東大生としてテレビ番組に登場して以来、注目を集め続けている謎解きクリエイターの松丸亮吾さん。松丸さんのSNSをフォローする小中高生も多く、勉強法や考え方は親世代からも関心が集まっています。自分の好きなことを大切に自信を育てていったという松丸さんが、「子どもたちへ自信を身につけるために試してほしいこと」とは?(全3回中の3回)
「勉強」の本当の意味を考える
── 実際のところ、得意なものが何もなくて、自分に自信が持てないという子どもたちも多いと思います。どんどん自信をなくしていくような状態の子に、まわりの親や大人たちはどう接すればいいのでしょうか。
松丸さん:僕からは、2つ伝えられることがあります。まず1つ目は、すぐに考え方を変えたほうがいい、ということ。もう1つは、天才型ではなかったとしても、大人になったときに経験値のある人になったほうがいい、ということです。
考え方の話でいうと、日本の教育って「100点を目指そう」という考え方が根強く残っていると思っています。間違うことは良くないと。でも、答えを間違えてバツを取ることって全然悪いことじゃないと思うんです。
バツがもらえたということは、自分のできないところが見えたということだから。そうしたら、「次はバツをマルに変えていこう」と考えればいいだけの話。間違えた問題を解けるようにするのが、もともとの「勉強する意味」だから。
勉強って、自分ができなかったところ、わからなかったところができるようになる、そのためのプロセス。必ずしも100点を取ることじゃないんですよ。
「得意が見つからない状態」は誰にでもある
── 100点を取ることではなく、バツをマルに変えていくことが勉強なんですね。
松丸さん:そうです。また、自分に自信がない、得意なことが見つからないという状態って、誰にでもあると思うんですよ。
例えば、今すごく活躍しているアーティストでも、もしかしたら数年前までは誰からも評価されなくて、「誰からも求められていなんじゃないか」って自信が持てなかった時期があるはずなんです。
僕自身も、今は謎解きの会社を立ち上げたり、テレビに出演させてもらったりしているけれど、つい数年前まではテレビにも出ていない、会社も設立していない、ただの一般人でした。
自分が何もできない、得意なものが見つからない状態というのは、誰にでもある。君だけに限らないし、それは悪いことではないと言いたいです。
──「得意なことが見つからない状態は誰でもある」と思えると、気持ちが軽くなりそうです。
松丸さん:もうひとつ、経験値を高めるという点ですが、何か一つのジャンルで、金メダルを取ったり、トップに入ったりすることってすごく難しい。Jリーガーになって活躍する確率なんて、東大に合格するよりよほど難しいという話もあります。
例えば僕なら、謎解きの世界で一番面白いものを創るコンペティションのようなものに参加したとしても、おそらく1位にはなれない。うちの会社のメンバーのほうが、よほど上質な問題を作れるし、彼らの能力には勝てないことはわかっているので。でも、謎解きの解説や魅力的な演出の面では、多分僕は日本でもトップクラスに入れると思っています。
同じジャンルでもいろいろな立ち位置の人がいて、音楽だったら作詞、作曲、ボーカル…とそれぞれ得意な人がいて、それぞれの役割がありますよね。
僕がこれまでを振り返ってすごく思うのは、いろいろなジャンルで勉強をしておけばよかったなということ。例えば、うちの会社には、絵も描けて、曲もCGも動画も作れて、ステージの演出もできる…というメンバーがいるんです。
その子は「やりたいことがあったらすぐにそのやり方を調べるようにしている」と話していました。例えば、素敵な絵があったとしたら、まずは「これどうやって描いているんだろう」と興味をもち、勉強する方法をリサーチして、自分なりに学んでいく。その結果、絵が描けるようになったそうです。
まだ見つかっていない可能性に気づくために
──「絵なんて描いたことないから無理」などと考えてしまいがちですが、まずはやってみる、という姿勢を持ち続けることが大事なのですね。
松丸さん:もちろん、日本一や世界一は狙えないかもしれません。でも、学ぼうとすればきっと一定の水準まではできるようになる。まったくできなかったときよりは確実に成長しているじゃないですか。
もし自分に自信を持てない、何ができるのかわからないという状態にあるのだったら、僕が一番お勧めするのは、今までやったことがないことに1個ずつチャレンジしてみることです。
自分の能力が何なのかわからないということは、まだ見つけられていない可能性があるということ。習い事や部活にしても、テニス、野球などメジャーな存在に捉われていては、明らかに球数が少ないと思うんです。
習い事にも部活にも勉強にも関係ないけれど、例えば趣味で音楽をやってみる。曲作りってどうやるのかなとプロセスを調べて、自分で試していく。そうすれば、昨日の自分より確実にできることが増えているはずです。
SNSでインフルエンサーになるためにできることを考えてみるとか、YouTubeに動画を上げてみるとか、興味が持てることならなんでもいい。今の時代はやろうと思えばYouTubeで勉強できるし、試せるツールが豊富ですから。
今まで知らなかったことも、勉強していくと少しずつ詳しくなっていることを実感できます。そういう状態って自信に変わっていくんです。
なるべく多くの知見を身につけて、できることを増やすと、日本一ではなくてもいろんなことができる人になって、社会人になったときにすごく重宝されるはずです。
いつか謎解きのイベントを武道館で
── 最後に、今、松丸さんが叶えたい目標、夢を教えてください。
松丸さん:「謎解きを文化にしたい」というのが一番の目標です。実現するためにも“謎解きの部活”が広がっていくといいなぁとずっと思っていて。毎年3月に謎解きの大会を開催しているのですが、その大会にエントリーしてくれる中学生や高校生が増えて、いつかこの大会での優勝を目標に活動してくれるような部活動が増えていくことを期待しています。
── 松丸さんのTwitterで「武道館で謎解きのイベントを開催したい」というツイートも拝見しました。
松丸さん:それも夢ですね。昨年から会社のみんなと謎解きライブを開催しているのですが、毎回1000人規模くらいなんです。少しずつ参加人数を増やしていって、いつかは武道館で謎解きのイベントを実現したいです。
取材・文/高梨真紀 写真提供/松丸亮吾