「肉どんぶりのリュックを作って!」。焼肉好きのお客さんからのぶっとんだ依頼。どんな依頼も断らないカバン職人の川本さんは、自らデザインしたユニークな魚型のカバンが話題でほとんどが即完売に。“面白いだけでない、物づくりへの思いもあふれていました。

 

なんて肉肉しい色合い!「肉丼リュック」のネギのこまかさよ!

焼肉ロースター形のカバン?意味わからん依頼に…

── 川本さんが作る魚のカバンには熱心なファンが多いようですね。職人としての独立当初は、お客さんの希望に応じてデザインしたカバンを作っていたそうですね。

 

川本さん:最初の2年間は、フルオーダーのカバンを作りました。フルオーダーというと本革の高級バッグをイメージされる方もおられるかもしれませんが、僕が作ったのは「焼肉ロースター」とか…。

 

──「焼肉ロースター」!?カバンのオーダーですよね?

 

川本さん:兵庫の焼肉屋さんから「焼肉ロースター」を作ってほしいと頼まれて(笑)。炭火燃えさかるロースターにコインケースの牛肉をつけて、裏返したらうまい具合に焼けているポーチにしました。最初「予算このくらいです」と言ったら、「じゃあ2個頼むわ」って即決(笑)。

 

焼肉ロースターポーチの上には焼肉キーホルダー。裏返すと食べごろに

── ユニークな発想ですね。突拍子もないアイデアをデザイン化するのは難しいけどやりがいを感じられるでしょうし、川本さんのセンスが光ります。

 

川本さん:そうそう、自分では思いつかない発想だからおもしろい。広島の方から広島名物「肉まぶし(肉どんぶり)」バッグを作って、と言われたこともあります。

 

“意味わからん”って思いながらも、お肉敷き詰めてネギのせたら美味しそうやな、どんぶりをリュックにして中を開けたらお米が出てきたらいいな…と、どんどんイメージがわきました。

 

── 依頼される方は、他にはない自分だけのオリジナルカバンを求める。川本さんは、そのオーダーを面白がりながら制作する。皆さんのこだわりにびっくりです!

 

川本さん:「僕は神社になりたい。神社には鳥居が必要だから、鳥居を背負って歩きたい」という方もおられて。ホームレス小谷さんっていう、実際にホームレス生活をしている元芸人さんです。

 

カバン職人として独立当初のため、僕はお金がないのでカバンを作り、小谷さんには「かばんばかのPRをしていただく」という“物々交換”をしました。

 

ほかにも、  酸素ボンベを入れるバッグや歩行器につけやすいバッグ。既存のものはおしゃれじゃないから、明るくてかわいいデザインを、と。これはユニバーサルデザインについて考えさせられましたね。

 

それから銭湯バッグ、胃バッグ、合掌バッグ、レトロテレビバッグ…、これまで500個以上のユニークな依頼を、一度も断ったことがありません。

 

オーダーを受けて制作したレトロテレビリュック

世の中にある“高級バッグ”は、すでに先人が作っています。僕が作っておもしろいと思うものは、オーダーを受ける段階では、作れるかどうかわからないものも多いです。

 

というか、ほんまに「意味わからん」だらけ(笑)。だからこそ、イメージから考えてデザインに落として作り出す工程がすごく楽しい。魚のカバンを作りながら、いまもフルオーダー受注は続けています。

マグロのカバンのファスナーは「三枚おろし」のイメージで

── フルオーダー受注に奮闘されていましたが、自分のアイデアでカバンを作ってみたいと思われたのはなぜでしょうか?

 

川本さん:お客さんの希望を聞いていると、僕ならこうしたいという部分が出てきました。でも、お客さんが第一。

 

じゃあ自分の作りたいバッグを作ってみようと、なんとなくマグロリュックを作ってみたんです。当時は、とくに「魚のカバン」を作り続けるつもりはありませんでした。

 

── マグロリュックは再販を重ねるほど大人気ですよね。販売方法もマグロの競り落としを再現、「競り後は、産地直送で送ります」のコメントがウィットに富んでいます。購入者も「初競り落とせました!」とSNSでつぶやいたり、とっても楽しそう。

 

川本さん:マグロバッグのファスナーは三枚おろしになるイメージで、口のファスナーをあけるとエンジ色の裏地が見え、まるで魚の口の中。

 

マグロリュックの表側

バッグを裏返したら、食べた後の骨状態になります。ご飯屋さんに行って、食後に「食べ終わったよ」の合図として裏返す人がいたり、水族館に連れて行ったりと皆さん楽しんでくれています。 “マグロのカマ”ポーチも好評です。

 

── こだわりがつまった作品ですね。ほかにも、チョウチンアンコウ、シャチ、サメなどを制作されていますが、アイデアはどこから?図鑑などを参考にされていますか?

 

川本さん:「カバンにしたらおもしろそうかどうか?」が、すべてです。図鑑を見たり、水族館に行くこともありますが、見すぎないようにしています。

 

「本物そっくり」を追求するとぬいぐるみや標本になってしまいます。

 

マグロバックも実際のマグロと違って尾ひれがないのですが、バッグとしての機能性と皆さんが抱く“マグロ”のイメージを大切にしています。

 

チョウチンアンコウだって、僕のイメージでのチョウチンアンコウです。本物を見たことないかもしれません。

ユニークさを追求しつつカバンのルールは守る

── 皆さんの描くイメージを大切にしつつ、あくまでカバンとしての使いやすさを最優先しているわけですね。

 

川本さん:はい、僕はカバン職人なのでカバンとしてのルールを守りたいです。

 

第一に機能性。持つ人の生活を想像しながら、ペットボトル、長財布、充電器などが一式入るサイズを心がけています。

 

素材は長持ちする本革、魚っぽい色を求めて兵庫県たつの市の革屋さんの特注品です。どこへでも背負っていってもらいたいので、軽さも重要ですね。

 

マグロバックは320g、ペットボトルより軽いです。革を薄くすいて軽くするのですが、薄すぎると強度が下がるので、ちょうどよいバランスを保てるよう設計。

 

デザイン面では、マグロの頬に芯材を入れて型崩れを防いでいます。

 

── 立体的で思わず背負いたくなるデザインと機能性の両立が人気の秘けつなんですね。今後も魚シリーズを続ける予定ですか?

 

川本さん:いやー、まったくわからないです。1年前は焼肉ロースターや鳥居を作っていましたから、今後はなんでしょうねぇ。ワクワクします。

 

PROFILE 川本有哉さん

大阪府出身。会社勤務経験後、カバン職人に弟子入りし2020年2月屋号「かばんばか」として独立。4月16日、『海の生き物、カバンになっちゃった展』オンラインショップ限定版を開催、人気の海の生き物シリーズを一斉再販。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/かばんばか(川本有哉)