられる背景にあるもの

── 子どもたちからの相談で、最近の傾向といえる特徴はありますか?

 

大空さん:1日1000件以上の相談があるので、ひとつに絞るのは難しいのですが、みずから命を絶ちたいという相談が圧倒的に増えています。

 

自殺を考えるまで追いつめられる人の気持ちは重層的です。死にたいと思う要因は、友達関係、部活の顧問との関係、進路などさまざまで、ひとつに特定はできません。いろいろな要因や気持ちが積み重なった結果、死ぬという選択肢以外が見えなくなってしまうんです。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」の大空幸星さん

ちなみに、いじめによる自殺は全体の1~2%ほど。なのに、世間ではいじめの対策ばかりが注目され、そのほかの99%の理由については見向きもされません。

 

いじめが原因で自殺して亡くなる小中高生は1年間で数人ですが、恋愛関係の悩みが原因で亡くなる子は年間で約20人(※)。いじめによる自殺より多いんです。でも、そういった原因を特定したところで、根本的な解決には結びつかない場合がほとんどです。

 

大事なのは、生きていくうえで悩みは必ず生まれるものと理解すること。そのうえで、悩みを抱えた時点でしっかり吐き出せる人間関係があれば、重症化を防ぐことができるはずです。

「自分はなぜ悩んでいるのか」わかっていない子が多い

── 何かで悩んだときはまず、その気持ちを誰かに吐き出したり、頼ったりすることが大事なんですね。

 

大空さん:はい。最近の傾向としても言えるのが、「死にたい」と追いつめられる要因を本人自身がよくわかっていないケースがとても多いこと。

 

実際、29歳以下の自殺の場合、3人に1人が原因不詳です。遺書も残していなければ、家族や周囲が原因を何も把握できていないなかで命を絶っているんです。

 

「あなたのいばしょ」にも、いじめや友達との関係で悩んでいるわけでもない、先生と仲が悪いわけでもないのに「死にたい」という声が寄せられます。

 

もちろん、話を聴いていくうちにさまざまな原因があることがわかるのですが、本人は気づく余裕がないくらい追いつめられてしまっています。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」の大空幸星さん
落ち着いた受け答えが印象的な大空さん

── もし自分が追いつめられたら、客観視できる余裕なんてないような気がします。

 

大空さん:チャット相談がこれだけ必要とされるのは、自分の思いを自分のペースで書き込んでいけるからです。対面や電話だと相手に気をつかって本音が話せなくなる場合もありますが、チャットなら思ったことを吐き出せます。

 

何に悩んでいるかわからないという人も、相談員とやりとりしながら自分のチャットを読み返すうちに悩みの原因がわかり、「すっきりしました」と言ってくれる人もいます。チャットでのコミュニケーションは、物事や悩みを客観視することを手助けする効果もあるんです。

死にたい子どもには「死んじゃダメ」が一番ツラい

── わが子がもし「死にたい」と口にしたら、親はショックを受けて「そんなこと言っちゃダメ」と責めてしまいそうです。

 

大空さん:親が「大事なわが子に死んでほしくない」という気持ちになるのは当然だと思います。

 

でもやっぱり、死にたいと思うことも苦しみから抜け出す出口のひとつで、その選択肢を完全にふさいではいけないということも理解してほしい。

 

死にたいと思うほどまでに追い詰められている子どもにとって、「死んではいけない」という言葉がいちばんツラいんです。 

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

親は子どもに、「すべてを受け入れてくれて、いざとなったら頼れるかもしれない」という安心感を与えることが大事だと思います。

 

ただ、親がわが子の悩みを根本から解決すべき、というわけではありません。生きていくうえで悩みは日々生まれるものであり、親がすべてに介入することは無理なんです。

 

大事なのは、親が子どもにとってのセーフティネットになることです。そのためにも子どもの話を普段から聴くことを大事にしてほしいですね。

厳しい状態の子どもをスマホから見つけ出す

── 自分の子ではなく、近所の子どもに何か異変を感じたときなどにできることはありますか?

 

大空さん:本当は声をかけてほしいですが、今の時代は声をかける側のリスクもありますよね。

 

よく「子どものサインに気づこう」と言われますが、まわりの人がSOSサインに気づいて声をかけるのは思っているより難しいことです。気にかけていた子が万が一、最悪の結末を迎えたとしたら、後悔の念を一生抱くことになってしまうかもしれません。自分の心を犠牲にしてはいけないと思うんです。

 

地域の子どもたちに大人が声をかけられる状況は目指すべきですが、その手前の仕組みとして、メンタル的にツラい状況にある子どもたちをスマホの使用状況などから見つけ出し、支援につなげていくことが必要なのではないかと思っています。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん
自身も日々、チャット相談を受けるという

「生きる意味」なんてなくていい

──「死にたい」と言う子どもたちのなかには、自分が生きる意味を見つけられないで苦しんでいる子どももいると思います。大空さんは、生きる意味とは何だとお考えですか?

 

大空さん:生きる意味なんてなくていい、と思いますね。しいて言えば「生きている行為そのもの」だと。

 

悩みは自分自身が考えて作り出している状態に近いんです。だから、何も考えない。頭をからっぽにしてもいいと思う。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

そもそもないものをあるように見せかけるのが今の人間社会です。だって、ほかの動物は、ご飯を食べて寝ているだけで、多分生きる意味なんて考えていない。人間は頭がよすぎるから「生きる意味ってなんだろう」と考えてしまう。でも、もう少し本能に従って生きることも大切だと思います。

 

ご飯を食べて、寝る、次の日も、その次の日も。本来はそれが当たり前の生きる意味だったと思います。もし、「生きる意味がない」と悩んでしまっているなら、動物の姿を思い浮かべてみてほしいです。

 

PROFILE 大空幸星さん

NPO法人あなたのいばしょ理事長。1998年、愛媛県松山市出身。2020年3月、慶應義塾大学総合政策学部在学中に24時間365日、誰でも無料匿名のチャット相談窓口「あなたのいばしょ」(@ibashochat)を設立。著書に『望まない孤独』『「死んでもいいけど、死んじゃだめ』と僕が言い続ける理由』がある。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/あなたのいばしょ 撮影/河内 彩

(※)文部科学省 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議「子供の自殺等の実態分析」P6(平成26年7月1日)より