「謎解き」という新しいジャンルを世の中に広めた松丸亮吾さん。謎解きクリエイター集団RIDDLER(リドラ)株式会社の代表取締役として、謎解きやひらめきの楽しさを伝えながら、さまざまなメディアで活躍する松丸さんは、自身のことをどう見ているのでしょうか。子ども時代からこれまでを振り返っていただきました(全3回中の1回目)。
ひと言で表すなら「負けず嫌い」で「猪突猛進」
── ご自身の性格について教えてください。長所と短所はどんなところだと思いますか?
松丸さん:自分の性格をひと言で表すと、「負けず嫌い」と「猪突猛進」ですね。
「負けず嫌い」の長所は、うまくいかなかったときやチャレンジに負けたときに「次はどうすればうまくいくか」「どうすれば勝てるか」と、気持ちを切り替えられるところ。常に向上心をもって試行錯誤できるタイプです。
「負けず嫌い」の短所は、何かにつけて悔しがらずにいられないこと。たとえば、うち以外の会社が作った面白い謎解きを見せられると、「面白い!」という感情と同じくらい「どうしてうちの会社でできなかったんだろう」と悔しくなります。遊びや映画なんかで面白いものに出合ったときも、やっぱり悔しい。
「猪突猛進」だからこそ、後先考えずに何でもやってみようと思えるのは長所だと思っています。不安を感じる前に動くから、逆にうまくいくことも多いので。短所は、後先考えないので会社の業績が悪化するようなリスキーなチャレンジもしかねないところですね。
そんな性格だから、自分が何かしようとするときに誰かに水を差されると、急激にやる気をなくしてしまう。情熱がなくなると急に冷めちゃうんです。
石橋をたたいて割るタイプの人ではなく、一緒にどんどん進められる人とのほうが相性は良いかもしれません。「こういうものを創りたい」と思うと、すぐに動かないと気が済まないんですよ。
4兄弟の末っ子が兄たちから学んだ「大切なこと」
── 子どもの頃はどんなお子さんだったのでしょうか。ご自身らしい思い出があれば教えてください。
松丸さん:兄たちとの思い出は、自分にとっては大きくて。男の4人兄弟で育って、ゲームとか勝負事が多かったのですが、末っ子だったので基本的に何をやっても勝てないんです。
負け続けるというか、ゲームでも勝てないし、口げんかしても論破されちゃう。それが本当に悔しくて。兄弟のなかでも特に悔しい思いをすることが多かったと思います。
これだけ負けず嫌いになったのは、いつも「お兄ちゃんたちに勝ちたい」という思いを抱えていたことが影響しているのかも。だから、僕らしい思い出というと、ゲームで勝てず、悔しさのあまりお兄ちゃんのコントロールのコードを本体から抜いちゃう…とか。ちょっとズルいところもありました(笑)。
── お兄さんが3人もいて、勝てない状況が続いたら、悔しくて物に当たりたくなる気持ちもわかります。
松丸さん:本当に嫌になって、コントローラーを壁にぶつけて小さなへこみを作ったことも。今でも実家に帰ると残っているんですよ。それを見て、「うわ、僕やんちゃだったんだな…」と今さらながら思ったりします。
でも僕としては、そんな負けず嫌いな性格が、自然といいほうへ向かっていったと思っていて。どうしてもゲームで勝てないから、夜中兄たちが寝ている間にこっそりゲームを起動させてひとりでひたすら“こそ練”したりとか(笑)。その結果、ゲームによっては兄たちと対等に遊べるくらいまで実力を磨くことができたんです。
自分で試行錯誤するなかで、「練習するとお兄ちゃんたちと互角に渡り合えるくらいまでうまくなれるんだな」「練習って大事だな」と身をもって学んだと思います。
「好きだからやる」が自信につながる
── 誰にも言われることなく、悔しいという気持ちから練習の大切さを学んだのですね。では、今ご自身で自信を持てることはありますか。
松丸さん:まず、自分が立ち上げた会社には、謎解きに強いメンバーが集まってくれていて、それまでなかった新しい謎解きを作ることを得意としています。新しい可能性をどんどん打ち出せているので、「謎解きのクリエイティブの分野では一番上手い」と、自信を持って言えます。謎解きを使ってやりたいことに向かって、みんなで全力で走っている実感があるんです。
── メンバーのみなさんとやりたいことを実現されているんですね。
松丸さん:自分の好きなことを仕事にするのが得意かもしれません。やりたいことを仕事にするためにはどうすればいいか、考えて行動するのは上手なのかなと思います。逆に言うと、自分の苦手なことをあまり仕事にはしないようにしていて。
TwitterやInstagramなどSNSも好きなので、誰より楽しんで活用している自信があります。ファンの方と交流できる場はすごく楽しいですね。
── 自信を身につけるために大切にしてきたことはありますか?
松丸さん:やっぱり「好きだからやる」ということです。「好き」というのは、自分がストレスを感じないことで、やりたいからやっていること。「やらなきゃ」と思うと使命感になってしまって、本領は発揮できない。だから「苦手だしやりたくないけど、やらなきゃいけないから頑張ろう」と思うようなことはやらないようにしています。
たとえば、僕はお金関係の業務がすごく苦手。会社に今どのくらいのお金があって、いくらくらい稼がないといけないとか、マネタイズを考えることがどうしても好きになれません。
一方で、そういうことが得意な人もいる。その人たちと張り合おうと頑張るのは、自分にブレーキをかけている感覚に近いというか…コスパが悪いと思うんです。
大学時代に就活が始まったときも、迷ったのですが、自分の好きなことを仕事にすることを考えようと決めました。収入のためにやりたくないことを仕事にすると、その仕事が好きな人たちには絶対に勝てないと思ったから。
僕の場合は、もともと好きだった謎解きを仕事にできないかなと思って、会社を立ち上げることにしました。自分が好きなことだけを選んでいったことが、自然と自分への自信に繋がっていったのかなと思います。
「就職じゃなく起業を選ぼう」心を決めたひと言
── 自分の好きなことを大切にしたことが今の自信につながったのですね。
松丸さん:もともと僕はゲームクリエイターになりたかったんです。そのためにゲーム会社に入らなくちゃ、とずっと思っていました。
でも大学生のときにあるゲーム会社の方と話す機会があり、こう言われたんです。
「ゲーム会社に入るのもひとつの方法だけど、自分が望む部署でやりたい仕事ができるとは限らない。松丸くんの場合は、謎解きや仕掛けを作ることに特化して専門性を高める方向で起業を目指せば、やりたいことが実現できるかもしれないよ。これからは、やりたいことで生きていく時代なのかもしれない」
「人と人とのつながりを大事しながら、好きな仕事をどんどん開拓できるような会社を作ることが大事」とその方に言われたとき、自分で会社を作って好きなことを広げていきたいと強く感じたんですよね。就職ではなく起業を選んだのは、その言葉のおかげだと思います。
── とても前向きな選択ができる出会いがあったから、2019年にRIDDLERを設立されたわけですね。今や工夫を凝らしたさまざまな謎解きでたくさんの人を楽しませていらっしゃいますが、そんな今のご自身は好きですか?
松丸さん:どうなんだろう。好きな部分も嫌いな部分もあります。子どもっぽいところもあるし。でも「子ども心を忘れない」のは長所とも言えるかなって(笑)。
猪突猛進型だとやっぱり失敗もあるし、人と衝突することもあります。自分の好きなことをたくさんできているけれど、そんな自分が嫌だなあと思ったり…でも、それも自分の良さの一側面なんですよね。
以前は「東大生なんだから東大生らしくいなければ」と無理をしていた時期があって。今も理想の自分に100%なれているわけでもないけれど、素の自分でいていいんだって、最近ようやく受け入れられるようになりました。
取材・文/高梨真紀 写真提供/松丸亮吾