「視線は冷たいが…」のあとに温かい寝具を紹介するニトリのCM。俳優・清水伸さんのコミカルな演技に、根強いファンも多い同シリーズCMは、今年で8年目に突入しました。映画・ドラマ・舞台と幅広く活躍してきた清水さんですが、このCMで認知されることも増えたと言います。本シリーズにかける思いについて聞きました(全4回中の2回)。
認知度が上がり意識にも変化が
── 季節の変わり目の風物詩、ニトリのCM出演での影響力などは感じていますか?
清水さん:
やっぱり「ニトリのCMの人」で顔を思い浮かべていただけるというのは俳優にとってはすごく武器だなと思います。
道端で「あ!」みたいなのはそれほどないのですが、たとえば食事をしたお店で会計時に「CM観ています」と声をかけていただくことは増えました。
食えない時代が長かったので、外食も豪勢な食事はそれほどしません。でも、蕎麦屋に入ってかけそばを食べた後の会計時に「俳優さんですよね?」と声をかけられたときは「天ぷらそばにしておけばよかった」なんて思ったりもします(笑)。
ありがたいことに子どもから大人まで幅広く楽しんでいただいているシリーズなので、お子さんへの影響も頭をよぎり、交通ルールはしっかり守って、横断歩道を渡ろうという意識は強くなりました。
ルールを守るのは当たり前のことなんですけど。見られているという意識の現れかな。
内容はどんどん体を張る系に
── シリーズを重ねるごとに、おもしろさが増しています。新CMが流れると、SNSなどでも話題になりますよね。「この季節が来たか…」と。
清水さん:
回を重ねるたびに内容がエスカレートしてますね。ご覧になっているみなさんもそうですし、監督、制作の人たちが期待して求めてくださる。結果どんどん体を張る系に(笑)。
頭からシャワーを浴びるシーンも、映るのは一瞬ですが、撮影では何十回と頭から水を浴びて…。キャンプで火を起こしていたら、火を起こしている棒が折れてズッコけるというシーンでも、あのズッコケは何十回もテイクを重ねています。なかなか大変です。
でも、現場では「大丈夫です!思いっきりやってください!」と盛り上げられて、僕も「よりおもしろいものを!」という思いでやってしまうんですけれど。
ニトリのおじさんは「いい暮らしをしてる」!?
── 次は何をやってくれるんだろう、という期待は正直あります(笑)。
清水さん:
ですよね(笑)。監督は同世代でCM業界でもトップランナーの方。すごく頭が柔らかくて、僕の演技を引き出してくれます。
撮影前にいただいたコンテでイメージした演技を現場でやり、「もうちょっと大きい声で」「ちょっと角度を変えてみますか」のように微調整していく作り方なので、演技自体は割とゆるくやっています。
── 現場で作るようなイメージなのですね。
清水さん:
監督の緻密でありながら柔軟な考え方があってこそのあの世界観なんですよね。本当に楽しい現場です。
── ちょっとドジで憎めないところが魅力的なキャラクターだなと。清水さんはどう感じていますか?
清水さん:
僕にとって、とてもシンパシーを感じる役です。
僕がやっている劇団の演目は、いつも座長が脚本を書いています。もう20数年やってきましたが、座長が僕にあてがってくれるキャラクターはドジでおっちょこちょいな役ばかり。
そういった素養は劇団活動で座長が引き出してくれた部分だと思っています。むしろ、劇団ではそういう役しかやっていないので、それがニトリのキャラクターに繋がっているとも感じています。
── 読者からは「夫と重ねてしまう」「パパも外で頑張っている!」といった感じで観ているという声もあります。働くパパの悲哀が多くの人の心を掴んでいるのかなと。
清水さん:
働くパパの悲哀をリアルに、でも愛おしく描くのがこのCMのいちばんのポイント。ドジでおっちょこちょいだけど、バカっぽく見えるのは違うかなと。
「あのキャラクターは割といい暮らしをしている」という声が実はすごく多くて。一軒家に暮らし、犬と猫を飼い、奥さんは顔にパックをするくらいには美容にも気をつかえる環境で。
彼が一生懸命やっているから、あの生活があるんじゃないかと感じていただくことを大前提にやっている部分もあります。
芝居や演出だけでなく、衣装、美術、小道具、とにかく細かいところにまでこだわっています。ただのドジでおっちょこちょいなキャラクターだけではなく、彼の背景が伝わっていることも、支持していただける理由のひとつだと思っています。
PROFILE 清水 伸さん
俳優。1972年生まれ、新潟県出身。2022年の出演作は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』やドラマ『恋愛ディソナンス』、『ユーチューバーに娘はやらん』など。2015年よりニトリのCMに出演。劇団ふくふくやにて副座長を務めている。
取材・文/タナカシノブ 画像提供/清水伸、ニトリ