「マグロ、背負ってるやん」。「サメ」「シャチ」などユニークな魚型デザインのリュックやカバンがSNSで話題です。制作するのは、サラリーマンを辞めて職人になった『かばんばか』の川本有哉さん。人の人生ってこんなに面白いのか、ワクワクする話が詰まっていました。

 

圧巻!“全長150センチ”マグロリュックを背負う姿が話題に!

裁縫もできないのに会社を辞めて職人に弟子入り

── 魚の形をしたカバンがSNSで話題を呼び、売り切れ続出のカバン職人・川本さん。「かばんばか」の屋号もインパクト大です。職人になるきっかけを教えてください。

 

川本さん:大学時代に「好きなこと見つからないなぁ」と感じ、たまたまインドに3週間行ってみたんです。行ったことないから面白そうやなって、思いついて。

 

せっかくインドに来たんだから、ドラクエみたいな扮装で、ターバンや布の服を巻きつけて旅しようとワクワクしていたら、現地では誰もそんな恰好してないし、扮装一式も売ってない。

 

残念、じゃあ自分で作ればいいか。服づくりには興味ないけれど、カバンは好きやったなぁって気づいたのが、いま思えばきっかけかもしれません。

 

── インドでカバン作りを!?

 

川本さん:いやいや、帰国後にインターネットや本で調べて独学で作ってみたんです。大学卒業後はカバンとはまったく関係のない業界のサラリーマンになり、仕事終わりや週末にひとりでカバンを作りました。

 

でも僕、家庭科の成績はずっと2で、縫い終わった糸に結び目を作る“玉止め”もあやしいレベル(笑)。当然、できあがったカバンは、ぬいぐるみみたいなぐしゃっとした失敗作ばかりでした。

 

斬新なサツマイモ型のボディバッグ

── 現在のカバン職人・川本さんからは想像もつきません。

 

川本さん:これはヤバい、誰かに教えてもらわないことには進まないと悟って、会社を退職して弟子入り先を探しました。

 

大学時代に住んでいた「京都」、そして「カバン作り」でネット検索して表示されたなかに、弟子を受け入れる元職人さんを見つけたんです。

 

職人になることを両親は驚いていましたが、“面白いことをしたい”軸で、これまでも生きてきたので、自分に正直に一歩ふみだしました。

 

自分が「いいな」と感じたカバンを、自分でも作れるようになりたかったんです。

最初は「新聞紙」を縫い続ける日々だった

── カバン職人の師匠はどんな方ですか?

 

川本さん:50年以上カバンを作り続けて、現役を引退した70歳代の方です。初対面で「カバンで食べていきたいんか?」と聞かれたので、「そうです」と答えました。

 

── 職人修行は大変でしたか?

 

川本さん:いや、それが毎日面白くて全然つらくなかったんです。好きなことを教えてもらっているわけですから。師匠はなんでも教えてくれました。ひとつ聞いたら、1から100まで全部答えてくれる。

 

師匠に恵まれましたが、僕の入る前後にいた弟子たちは、いろんな事情でやめる人もいました。

 

最初の1か月は、工業用ミシンを足で踏む練習をひたすら続けましたね。

 

制作したチョウチンアンコウポーチと使用した革

いまは電子制御のミシンを使っていますが、師匠のところのミシンは電子制御がついていないタイプのため、自分の足で操作しました。

 

「一針縫う、止める」を自分でコントロールできるようになるまで、新聞紙を縫い続けました。布だともったいないので。

お客さんのイメージをカバンに落としこむのが職人

── 玉止めもできない段階からのミシンは、ハードルが高いですよね。独立まではどのくらいかかりましたか?師匠の許しを得てから独立されたのでしょうか?

 

川本さん:僕は4年間です。師匠は「本人が技術に納得できたら、いつ独立しても良い」という考えでした。6年間修業している兄弟子もいましたし、期間は人によります。

 

── カバン職人として独立するために必要なスキルにはどんなものがありますか?

 

川本さん:技術面でいうと、デザインから仕上げまで自分だけでやれるようになることです。

 

お客さんや自分のイメージをデザイン化し、型紙に落として設計。適した革、裏地、芯材(クッション材)を選び、裁断。

 

革そのままだとぶ厚いので、薄くなめす“スキ”をへて革を貼りつけ、縫製へ。

 

カバンは物を入れて持ち歩く道具です。ただ形を作り上げるだけではなく、使いやすさや軽さ、そして強度が大切。

 

おやこふぐポーチとボディバッグ

軽くしようと“スキ”すぎると、強度が落ちます。芯材を5mm変えるだけで、カバンのカッコよさやかわいさに大きな差が出ます。これは、何度も試して経験で覚えるもの。

 

長く使用に耐え、どこへでも一緒に連れていってもらえるカバンを作るために、日々工夫を重ねています。

 

── 独立後はどんなカバンを制作されたのですか?

 

川本さん:ウェブやSNSで受注しながら、フルオーダーカバンを作りました。

 

“ふつうのカバン”ではなくて、“お客さんの想像や希望をカバン”にする、難しいけれどすごくワクワクする仕事です。

 

僕は、「面白いか、面白くないか」で人生を決めてきたので、この軸でカバン作りができてとても幸せです。

 

現在、自分で魚のカバンをデザイン・制作する際、フルオーダー受注でお客さんからのハチャメチャなオーダーにこたえた経験が活きています。

 

PROFILE 川本有哉さん

大阪府出身。会社勤務経験後、カバン職人に弟子入りし、2020年2月に屋号「かばんばか」として独立。4月16日に『海の生き物、カバンになっちゃった展』オンラインショップ限定版を開催、人気の海の生き物シリーズを一斉再販。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/かばんばか(川本有哉)