くちゃくちゃと音を立てて食べる、おかずを箸で突き刺す、口にものを入れたまましゃべる…お子さんの食事中のマナーが気になり注意しているというママ・パパは多いのではないでしょうか。

 

食事のマナーは、本人が気にしていなくても、周囲を不快にさせてしまったり、行儀が悪いと評価が下がったりしてしまうので、できれば子供のうちに最低限のマナーは身につけさせてあげたいですよね。

 

なかでも、ママやパパから「直したい」という声がよく出るのが「食卓に肘をついて食べる」というもの。

 

今回は、なぜ肘をついて食べない方がいいのか、子供が納得する言い聞かせのヒントや意外な理由、すぐできる対策も紹介します。

肘をついて食べるとなぜ行儀が悪いのか

「食事中に肘をついちゃダメ」と注意したお子さんに「なんで?」と聞かれたら、「行儀が悪いから」と答えるママ・パパが多いかと思います。

 

それはもちろん正しいのですが、ちょっと深掘りして「なぜ行儀が悪いのか」と考えてみると、意外と理由が思いつかない人もいるのではないでしょうか。

 

マナーや行儀作法は、その国や地域の文化によって大きく異なります。手で食べる、膝を立てる、テーブルを汚し散らかすなど、日本ではマナーが悪いとされる行動も、国によってはOKだったり、逆に日本人がソバなどの麺類を音を立ててすするのは欧米では眉をひそめられたり…。

 

そこで、日本の食卓文化がどのようなものだったのかを少し振り返ってみましょう。

 

日本では、江戸時代頃までは脚のついた小さめの「箱膳」などに1人ずつ食事を置いて食べていたため、お膳のような小さく低いところに肘をつくのはそもそも不可能でした。

 

明治以降も、庶民の多くは背の低い「ちゃぶ台」を大人数の家族で囲むスタイルが多く、食卓と身体が離れていて肘をつくようなスペースもなかったことでしょう。

 

いっぽう欧米では、中世以降は高さのあるテーブルと椅子で食事をする国が大半ですが、日本と違って食器を持ち上げて食べる習慣がありませんでした。

 

昭和にかけて、日本でもダイニングテーブルで食事をする家庭が増えましたが、このときに西洋風の「テーブルと椅子」に、日本独自の「食器を持ち上げる習慣」が組み合わさり、肘をつくというしぐさが生まれてしまった...と考えられています。

 

またちゃぶ台の場合でも、核家族や独居の人が増えると1人あたりが広くスペースを使えるため、テレビを見ながら肘をついて食事をすることが可能になったとも言われています。

 

つまり、「肘をついて食べる」のは、伝統的な文化や歴史によるものというより、近代の生活スタイルの変化につれて増えてきた行為だといえます。

 

ではなぜ人々はそれを「行儀が悪い」「マナー違反」と感じるのでしょうか。

 

考えられる理由は2つあります。

 

1つは、肘をついたときの姿勢です。

 

肩肘をつくと背筋が左右どちらかにゆがみ、また背中が丸まっているために胃が圧迫されて消化を妨げるので、それを戒めるため。

 

もう1つは、私たちが日常生活で肘をつくのは、小難しい授業中や面倒な作業など「退屈」「興味がない」「真剣に取り組む気がしない」という感情の表れだからではないでしょうか。

 

食事どきに肘をついていると、たとえそのつもりがなくても、料理や作ってくれた人、一緒に食卓を囲んでいる相手に対し「興味がない」「向き合いたくない」というメッセージにとらえられてしまいがちです。

 

お子さんに「どうして肘ついちゃダメなの?」と聞かれたら、上記2つの理由を、年齢に合わせて分かりやすく伝えてあげられるとよいですね。

子供が肘をつく意外な理由と、すぐできる対策

小さい子がテーブルに肘をついているのを見ると、「だらしない」「行儀が悪い」と叱る人は多いでしょう。

 

「子供時代、肘をついたら叩かれた」「食事を抜かれた」という話も聞くほど、重要な食事のマナーであり、しつけだと考えられてきたことは間違いありません。

 

しかし、子供が肘をついてしまうのは、単にだらけているとか行儀が悪いだけとは限らず、次のような理由からかもしれません。

テーブルやちゃぶ台の面が子供にとって高すぎる

一般的なダイニングテーブルでは、大人はちょうどよくても、子供が椅子に座るとちょうど肘がテーブルの面に当たるくらい…という場合、どうしても肘をつく形になりやすいですよね。

 

この場合、高さの調節できる椅子なら少し高くする、そうでなければ補助マットを敷くなど、ひじがテーブルに届かない程度に椅子の座面を上げると改善することがあります。

 

食器やコップが重い

小さい子にとって、ごはんがいっぱい入った陶器の茶碗やスープなどの器をこぼさないようにずっと持っておくのは意外と重い場合もあります。

 

かといって、置いたままでは遠くて食べにくいし、お腹も空いたとなると、肘をついて食べるしかないのかも。

 

このような時は、しばらくの間、軽いプラスチックや木の器に変えてみるのも良いですね。

身体が未発達

子供はまだ身体の発達の途中なので、体幹が弱く背筋を伸ばして座り続けられなかったり、手先が未発達で食器の扱いに疲れてしまったりすることもあります。

 

日常生活で、どろんこ遊びや粘土・あやとりなど手指を使う遊びをたくさんしたり、洗濯物たたみのお手伝い、ペットボトルのふたを開けるなど、大人がやった方が早いことでも自分でやるのを見守っているうちに、食卓でも姿勢を保ってじょうずに食べられるようになる子もいます。

おわりに

大人から見るとただ行儀が悪いだけに見える子供の肘をつくクセも、なぜ良くないのかを伝え、適切な環境をととのえることで、意外と早く直るかもしれません。

 

もちろん、ママやパパも肘をついて食べたり、食事中ずっとスマホをいじったりということもないように、親子で楽しく食事に向き合いたいですね。

文/高谷みえこ

参考/国立民族学博物館研究報告別冊「食卓文化論」 https://minpaku.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=3589&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1