感激を伝えてもらうことがパワーになる
── 田中さんは、ミニチュア教室を主催されていますが、講師業には制作とはまた違った喜びがありますか?
田中さん:そうですね。生徒さんに楽しく取り組んでいただくというのも喜びですし、上達していく様子を見るのももちろん幸せです。
だけど、単純にすごく嬉しいのは技法や手順を伝えたときに、「おお!」とか「こんなものがあるんですね!」「こんなふうにできるんですね!」とみなさん声を漏らしてくださるんですよ。それがすごくありがたいんですよね。
そういう喜びも含めて最近考えるのは、やっぱり日常でも「ごはんを作ってもらったときは、すごい! とか、美味しい! と絶対言ったほうがいい」ってことなんです(笑)。
── ああ。それは、とても共感します(笑)。
田中さん:ですよね。男性でも女性でもそうですが…たとえば奥さんに何かしてもらってもリアクションの少ない男性ってすごく多いと思うんですよ。それってダメだな、と。料理なんかは特に「おいしく食べてほしい」と思ってせっかく作ってくれているわけなんで、そこはちゃんと伝えたほうがいい。
感激を伝えてもらうのって、すごくパワーになりますから。SNSでいただくリアクションもまさに、そういうことですけれど。
ごはん一つをとっても、「美味しいな」と伝えるだけで、きっと作り手の明日の創作意欲はまったく変わるはず。声を出して伝えるだけで、世の中はどんどんものづくりに対して前向きになるんじゃないかなと思います。
リアルでもネットでも「楽しかったよ」「面白かったよ」「美味しかったよ」という言葉があふれる世界にしたいですよね。
── 作り手の“燃料”づくりを受け手が積極的に手伝うと、また新しいものが生まれるパワーになりますね。
田中さん:いやあ、本当にそうですよね。ものづくりをする人も増えるんじゃないかなと思います。ミニチュアだけじゃなくて、たとえば編みものでも切り絵でも木工でも。
ものを作るって、やっぱり人間に与えられた特権だと思うんですよね。ものを作るって、すごく前向きなことなんで。誰かに届けるため、喜んでもらうため、便利にするため、目的はいろいろですけど、良い未来のために手を動かす。
辛いなと思ったときでも、ちょっとしたものづくりをするだけで、気持ちが上向くんじゃないでしょうか。人生が少しプラスの方向に回っていく気がするんですよ。
ぼくは、ミニチュアと出会えたことを本当に幸せに思いますし、ものづくりを通して「生きてるな」と強く実感することができているので。教室でも、そのほかの発信でも、そういう人を増やせたらいいなと思っています。
主催する「ミニチュアアート展」は毎年恒例に
── 今年も、毎年恒例の「ミニチュアアート展」は開催される予定なのでしょうか?
田中さん:はい。2023年は12月ごろ、東京・銀座で開催する予定です。オンライン販売などは継続しつつ、新たな要素もたくさん用意して、前回来られたお客さんにも楽しんでもらえるような仕掛けを考えているところです。まだ1年ほど先ですが、楽しみにしてお待ちいただけるとうれしいです。
PROFILE 田中智さん
nunu’s house主宰。ミニチュアアーティスト。食べ物や雑貨など身近にあるものを題材に、リアリティを追求したミニチュア作品を制作。イベント「ミニチュアアート展」やミニチュア教室を主催するなど、ミニチュア市場の拡大にも尽力する。著書には『田中智のミニチュアコレクション』『田中智のミニチュアセレクション』など。
取材・文/中前結花 写真提供/田中智