「アナウンス室から広報宣伝への異動を経験していたので、企業広報への局内異動は『なんとかなる』と思えましたね」と話すフジテレビの春日由実さん。社内と社外をつなぐ広報として何を意識し、後輩アナウンサーたちにどんなサポートをしているのか、お話を聞きました(全4回中の3回目)。

 

春日由実さん
「取材をしてもらい、第一印象より好感度2割増しにすることが私の仕事」と話す春日さん

会社の顔であるアナウンサーをPR、多忙な広報の仕事

── 広報宣伝から企業広報へ異動となり、現在はアナウンサーの取材を中心に対応されています。

 

春日さん:企業広報では、会社のPRやアナウンサーの魅力をどう伝えるか?を常に考えています。広報宣伝でも、番組の魅力を伝えるためにキャッチコピーを考えたり、記者会見や囲み取材を行うなど、広報に必要なスキルを身につけることができました。

 

そのため最初の異動のような「全く違う職種」への異動ではなく、仕事の中心が番組PRから約70人いるアナウンサーのPRになったということですね。

 

ただ、広報は基本的に1人で多くの取材案件を掛け持つため、アナウンサー時代より忙しいかもしれません。

 

フジテレビ生野陽子アナウンサーと春日由実さん
生野陽子アナウンサーの取材に同席する春日さん

── 取材を調整する立場だと、インタビューを受けるアナウンサーや記者のスケジュールに合わせないといけないので、ご自分の予定通りにできないことも多いですよね。

 

春日さん:今はオンラインでもインタビュー対応ができるので、夜遅い場合は、リモートインタビューという形で参加することもあります。どうしても都合がつかないとき…たとえば「この日は子どもの運動会で」といったことは率直に上司に相談して、対応をお願いすることもありますが、嫌な顔一つせず快く引き受けてくれて。職場環境に恵まれていることはとても感謝していますね。

 

家庭があり、子どもがいるため、休日出勤なども独身時代のようにフレキシブルには対応できません。私が在籍していた当時は、子育て中のママアナウンサーが、子どもの急な体調不良などで仕事を休まざるをえないときにカバーし合う「“ママアナ”ネットワーク」がありました。

 

番組を休むときは番組制作サイドとアナウンス室デスクが対応を調整するのですが、よくこのネットワークで「昨日から子どもの体調が悪く、明日のオンエア交代可能でしょうか?」などの相談もしていました。

 

今では、そのようなネットワークも不要になって、男性アナウンサーも積極的に育児休暇を取得したり、子どもの急な体調不良や行事に参加するための仕事調整も気軽に相談したりできます。生放送を抱えるアナウンサーにとっても、ワーク・ライフバランスが保ちやすいですよね。

 

フジテレビ生野陽子アナと春日由実さん
取材を受けるアナウンサーが自然な笑顔になれるよう声をかける

母だからこそ「成果を出すことにこだわる」

── そうしたサポートや理解があるのは助かりますね。

 

春日さん:今のような職場環境ができたのは、先輩たちがときにはご批判を受けながらも、努力し、働き方のモデルをつくってくれたおかげです。それを守るためにも、しっかり結果や成果を出さなくてはならないと思っています。

 

フジテレビ広報・春日由実さん
「母親だから」をできない理由にしたくないと話す

── 子育てしながら仕事でも成果を出し続けるというのは、大変なことも多いと思います。

 

春日さん:仕事が好きですし、求められて働けることに大きなやりがいを感じています。お給料をもらって働いている以上、それだけの成果を出さなくてはなりませんから。

 

それに母親として、私自身が仕事を楽しんでいる姿を、娘たちに見せていたいんです。その姿が、将来彼女たちが働く意欲に繋がると思うので。

 

だからこそ、子どもを仕事が「できない」ことの理由にしたくないですし、周囲の力も借りながら「できない」ではなく「できる方法」を考えて成果を出し、きちんと両立したいと思いますね。

みずからも経験した「自分の個性がわからない」悩み

── アナウンサーの取材を担当する広報の仕事では、やはりご自身の経験が役立つ場面が多いですか?

 

春日さん:アナウンサーのマインドを、いちばんわかっている広報でありたいとは思っています(笑)。取材を受ける際の準備や、どう対応すべきか?というのは、自分も同じように取材を受けてきたのでアドバイスができますから。

 

広報担当として個々のアナウンサーを「どうPRすべきか?」は常に考えている面でもありますが、アナウンサーにはできるだけ、取材を受ける経験をさせたいと考えているんです。

 

番組の中で情報を発信したり、意見を言ったりすることは多いのですが、限られたオンエアの時間内では、本人の人柄や価値観、素の部分が見えるような場面は、意外と少ない。

 

特に最近は、アナウンサーとして自分の考えや意見を言う番組が増えているので、「なぜ、そう考えるのか?」というそれぞれの価値観を一人でも多くの方に知っていただいたほうがいいと思っています。

 

フジテレビ竹俣紅アナと春日由実さん
竹俣紅アナウンサーの取材に同席。質問に答えやすいようサポートしてくれる広報の存在は心強い

── インタビュー記事では、取材を通じて本人の人柄や、どんな経験をしてきたのか?など、発言の背景となるような情報が発信できる面がありますね。

 

春日さん:取材を受けることで「自分はこういう形で注目されているんだ」と自信にもつながりますよね。さらにインタビューをしていただくことで、みずからを見つめ直すきっかけにもなります。

 

私自身もそうでしたが、自分のことが実はよくわかっていなかったりしますよね。新人アナ時代「春日の個性は、何?」とか、「個性がない」と言われて悩んだ時期もありました。後輩からもよく「自分のキャラがわからないんです」と相談されます。アナウンサーに限らず、自分の個性ってよくわからない。きっと周りが気づいて教えてくれるものなのだと思います。

 

たとえば、新人時代の井上清華アナも「私の個性って何ですか?」と聞いてきたひとりです。彼女はどういう場でもスッとその場に馴染むことが上手で、自然と人や話の輪の中に入っていける人。

 

子どもの頃からお父さまが会社関係などの集まりにも連れて行ってくれて「その場をきちんと楽しみなさい。周囲にも楽しんでいることが伝わるようにお話をしなさい」と言われていたから身についた振る舞いだそうで、「相手に緊張感を与えず、その場にすぐ馴染むことができるのが井上の魅力だよ」と。

 

それぞれの個性や魅力について伝えてあげることで、後輩たちに自信をつけてもらう。広報の仕事というだけでなく、ひとりの先輩として大事なことだと思っています。

 

春日由実さん
「アナウンサーたちの気持ちを理解できる広報でありたい」

 

PROFILE   春日由実さん

1974年兵庫県生まれ。1997年アナウンサーとしてフジテレビに入社。2017年に広報宣伝へ異動となり、番組広報を担当。現在は企業広報担当として、アナウンサーへの取材対応を中心に活躍している。

取材・文・撮影/鍬田美穂 写真提供/フジテレビ