ぼーっとテレビを見ている最中や就寝前に、息子がモゾモゾと自分の性器をいじっている。おそらく多くの保護者は「やめなさい」と注意する場面ですが、「性器いじりをやめさせること」は本当に正解なのでしょうか?『おちんちんの教科書』の著者で泌尿器科医の岡田百合香さんに、「男の子の性器いじり」への適切な対応についてお聞きしました。

 

無意識に性器を触る男児 イラスト/こしいみほ 『おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より

そこにおちんちんがあるから触るのだ

──「気づけばなんとなく自分の性器をいじっている男の子」はさほど珍しくありません。なぜでしょう?

 

岡田さん:
これは医学や科学で説明するのが難しい領域なのですが、触っている本人に「どうして触っているの?」と聞いてみるのがいちばんいいと思います。おそらく、ほとんどの男の子が「なんとなく」という答えを返してくるのではないでしょうか。

 

これといった理由があるわけではなく、そこにおちんちんがあるから触っている。

 

実際、おちんちんって触りやすい位置にあるんですよ。男性の性器は体の前面から突出した構造になっていますから、手を下ろしたときにちょうど触りやすい位置にある。気づけばなんとなくおちんちんに手が行く男の子が多いのは、それがいちばんの理由だと私は考えています。

 

息子の様子を伺う保護者 イラスト/こしいみほ 『おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より

── 性器というデリケートな部分であるがゆえに、「性的な意味合いで性器を触っているのでは?と心配になる」という保護者の声も聞きます。

 

岡田さん:
未就学児から小学校低学年ぐらいの男の子であれば、基本的には性的な意味で触っているケースはほとんどありません。「触ることによって快感を感じ、勃起して射精する自慰行為」と、「低年齢の男の子がなんとなくおちんちんをいじってしまう」行為は、まったくの別ものだと考えていいと思います。

 

ただし、「かゆいからつい触っちゃう」「痛いからいじっちゃう」というケースの場合は、病気の可能性もありますので医療機関の受診をおすすめします。

 

ちなみに、自分の性器周辺を触ることがクセになっている女の子も決して珍しくありません。正式な論文などで比較されているわけではありませんが、同様の悩みを抱えている女の子の保護者も大勢います。

 

「性器をいじるクセ」に関して男の子の保護者の声のほうが目立つのは、おちんちんという外性器が突出した構造になって目立つこと。それから女の子のほうが「性器いじり」をタブー視しやすい社会の空気があること。この2点が理由だと思います。

性器いじりは汚い!?

── わが子に性器いじりをやめてほしい理由として、「ばい菌が入る=汚いから」という意見もあります。実際、性器をいじって病気になることもあるのでは?

 

岡田さん:
性器をいじる行為と病気の因果関係の証明は、実のところ非常に難しいんですね。

 

「汚い手で触るとばい菌が入る」という言い分はある意味では正しくわかりやすいのですが、では汚い手で性器を触ると必ず炎症を起こすかというと、そうではありません。

 

たとえば男の子の場合、おちんちんが炎症を起こす亀頭包皮炎という病気があります。これはおちんちんの先端(亀頭)に包皮や細菌がついて炎症を起こす病気なのですが、汚れた手でおちんちんをいじれば必ず亀頭包皮炎になるかというと、そんなことはありません。

 

結膜炎で考えてみてください。目をこすったことが原因で結膜炎になる場合もありますが、目をこするたびに毎回必ず結膜炎になるわけではありませんよね?

 

むしろ、目をこすっても平気なときのほうが圧倒的に多いはず。体の抵抗力が弱っているとか、他に何らかの要因やきっかけが関係してくるのです。

 

同じように、性器を触るクセがある子は、そうでない子よりも性器の病気にかかるリスクが何%上昇するか、といった関係性は証明することが難しい。

おしっこはほぼ無菌、だから汚くない

── 単純に「おしっこが出てくる場所なので汚い」というイメージもあります。

 

岡田さん:
世間の人の多くは誤解していますが、健康な人の尿は子どもも大人もほぼ無菌です。つまり、おしっこ自体はそう汚くないんですね。むしろさまざまなものに触れている手のほうが不潔になりやすい。入浴後であれば、手も比較的きれいですし、就寝前になんとなく触っている、くらいであればまったく問題ありません。

 

── では、自分の性器をいじることは無理にやめさせなくてもいい?

 

岡田さん:
やめさせる必要はありません。自分の性器を、自分の手で触る。そのこと自体は子どもでも大人でも男女問わず、何ら問題ないことですから。

 

ただし、TPOについて伝えることは必要です。社会で生きていくためのマナーとして「いつでもどこでも触ってもOKではないよ」と大人が教えていく必要はありますよね。これは昨今、重視されているプライベートゾーン教育ともつながっています。

 

胸や性器、お尻のように、水着で隠れる大事な場所は他人には見せたり触らせたりしない。そうしたプライベートゾーンの大切さを教えていくなかで、「人前では性器を触らないようにする」と伝えていくことが大事になってきます。

低学年までは「家の中ならOK」が現実的

── 岡田さんも幼い男の子と女の子を育てるママですが、プライベートゾーンの大切さをお子さんたちにどんな風に教えていますか。

 

岡田さん:
最初はお風呂からですね。息子が3歳くらいまでは私が全部ジャーッと体を洗っていましたが、3歳を過ぎたあたりから少しずつ「おちんちんとお尻はプライベートゾーンだから、もうちょっと大きくなったら自分で洗おうね」と声掛けをしたり、洗う前に「今からちょっとプライベートゾーンを触って洗うからね」と伝えるところから始めました。

 

プライベートゾーンはすごく大事な場所だよ、という意識を日常生活のなかで少しずつ伝えています。 

 

少しずつ意識させたいプライベートゾーン イラスト/こしいみほ 『おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より

とはいえ、現在5歳の息子がプライベートゾーンの大切さを完璧に理解できているかというと、まったくそんなことはなくて。外出中にお尻を出したがるなんてしょっちゅうです。

 

私としては性に関しては3歳からみっちり英才教育をしてきたつもりですが、それでもこんな感じです。

 

子どもがふざけてお尻を出したとき、「お尻を出しちゃダメ!」と親が過剰に反応すると、子どもは「大人に注目された」と感じて承認欲求が満たされます。結果、ますます同じ行為をしたがる、という逆効果にもなるので、過剰な反応は避けたほうがよいでしょう。

 

1回や2回で伝わるものではないので、淡々と継続して伝えていく。それしか方法はないと思っています。性器をいじるクセも同じで、「おちんちんを触ること自体は悪くないけど、おうちでやろうね」と折に触れて言い続けていくしかないと思っています。

 

── 「(外ではダメだけれども)おうちでなら触ってもOK」にする、ということでしょうか。

 

岡田さん:
「ここでなら触ってもOK」という場所をどこに設定するかは、人によって考えが違うと思っています。ただ、日本の育児の在り方や住宅事情を考えると、低年齢のうちに自室を与えてもらっている子はそう多くないですよね。

 

自室のようなパーソナルな空間を持たない子が、どこでなら自分の性器を触ってもOKなのかと考えたら、「おうちの中でならOK」と許容するのが現実的な提案ではないでしょうか。小学校低学年くらいまでであれば、「外や人前では触らない。でもおうちでならOK」としてあげるのがベストかなと個人的には思っています。   

 

PROFILE 岡田百合香さん

泌尿器科医。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。初の著書『おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)を刊行。

取材・文/阿部花恵 イラスト/こしいみほ 写真提供/岡田百合香