きょうだいと争ったり比較される機会がない一人っ子。そのため「競争心がなく、どこまでもマイペース…」と感じる保護者は少なくありません。きょうだいに揉まれる経験がない一人っ子をやる気にさせる方法とは?『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)の著者であり、進学塾VAMOS代表の富永雄輔さんに聞きました。
競争に頼らない生き方
兄弟姉妹のいる子は日常にいろいろな競争があります。洗面所を使う順番やおかずの取り合い、テレビのチャンネル権争いなど…。一方、一人っ子の場合はそうした経験がほとんどない。
さらにコロナ禍で子どもたちのふれあいが減ったことも競争機会の損失になっています。
競争原理が働きにくい子に対して、「あの子に負けないように頑張れ」と、奮い立たせようとしてもうまくはいかないでしょう。
そうした子には、負けて悔しいといった気持ちに頼らない、別のベクトルからやる気を出させる必要があります。
有効なのは、子どもの「楽しい」「熱中するほど好き」を軸にして「もっとできるようになりたいから頑張る」という気持ちを引き出す方法。それには、達成可能な小さい目標を立てて、できるたびに褒めてあげるのがいい。
「楽しい」「熱中するほど好き」ではないものをやらせるには、ルーティン化してしまうこと。習慣化するまで保護者の手間はかかりますが、家庭に自分以外の子どもがいない一人っ子は「勉強しないといけない」と思う場面が少ないですから、必要な作業です。
それでも受験は競争ですし、マイペースな一人っ子に対して、「うちの子は受験戦争を勝ち抜けるのでしょうか」と心配する方もいます。
確かに、かつては「合格」と書かれたハチマキを頭に巻き、寝る間も惜しんで勉強し、志望校を目指す時代もありました。
しかし今は、東大に合格して官僚の道を歩むだけが「勝ち」ではありません。
偏差値70の学校に受かるよりも、サッカーと勉強を両立させて偏差値55の学校に受かるほうがバランスが良くて価値が高い、と考える人。寝る間を惜しんで結果を出すよりも、健康的に趣味などを楽しみながら自分に合った生き方をするほうが幸せ、と考える人もいる。
価値観が多様化するなかで狙うべき「勝ち」は、「昨日の自分に勝つ」ことです。実際「好き」を原動力にさまざまな分野で頂点を極める人は出てきています。この傾向は今後も続いていくでしょう。
一人っ子がマイペースなのは、性格というより、自分のペースを乱す人がいないから結果的にそうなっているだけ。保護者が早くから動き、いいペースに乗せてあげることができれば、それを誰にも邪魔されない一人っ子は最強です。