うつ病などで離職したケースで、社会復帰のために学び直しが有効な手段の一つとされています。IT技術者として請負先に派遣されるSESとして働いていた岸元佳菜子さん(仮名・32)はメンタルの不調で退職をした後、うつや発達障がいで離職した人の就労移行支援事業を行う「キズキビジネスカレッジ」で新たなスキルを獲得し、これまでとは違う職種で社会復帰を果たしました。どのような学びを経て、変化したのか伺いました。

日曜の夜は体が震えた

「今もときどき、過去を思って後悔することはあるけれど、やっと自分の人生を取り戻せたと感じています。過去の手帳を見たら、うつのとき『自分の人生を取り戻したい』って私、メモしていたんです」

 

そう話す岸元さん。IT系企業へ派遣される技術者として4年近く勤務していました。

 

勤務時間が月100時間を超えるようになり、次第に体調を崩すように。それでも職場に通い続けました。

 

「でも食べられないし、眠れないし。日曜の夜になると体が震え出すんです。明日、仕事に行くのが怖いと思うようになって」

 

そんな状態が3か月ほど続き、少しずつ職場に行けなくなったそうです。何とか残っていた有給休暇を使い、派遣期間を満了して仕事を辞めました。

ひたすら眠る日々

退職後は1か月ほど、ひたすら眠る日々を過ごしたと言います。病院に通い、うつの治療も受けました。

 

そんなとき、ネットで「就労支援」などと検索中に「キズキビジネスカレッジ」のコラムを見つけます。不登校児童の学び直しなどを支援している株式会社キズキが大人の発達障がい、うつ病などの支援を行っている学び直しの学校だと知りました。

 

「発達障がいやうつの人が学び直しをして再就職している場所があると知り、行ってみようと思ったんです」

 

うつ状態の人のイメージ写真

訪れた新宿御苑校の職員が丁寧に話を聞いてくれたことで、「ここなら大丈夫かもしれない」と受講を決め、心理学、トラブル対策、会計などの授業を受けました。

 

「印象に残っているのは、心理学の授業です。それまでは『こうしなければ』と思っていた自分の思い込みに気づいて、少しだけ考え方を変えられて、楽になりました。

 

自分はこうだと思い込んでいるけれど、相手は違うことを思っていることがあるんだと理解できました。ほかにも受講しているさまざまな環境の人と話して、楽しかったし、自分の考えを変えるきっかけになりました」

 

岸元さんは、前より柔軟に物事を考えられるようになり、周囲から「明るくなったね」と声をかけられたといいます。

 

キズキビジネスカレッジへの通学は最初は週3日でしたが、体力が戻るにつれて週5日に増やし、約1年通い、障害者手帳も取得しました。

生活リズムを取り戻した

就職活動を開始し、昨年秋にリース会社に障がい者雇用で採用が決まりました。

 

「新しい職場は働きやすい環境で、長く働けそうで良い印象があります。在宅勤務もあるので助かっています。今もときどき、過去のことを思い出して、なぜもっと自分が頑張れなかったのかなと後悔することもありますが、やっと生活リズムが取り戻せました」

 

今後は正社員を目指して勤務を続けつつ、子どもを授かりたいと考えています。これからは自分のペースで取り戻した人生を大切に、働いていくつもりだと言います。

 

「今、体調を崩している人はまずはゆっくり睡眠をとって欲しいです。どうしても眠れないときは医療機関に相談してほしいですね。そして、うつで離職したり、在職中に休職している方は、こういった支援機関で復職支援を受けることはとても有効だと思います」

 

考える人のイメージ写真

取材・文/天野佳代子 イメージ写真/PIXTA