相手の目を見て元気に「こんにちは!」と挨拶する子、困っている人をさっと手助けできる子、お友達の家では靴を揃えて上着をたたんで上がり、帰りには「お邪魔しました」と言える子…。第三者から見ると、思わず「なんてすばらしい子なんだろう、きっと親の育て方が良いに違いない」と思ってしまいますよね。

 

また、自分自身が学生や新社会人の頃に、バイト先や知人に「親御さんの育て方がいいのねえ」ほめられた人もいるかもしれません。

 

たしかにそうかもしれませんが、これって本当にすべて「親の育て方」なのでしょうか?

 

今回は、そんなモヤモヤがどこから来るのかを探ってみました。

こんなとき、モヤモヤしませんか?

わが子が「親の育て方がいい」とほめられてモヤモヤしたことがある…と話すのは、小学校4年生・1年生・5歳の3人の男の子を育てているママのTさん。

 

「うちは基本3人とも同じように育てているのですが、次男は挨拶とかを大きな声でしっかりできるんですよ。長男と三男はモジモジしたりふざけてしまったりでなかなか…。次男のお友達の家にお邪魔した時などは他の兄弟が一緒じゃないので、模範的な挨拶をする次男を見て、さぞかし3人とも私が上手にしつけているんだろうなと思われていそう」

 

「次男をほめてもらえるのは嬉しいのですが、私の育て方だと言われると…他の子は違うので、なんだか居心地悪いというか、そういうんではないんですという気持ちになりますね」

 

たしかに、本当に親の育て方で決まるなら、きょうだい3人とも同じでないとおかしい気がしますよね。

 

1歳のお子さんを育てているNさんは、学生時代からアルバイト先などで「よく気が利く」「親御さんが上手にお育てになったのね」と言われることが多かったといいます。

 

「そう言われるとありがたくはあるのですが、私が自分で考えて行動している部分もあるのに、親の育て方ですべて決まるものかな…と、自分の芯がないように感じることがありました」

 

Nさんの「自分の芯がないような気がする」というあたりにも、モヤモヤの原因が隠れているのかもしれません。

「育て方がいい」「育ちがいい」の違いとは

「育て方がいい」と「育ちがいい」はよく似ていますが、ニュアンスは微妙に違っています。

 

いわゆる「育ちがいい子」とは、おおむね裕福な家庭でゆとりをもって育てられ、身の回りのことを丁寧にしつけられていて、他人に対しても寛容な子…というのが世間の印象だと思います。

 

その影響もあってか「育て方がいい」といえば、あいさつができる・ごみをポイ捨てしない・靴を揃えるなど、マナーや行儀に関して言われることが多いようです。

 

それはもちろんその子のすばらしい長所なのですが、同じように育ててもできる子・できない子がいる以上、それは「子供によい見本を見せている家庭」というだけであり、見習うかどうかは育て方ではなくその子の生まれつきの個性によるものかもしれません。

 

また、誰かが困った時にさっと助けてくれる子や優しい子、気配り上手な子も「親御さんの育て方が~」とほめられやすいですが、ママやパパがいつも子供にやさしく接しているから…という理由はあるとしても、本人の生まれつきの気質のほうが大きいのではないでしょうか。

「○○な子供の育て方」とよく言われるけれど

書籍や雑誌・インターネット記事でも『優秀な子供の育て方』的なタイトルをよく見かけます。

 

親としてはわが子が将来幸せになれるよう「○○な子になってくれれば」と願い、期待して本を手に取るかもしれません。

 

しかし、本当にその通り育てれば優秀な子になるのでしょうか?

 

アメリカで1998年にセンセーショナルな議論を巻き起こし、近年少しずつ認められつつある『子育ての大誤解』という書籍には、「親から子へ特性は遺伝することがあるが、子育てのよしあしで子供の性格や行動が決まることはほとんどない」という主旨が書かれています。

 

もしこの主張が正しいのなら、親が必死で「こう育てなければ」「いい育て方とは」とあれこれ悩んでもあまり意味がないのかもしれません。

 

皆さんもそう考えると、ちょっと残念なような、ホッとするような気がするのではないでしょうか。

育て方の影響は0でも100でもない

とはいえ、子供の生活習慣や言葉遣いなどはあきらかに家族(特に親)の影響を受けるだろう…と考える人も多いと思います(上記の書籍でも「言語」は保護者が影響を及ぼす数少ない分野とされています)。

 

また、厳格すぎるしつけや暴力・ネグレクトなどは子供の人格形成に大きな影響を与え、そこに「親の育て方はまったく関係ない」とはやはり言えないでしょう。

 

ただ、同じ家庭環境で育ったきょうだいでも成長後の姿は大きく違うことや、「ほめられて伸びる子」と「叱られると燃える子」がいること、有名人の「両親にこう育てられました」という体験談を真似しても同じにはならないことなどから、子供の成長には育て方で左右されない面もたしかにあります。

 

それに生まれてから1度も誰かを傷つけたり迷惑をかけたり失敗したことがない子なんていないですよね。

 

つまり、子供も育て方も「いい」と「悪い」の二択や0か100かではなく、グラデーション状や入り混じった状態で、基本的には子供自身が持って生まれた気質に基づいて親の子育てを受け止め、選択・行動していく…というのが実際のところではないでしょうか。

おわりに

子供のすばらしい長所が発揮された時に「ホントに育て方がいいのね」と言われると、ほめられているはずなのになんだかモヤモヤする…それは、その言葉をひっくり返すと、子供の課題や苦手なことは「親の育て方が悪いせいだ」というメッセージになるからではないでしょうか。

 

親や家庭環境が子供に影響を与えるのはたしかですが、子供という1人の人間に良いも悪いもないのと同じで、虐待や過干渉などをしない限り、育て方にも「いい」「悪い」はないのかもしれません。

文/高谷みえこ

参考/書籍『子育ての大誤解 重要なのは親じゃない』(ジュディス リッチ ハリス著/石田 理恵訳/ハヤカワ文庫NF)