「何だ、あれ?」「ウケるんだけど!」。一度見たら忘れない、全長150センチもする巨大マグロ型リュックを背負って新幹線に乗り込む男性。「狙ったわけでなく、苦しい事情があって」とは本人の談。いったい何者なのでしょうか。

 

てんとう虫も魚型も!ユニークなカバンをつくりまくる川本さん

“巨大マグロ”リュックを背負って新幹線で東京へ

── 魚のカバンがSNSで人気のカバン職人『かばんばか』の川本有哉さん。巨大な“マグロリュック”を背負った写真が大きな話題になりました。

 

川本さん:サラリーマンをやめてカバン職人になり、しばらくフルオーダー受注でカバンを作っていましたが、初めて自分のアイデアで作ったのが普通サイズのマグロリュックです。

 

それがいくつか売れたので、大きくしてみようと全長150cmサイズのものを作ったのですが、全然売れなくって(笑)。

 

京都の工房で制作していますが、東京で展示会があり、皆さんに巨大マグロリュックを見てもらいたくて。

 

でも、送料だけで往復5~6万円するので、新幹線にそのまま僕が背負って乗ったんです。カバンなので、荷物を入れて持ち運べますから。

 

ふつうサイズのマグロリュックの裏側は骨!

東京駅から在来線や徒歩で移動していると、いろんな人に声をかけられて(笑)。狙ったわけではないのですが、結果的にSNSで話題になりました。

 

── いろんな人が背負ってみた写真もSNSに投稿されていますね。その後、どなたかが買い求められたのでしょうか?

 

川本さん:それが皆さん背負ってはみるのですが、結局、売れませんでした。

 

背中部分には岡山のデニム生地を使い、ファスナーで三枚おろしにできるようにして、中は赤身にするなどの力作だったのですが…。

 

各地に背負って行ったので使用感とともに愛着が沸き、自分のお気に入りのカバンとなり僕が使っています(笑)。

 

── お値段も気になるところですが。

 

川本さん:通常サイズのマグロリュックが35000円。巨大サイズは、その10倍以上の素材を使っているのに、少しお得な35万円。重さは3.5kgで軽量化もバッチリです。

中学生から80代まで「お客さんもワクワクしてくれる」

── たくさんの人たちと交流できて巨大マグロリュックも本望ではないでしょうか。SNSでは、「お気に入りの子をぜひ釣り上げてください」「(物を入れて使って)私物を食べさせてあげてください」と、楽しそうなやりとりにお客さんもノリノリです。

 

川本さん:皆さん、一緒に楽しんでくれています。水族館に連れて行ってくれる人や、ミゾレウミウシリュックを背負って鹿児島のウミウシ水族館を訪問した人も。

 

── 川本さんの世界観とマッチしていますね。購入されるのはどんな人たちでしょうか?おしゃれな若者が多いですか?

 

川本さん:中高生から84歳の方までいらっしゃって男女半々、いろんな方々がいらっしゃいます。

 

テントウムシなど魚以外のものも!

ただ「人生を楽しみたい!」「いつまでも楽しいものに囲まれてワクワクしたい」人たちが多いですねぇ。

 

SNSで購入後の様子を見たり、展示会でお会いして喜んでくださっている姿を見ると「やっていてよかった!」「ひとりよがりじゃなかった!」と、心から思います。

大量生産より使う人の顔が見える範囲で続けたい

── 売れるのは、川本さんの企画・アイデアが支持されている証拠ですものね。制作時に考えていることは?

 

川本さん:機能性や品質はもちろんですが、まずはおもしろいかどうか。カバン作り以外でもすべてこの評価軸です。

 

もともとおもしろくないことは続けられない性格。勉強をふくめて、根性、忍耐が必要なことは苦手で続かない。

 

自分でも問題だとわかっているんですけれど…。でも本当に好きなことなら、苦もなく続けられますよね。だから、自分の感覚に正直でいたいなぁと思います。

 

── おもしろいかどうか、すなわちワクワクするかってことですよね。ちょっと聞きづらいのですが、これだけ売れていると模倣品も出てくるのではと心配になります。

 

川本さん:それは実際にありますね。うーん、「すごくおもしろくない」ことをしているなぁと思います。

 

可愛らしいメンダコのポーチ

真似するだけでは、カバン業界としてまったく前進してないのと一緒です。真似して作っている人も楽しくないでしょう。

 

僕の“海の生き物たち”カバンから刺激を受けて、もっとおもしろいカバン作ってよ!って思います。

 

── 販売すると即売り切れる状態が続いていますが、もっと販売個数を増やしたいとは?

 

川本さん:僕ひとりで作っているので単純に生産量が少ないんです。いまのところ人を雇うとか、会社を大きくすることは考えていません。販売もウェブや展示会での直販のみです。

 

自分じゃない誰かの手を借りてまで大量生産して、会社を大きくして経営者として判断・行動するのは、いろいろ考えることが増えて、性格的にワクワクできない気がして。

 

僕の作ったカバンを、一緒に喜んで使ってくれる人たちの顔が見える範囲でやっていきたいですね。

 

ワンちゃんバッグは耳の部分がユニーク

── お話をうかがっていると、ビジネスとは違う次元なのかもしれないと感じます。最後に、川本さんにとって“カバン”とは?

 

川本さん:うわー、難しいなぁ(笑)。服は、みなさん毎日着替えますよね。でも、日常使うカバンって、人によっては毎日、四六時中一緒だったりする。

 

それって、自分の人生にすごく影響を与えるものじゃないですか?だったら納得できる、好きなカバンを持ってほしい。

 

もちろん長く使ってほしいし、どんなときも一緒に人生を彩る存在になれば。そんなカバンを作り続けたいです。

 

PROFILE 川本有哉さん

大阪府出身。会社勤務経験後、カバン職人に弟子入りし2020年2月屋号「かばんばか」として独立。4月16日、『海の生き物、カバンになっちゃった展』オンラインショップ限定版を開催、人気の海の生き物シリーズを一斉再販。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/かばんばか(川本有哉)