出産後の母親の心身をケアして回復へ導き、新しい家族の“キックオフ”をサポートする産後ケア施設が注目を集めています。

 

新しい命の誕生には大きな幸せが詰まっている一方、出産が母体に与えるダメージは計り知れません。産後の育児は実家に頼るなど家庭内労働でまかなわれてきましたが、近年は家族のあり方や価値観も変わり、産後すぐにワンオペ育児を余儀なくされるケースが少なくないでしょう。

 

実家に頼るか、自力でのりきるか。2択に限られてきた出産後の過ごし方に“新たな選択肢”を提供したい──。今年5月にオープンした産後ケアリゾート「HOTEL CAFUNE(ホテル カフネ)」はそんな思いから生まれたそう。産後ケアリゾートが提供するサービスや過ごし方について、ホテルの現場担当者や利用者に話を聞きました。

 

産後の母親と赤ちゃんの"スタート”を支える産後ケア施設とは?

「産後をホテルで過ごす」という新しい選択肢

「HOTEL CAFUNE」は産後の母親の心身をいたわり、新しいライフステージに向けた準備をサポートする

これまで日本では、産婦の負担を少しでもやわらげるため、暮らし慣れた実家で産前・産後の生活を手助けしてもらう「里帰り出産」が慣習とされてきました。しかし、近年は核家族化や晩婚化、新型コロナの感染拡大による影響でそうした慣習が薄れ、出産直後から自力で子育てをせざるを得ない母親が増えています。

 

出産後は急激なホルモンバランスの変化などに加え、疲労と子育てへのプレッシャーが高まり、「産後うつ」を発症するケースも見られます。さらにコロナ禍では、感染への不安や孤独感など心理的不安も相まって、母親に対する心身ケアの重要性はより高まっています。

 

そんななかでじわじわと需要が広まっているのが、産後の女性と赤ちゃんをケアする宿泊型の産後ケア施設です。助産師などプロのサポートのもと、母親の休息と回復を促す施設として、韓国や台湾などアジアを中心に広がりを見せています。 

 

その一方で、日本での宿泊型施設の利用率は、令和元年時点で年間出生数のわずか0.88%にとどまっているとのこと。なぜ国内では産後ケア施設が浸透してこなかったのでしょうか。HOTEL CAFUNEを運営する株式会社「水星」の現場担当者である岡田星羅さんはこう説明します。

 

「韓国では利用率が70%を超えているというデータもあります。同じような文化圏を持つにも関わらず、韓国と日本では雲泥の差があるのは、“育児は母親である女性のもの”という母性神話が根強いからではないでしょうか。

 

子どもが生まれた瞬間は母親も0歳。右も左も分からない状態にも関わらず、母になった途端に完璧な母であることを求められる風潮が日本にはあると感じます。

 

『お母さんだからちゃんとしなきゃ』という考えに周りも自分も陥ることで、自分一人で頑張る必要があると考える人が多く、産後ケアの重要性がなかなか広まっていかなかったのではないかと思います。HOTEL CAFUNEは、そのような考え方から離れ、母親のみならず新しい命を迎えた家族の皆さんがプロフェッショナルのサポートのもと、家族の新しい始まりをゆっくりと過ごすことができる時間を作っていきます」

 

台湾や中国では2010年代から産後ケア施設が急速に増え、パートナーや両親からの出産祝いとして産後ケア施設への滞在が贈られることも多いのだそう。産後ケア施設の利用は、家族のサポートが得られないときの“最終手段”ではなく、当たり前の選択肢として受容されているのです。

 

日本国内でも産後ケアを「文化」として醸成したい──。HOTEL CAFUNEの展開は、そんな未来予想図のための第一歩でもあります。