慶應義塾大学在学中に、24時間365日匿名OKのチャット無料相談「あなたのいばしょ」を立ち上げた大空幸星さん。自身の体験から生まれた「望まない孤独をなくしたい」という強い想いをもとに、精力的な活動を続けています。小中高生からも多くの相談を受けるという大空さんに、不登校の子に対して親ができることは何か、お話を聞きました。(全3回中の1回)

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

第三者の「学校に行かなくていい」がもたらす影響

── もし、自分の子どもが「学校に行きたくない」と言い出したとき、親はどんな言葉がけをすればいいのでしょうか。「学校には行かなくてもいい」という声も聞きますが、大空さんはどうお考えですか?

 

大空さん:いじめが原因で、学校に行くことが苦しい子どもに対しては、学校に行かない選択もあると思います。

 

ただ、いじめ以外の理由の場合、親は「学校に行かなくてもいい」と子どもに言う権利はあると思いますが、まったくの第三者の大人が言ってしまうと、真に受けて本当に学校に行かなくなったときに、その子どもの将来に大きな影響を与えてしまうこともあると思っています。

 

学校に行かないことで望む進学ができなくなり、就職や結婚もできない。40歳、50歳になっても社会に出るのが怖くて引きこもってしまっている大人がたくさんいます。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん
大空さん自身も、チャット相談で子どもたちの悩みと向き合っている

不登校の小中学生の人数は増加傾向にあって、現在、過去最多となっています(※)。出生数が減っているなかでこの傾向は大きな問題だと思います。

 

「学校には行かなくてもいい」という第三者の言葉は、不登校の子どもたちの、例えば進路の選択肢がまだ十分に確保されていない状況では、子どもを社会から孤立させてしまう恐れがあります。

 

子どもが学校に行かない選択をしたことで将来に大きな影響が及んでしまったとき、言葉をかけた人はその責任を取ることができません。そういう立場の第三者が言ってはいけない言葉だと思っています。もし周囲からそう言われても、親は慎重に考えてほしいです。

本人の気持ちがラクになる方法を丁寧に探っていく

大空さん:「あなたのいばしょ」への相談にも、「学校に行きたくない」という子どもの声は多く寄せられます。ただ、背景を聞いてみると、「部活の顧問にこんなことを言われたから明日は学校に行きたくない」「担任の先生がすごく嫌で、朝になるとお腹が痛くなってしまう」と、その多くが人間関係からの悩みなんです。

 

── やはり人間関係が原因なんですね。

 

大空さん:まずはその人間関係のもつれを解消していくことを前提に、子どもの悩みに向き合うことが必要です。学校生活をどうすれば続けられるのか。保健室に通うなど、僕たちも相談窓口で提案しますが、自分が何に悩んでいるのかすらわからずに苦しんでいる子どもたちが多いのが実情です。

 

そんな苦しい状況のなかで気持ちがラクになる方法を提示していくことは、実は根源的な悩みと向き合うことにもなります。そんな関わり合いができる大人がもっと増えていくといいのですが。

 

大空さんの出身地・愛媛県でおなじみの「ポンジュース」
大空さんの出身地・愛媛県でおなじみの「ポンジュース」。取材日には事務局の方から取材チームにふるまわれた

── 大人は、子ども本人の気持ちが少しでもラクになる方法やきっかけを提案していくことが大事なんですね。

 

大空さん:当然、子どもの居場所は学校だけとは限りません。でも、今の子どもたちにとって、やはり学校は大きな存在です。学校生活を続けることを前提とした解決の方法を考えていく必要があります。

 

なるべく多くの選択肢を提示することが大事で、学校に行かないというひとつの選択肢だけに子どもを導いていくことは避けたほうがいいと感じています。

常に子どもの味方だと言葉や態度で示す

── では、学校に行けなくなった子どもに親はどんな気持ちで接すればいいのでしょうか。

 

大空さん:親が子どもに「学校に行かなくてもいい」と言うことで、子どもの気持ちがラクになって学校に行けるようになったケースはたくさんあります。

 

そうでない場合、子どもの悩みを解消していくためにどんな言葉をかければいいか悩むことが多いと思います。ただ、常に子どもの味方であることは言葉や態度で本人に伝えてほしいです。

 

子どもの意思を尊重しながら、正面から向き合って話を聴いてほしいですね。“傾聴”と言っていますが、もし子どもが話したいと思ってくれたときには、子どもの話を全部受け止め、肯定して、認めてあげてほしいです。

 

「それは違うよ」などと否定したくなる瞬間もあるかもしれません。でも、そこはグッとこらえて、子どもの本意がどこにあるのか、思いをめぐらせながら話を聴く。そうしたうえで言葉をかけます。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

子どもからすると、一度にすべてを話すのは難しい場合もあるので、回数を重ねてもいい。普段からの積み重ねが話しやすい環境をつくっていくはずです。その積み重ねによって、いざというときに親に頼ろうと思ったり、アクションを起こせたりするのではないでしょうか。

親の心の余裕が子どもにも影響する

── 子どもにとって、親が頼れる存在になれると心強いのかもしれませんね。

 

大空さん:親は、子どもに頼ってもらうためにも、まずは親自身がひとりで抱え込まないようにして、自分も信頼できる誰かに頼ることを心がけてください。親の気持ちに余裕がなければ、子どもの話を正面からしっかりと聴くことはできません。

 

子どもの不登校や引きこもりに悩むお母さんやお父さんに話を聞くと、親自身がうつのような状態になっている人も多いんです。親の心の余裕が、最終的には子どもにも影響を与えますから。

 

共倒れにならないために、親子関係ではあるけど「子どもも他人」だと思ってみてほしい。子どもには子どもの人生がある、自分とは別の人間、という考え方です。

 

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

日本では特に「すべてを犠牲にして子どもを愛すべき」という母親像が社会で根強くありますが、親だけで引き受けるのは難しいものです。

 

僕たちは、相談者から悩みを聞くときに、「本気の他人事(ひとごと)」という姿勢を心がけています。親御さんは他人事というわけにはいかないかもしれないけれど、たとえば家事代行サービスなど生活をラクにするものなどもうまく活用して、「親としての責任」と思い込んでいるものを見直し、手放せるものは手放してもいいと思います。

 

PROFILE 大空幸星さん

NPO法人あなたのいばしょ理事長。1998年、愛媛県松山市出身。2020年3月、慶應義塾大学総合政策学部在学中に24時間365日、誰でも無料匿名のチャット相談窓口「あなたのいばしょ」(@ibashochat)を設立。著書に『望まない孤独』『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由』がある。

 

取材・文/高梨真紀 撮影/河内 彩

(※)文部科学省「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」P3より