「那須どうぶつ王国」で飼育されているマヌルネコ。その個性的な愛らしさにハマる人が増えるきっかけになったのが、昨年、YouTubeで配信された「マヌルネコのうた」。「マヌルヌルヌル…」という独特の歌詞とリズムに乗って、個性豊かな表情を見せるマヌルネコのMVはかなり中毒性があり、300万回以上も再生されています。ご自身も「マヌル沼」にハマったと話す、総支配人の鈴木和也さんにお話を伺いました。

 

300万再生を記録した「マヌルネコのうた」(写真:那須どうぶつ王国Youtube「マヌルネコのうた Official MV」より)
300万再生を記録した「マヌルネコのうた」(写真:那須どうぶつ王国Youtube「マヌルネコのうた Official MV」より)

緊急事態宣言下で「何かできないか」という思いがひとつに

──「マヌルネコのうた」ができた経緯を教えてください。

 

鈴木さん:
2020年5月の緊急事態宣言下で、那須どうぶつ王国も長期閉園を余儀なくされました。GWにお客様に来ていただけないジレンマを抱え、何かできることはないかと悶々としていたところに、クリエイターの富永省吾さんから1通のメールが届いたんです。

 

富永さんは、2019年にマヌルネコの赤ちゃんが産まれたときにYouTubeで配信した動画を見てくださってマヌルネコにハマり、気づいたら何百回も観ていたと(笑)。私たちと同じように「何かできることはないか」という思いで、MVの企画を持ちかけてくださいました。

 

「マヌルネコのうた」の動画作成を決めたものの、閉園中だったこともあって予算がなかったんです。仲間の1人が、たまたま環境庁の補助金制度を見つけてくれて応募することにしたのですが、提出書類が多くて…。最後は徹夜で準備をして、締め切り5分前に応募しました(笑)。

 

富永さんとオンラインでミーティングを重ね、緊急事態宣言のたびに中断しながら撮影を続けて、2021年4月に「マヌルネコのうた」を配信することができました。

 

── 歌の効果はありましたか。

 

鈴木さん:
それはもう。知る人ぞ知る存在だったマヌルネコが、今では王国で1、2を争う人気者です。グッズの売り上げもトップクラスです。

 

もともとマヌルネコのコアなファンはいらっしゃいましたが、「マヌルネコのうた」のおかげで裾野が広がり、エンタメの力を思い知らされました。

 


4月23日の「国際マヌルネコの日」を記念して、ファンの方たちと交流したいと企画した「第一回マヌルネコ川柳大会」には、予想を上回る1200通以上の応募がありました。なかには「四六時中マヌルネコのことを考えていた」という方もいらっしゃって、クオリティの高い作品が集まりました。

 

ちなみに、園長賞を受賞した作品は「マヌルネコ 環境保全で マモルネコ」です。

 

「第一回マヌルネコ川柳大会」の園長賞受賞作品
「第一回マヌルネコ川柳大会」の園長賞受賞作品

── マヌルネコの魅力はどんなところでしょうか。

 

鈴木さん:
ギャップですね。ちょっと予想外の動きや表情をするんですよ。見た目はタヌキみたいでかわいらしいのですが、急にガラスをバーンと叩いて威嚇してきたり、そうかと思えば遠くからこっちをじっと睨みつけていたり…。

 

特に、メスのポリーは表情が豊かで、見ていて飽きません。僕も会うたびに怒られたり励まされたりしています。家ネコと違って人に馴れることはないのですが、何か言いたいことがあるような、フキダシにセリフを入れたくなる表情をするんですよね。

 

「よく来てくれたわね」と優しく迎えてくれたかと思えば、次に会ったら「また来たのかおまえは!」となぜか怒られる。僕自身の問題なのかもしれないですけど(笑)。

 

MVでもおなじみのメスのポリー
MVでもおなじみのメスのポリー

オスのボルとの個性の違いも、見ていておもしろいですね。

 

たとえばエサの時間、ポリーはさっとエサをくわえて一瞬のうちにどこかへ消えていく。一方ボルは、人に見られていても気にすることなくゆっくり食べています。スウェーデン出身のポリーは雪が大好きですが、埼玉生まれのボルは苦手です。

希少な野生動物であるマヌルネコを守りたい

──「マヌルネコのうた」の最後には、「マヌルネコは絶滅の危険性が高い野生動物です。さわったり、おうちで飼うことはできません。眺めて愛でましょう。」というメッセージが流れます。

 

鈴木さん:
野生のマヌルネコは中央アジアに生息する希少種で、世界最古の野生のネコだといわれています。毛皮目当ての乱獲や生息エリアの開発のせいで、一時は準絶滅危惧種になりました。

 

感染症に弱いため、飼育下での繁殖は難しいといわれています。

 

2019年4月、ポリーがオスのボルとの間に8頭の赤ちゃんを出産しました。スタッフも24時間体制でがんばってくれましたが、6頭が感染症で死んでしまいました。

 

このとき、体調がよくないなかで必死に子育てをしていたポリーの母親としての姿は、今も忘れられません。

 

希少な動物を保護するためには、国内外の動物園との連携が必要です。無事に成長した2頭は「エル」と「アズ」と名付けられ、それぞれ「神戸どうぶつ王国」と「東山動物園」で元気に暮らしています。

 

── この夏、新たにマヌルネコを迎えられたそうですね。

 

鈴木さん:
7月に神戸どうぶつ王国からオスのレフが引っ越してきて、ポリー、ボル、レフの3頭体制になりました。

 

今後は、ポリーとレフの繁殖も進めていきます。

 

ポリーは7歳、ボルは8歳、レフは8歳です。マヌルネコは繁殖の機会が少なく、これが最後のチャンスだと思っていますので、日本のマヌル界のためにも3頭を見守っていきたいと思っています。

 

マヌルネコは触ることはできませんが、王国にはエサをやったり触れ合ったりすることができる動物もたくさんいます。

 

屋外で楽しめるエリアも多く、おかげさまでこの夏は、コロナ前の8割ものお客さまが戻って来てくださいました。

 

マヌルネコがいる施設は、できるだけ生息地に近い環境を再現しています。ポリーたちの野生味あふれる姿をぜひ見に来てください。

 

PROFILE 鈴木和也さん

那須どうぶつ王国総支配人。那須の自然に魅せられて東京から移住。那須どうぶつ王国の開園に携わり、現在は総支配人を務める。自らも〝マヌル沼〟にハマり、気分屋のポリーに日々翻弄されている。

取材・文/林優子 写真提供/那須どうぶつ王国