謎解きクリエイターとして活躍する松丸亮吾さん。自分のやりたいことにチャレンジし続ける姿が印象的ですが、特に大学時代までは自分に自信が持てなかったそう。そんな松丸さんに、経験を通して見つけていったという自分のアイデンティティについてお聞きしました(全3回中の第2回)。

 

謎解きクリエイターの松丸亮吾さん
謎解きクリエイターの松丸亮吾さん

兄と比較されて自信をなくす日々のなか「ふと気づいたこと」

── 日本では、子どもたちの自己肯定感の低さが社会課題になっています。松丸さん自身、自信をなくしそうになったことはありますか?

 

松丸さん:あります。僕は今26歳ですが、何年か前までは自分に全然自信がなかったんです。当時は早い段階で兄が注目され、学校などで何かと比較されることが多くて。そういう経験から「自分にはいったい何ができるんだろう」といつも考えていました。

 

僕が思うに、自信って、他人からの評価は関係ないと思うんです。結局、自分が自信を持つかどうか、という自分に対する気持ちでしかない。だから、僕は自分にウソをついてでも自信を持っていたほうがいいと思っています。

 

自信をなくす理由としてよくあるのは、「誰かから何かを言われた」「まわりから評価されない」ことだと思います。

 

僕の場合、まわりから兄と比較されたときに、何か自信が持てるものがほしくて、ギターや楽器を始めました。でも、3か月で飽きちゃって。結局どれも全然続かなかったんですよ。

 

そんなことが続くと、「自分ってダメな人間なんだな」と思っちゃう。当時は成績もあまり良くなかったから、どんどん自信がなくなっていきました。

 

そうして路頭に迷ったときに、ふと「自信がない状態ってしんどい」と思ったんです。

 

結局のところ、僕の自信を回復させる方法って、誰かに与えられるものじゃない。誰かに励まされたからって、自信が湧いてくるわけでもない。だから「自信がない状態を続けてるのが、一番損だな」って。自信がないと何をやるにも億劫になってしまうし、ずっと気持ちがマイナスの状態のまま。それってすごくもったいないことですよね。

誰だって最初は「自信がない」のが当たり前

── 自信が持てるかどうかは、自分次第…ということでしょうか。

 

松丸さん:そう思います。でも、最初から自信がある人なんて誰もいない。自分に自信がなくて当然なんです。だけど、自分に自信が持てない状態に甘んじていると、どんな方向にも進めなくなるから、すごく損だと思います。

 

「僕はたいした人間じゃないから」「自分には才能がないから」といった言葉は、封印したほうがいいと思います。どんな可能性も一瞬で全部消えてしまうから。

 

元保護猫で昨年夏から一緒に暮らしているリドくんとの時間は、松丸さんにとって大切なエネルギー源になっている。松丸さんのTwitterより

自分に自信がない状態は、どんどん自分をふさぎこませてしまって、持てるべき能力も持てなくなるから、僕は自分にウソをつくようにしています。

 

「自分にどんな才能があるかわからないけれど、僕には何か才能があるはず。今はまだ見つかっていないだけだし、人生はいつでも変えられる。きっと1年後、2年後には変わっているから」って、自信はなくてもそう思うようにしています。

 

無理にでも自分を鼓舞させるというか。それができたから、自分はちょっとずつ変わっていけたのかなと思うところがあります。

「東大生なのに知らないの?」と言われるのが怖くて

── 自分にウソをついてでも、「自分には才能がある」と自分を信じることで自信に変えていったのですね。

 

松丸さん:テレビ番組に出演する機会が増えてからも、自信をなくすことはありました。ちょうど1~2年くらい前に、テレビに出るのがしんどくなって。トークのときにまわりの出演者と自分を比較してしまい、自分の必要性が感じられなくなってしまったんです。

 

でも、自分の役割について考えすぎると、自分じゃなくなるというか、存在自体がウソっぽくなってしまう気もして。その場を楽しもうという気持ちで出演するうちに、少しずつ考え方が変わっていきました。

 

決して人に笑わせるトークを求められているわけじゃないし、東大生というイメージどおりの解答を求められているわけでもない。等身大の自分が求められているんだ、と腑に落ちたんです。

 

会社で仕事をする様子の松丸さんをスタッフが撮影したもの。SNSで公開されると素の部分が出ていると注目を集めた。松丸さんのTwitterより

── 東大生というイメージに合わせていた時期があったのですね。

 

松丸さん:「東大生だから発言に気をつけなきゃ、間違ったことを言わないようにしなきゃ」と気をつけていた時期がありました。でも、気にしてばかりいると、個性がまったく出せないし、それって本当の自分ではないですよね。

 

東大生というと、クイズが得意で物知りというイメージを持たれることがあるのですが、僕はクイズに強いわけじゃないし、物知りでもありません。歴史も好きじゃなかったから有名な将軍の名前や歴史上の人物の名前もわからなくて。

 

数学が好きで、応用問題やひらめきの謎解きは強かったけれど、世の中がイメージする東大生と本当の僕って、全然違っていた。だから、「東大生なのにこんなことも知らないの?」と言われないように気を張っていました。

 

そんなとき、テレビ番組で大きな失敗をしてしまって。ノーベル化学賞受賞者の名前を答えさせる問題だったのですが、ただの一人も答えられなかったんです。

 

炎上を覚悟していたら、Twitterには「好感が持てた」って予想外のコメントがたくさん寄せられて…ただただ驚きましたね。そのことをきっかけに、自分のキャラクターを偽ることをやめました。素の自分をさらけ出したほうが自分を好きになってくれる人もいるんだとわかったので。

 

それからはまわりに気を遣いすぎるのをやめ、自分という型をつくり込まずに、わからないことは「わかりません」と素直に言えるようになりました。

 

猫のリドくんと「いちゃいちゃ」する松丸さん。松丸さんのTwitterより

アイデンティティって一つひとつの要素の掛け算だと思うのですが、「謎解きが好き」「東大生だけどクイズは全然できない」という要素が重なった結果、僕という唯一無二のキャラクターができ上がったのかなと思っています。
 

取材・文/高梨真紀 写真提供/松丸亮吾