「努力すれば必ず夢は叶う」
「諦めなければ、夢は実現する」
スポーツや受験などでよく耳にする、素敵な言葉です。
しかし、本当に努力すれば全員の夢が叶うのでしょうか?
夢が叶わなかった人はみんな努力不足だったのでしょうか?
子供には「がんばれば必ず叶う」と信じて夢を追いかけてほしいのが親心ですが、結果にこだわりすぎると思わぬ方向へ子供を追い詰めてしまうかも。
今回は、そんな「夢は叶う」という言葉について、少し視点を変えると見えてくる新しい「真実」を3つ紹介します。
子供の夢は必ず叶うとは限らない
「夢は諦めない限り必ず叶います!」
スポーツ選手などが言うのを聞いたことがある方も多いと思います。
しかしよく考えてみると、そう発言する人というのは、すでに夢が叶った人たちばかりですよね。
たとえば「プロのサッカー選手になりたい」と願いながらもケガや経済的な理由などから他の道に進んだ人たちが、もし諦めずにずっと選手を目指していたら、いつか全員必ずプロになれたのか…というと、やはりそうではありません。
こういった偏りのことを「生存(者)バイアス」といい、ある人たちがそうだからといって、全体を見ると必ずしも真実ではないことがあります。
ただし、逆に大人から見るととても無理だと思うような目標や荒唐無稽な夢物語でも、なかには叶える子がいるのもまた事実。
「がんばればどんな夢も絶対に叶う」
「そんな無茶な夢は絶対に叶わない」
どちらも、子供に向かって口に出す前に「本当にそうかな?」と自分に問いかけてみると良いかもしれません。
夢を諦めるのは悪くない
「ピアニストを目指して小さい頃から頑張ってきたけど、どうやら音大に入るのは無理そう」
「プロ野球選手になるなら強豪校でレギュラーになるくらいの実力が必要だけど、どうしても主力選手にはなれそうにもない」
「宇宙飛行士になりたかったけど、持病があり完治が難しいことが分かった」
など、本人はここまでとても頑張ってきたけど、方向転換を覚悟しなければいけない局面もあります。
しかし、たとえその時は大きな挫折感を味わったとしても、夢を諦めるのは決して悪いことばかりではありません。
企業の経営者に社の発展に大切なことをたずねると、多くの人が「撤退する勇気」と口にすることからも分かるように、客観的に判断して「諦める」ことは、次のチャレンジに向かい、新しい夢を叶えるために欠かせないのです。
また、失敗や挫折・諦めは「どう取り組めばよかったのか」を考える機会でもあり、学びや成長の大きなステップでもあります。
そして、夢の実現はもちろん素晴らしいですが、たとえ実現しなくても「夢を描く」だけで子供にとってはとてもプラスになる経験です。
夢を追いかける過程で身につけた工夫や努力、体力や精神力などは、他の道に進んでも今後の人生に大きく役立つでしょう。
しかし、もし夢をいったん諦めた子供に対して親が否定的な反応ばかりだと、子供は「こんな自分にはもう何の価値もない」と思い込んでしまいかねません。
親としてはぜひ、ここまで夢を追いかけたことのすばらしさや、「身についたことはこれからの人生をもっと良いものにしてくれる」と子供に伝えてあげたいですね。
本当はそれは「夢」ではないのかもしれない
スポーツ・習い事・中学校受験など、子供が目指していた夢を自分から「やめたい」と言い出したら、親としてはとてもガッカリすると思います。
「諦めたら終わりだよ!」と励ましたり、ハッパをかけるつもりで厳しく叱ったりする人もいるかもしれません。
しかし、少し立ち止まって考えれば、実はそれはもともと子供の夢ではなかった…という可能性もあります。
代表的なのが、パパが子供の頃にやっていたスポーツだから子供にも習わせたい→やってみたらコーチに才能があるんじゃないかと言われた→プロを目指したらどうだ?というケース。
パパの盛り上がりをみて「プロ選手になる!」と宣言したものの、成長につれて本当に好きなのは別のことだったと気付き、熱意を失ってしまうこともあります。
音楽や受験なども同様で、本人が途中でやめたいと言う場合、実は親の夢を子供に投影していただけでその子には本質的に合っていなかったのかもしれません。
「お医者さんになりたい」と子供が言ったとしても、その子が本当に望んでいるのは「医師になること」ではなくて「苦しんでいる人をサポートする仕事につくこと」かもしれません。それであれば、さまざまなことを犠牲にしてハードな勉強を長期間続けるモチベーションがわかない可能性もあります。
親はあくまで、子供の夢や進路をコントロールするのではなく、応援する立場です。続けるための励ましは、子供が「夢は追いたいけれど、こういう点でスランプなんだ」という時だけにしたいですね。
おわりに
「がんばれば夢は叶う」「諦めなければ夢は叶う」という言葉は、そのとおりになる時もあればそうでない時もありますが、「必ず」と思い込んでしまうと、叶わなかった時に気持ちを立て直すのが困難になってしまいます。
とはいえ、夢を叶えるため諦めずに努力する尊さはどんな子にも当てはまること。
「必ず夢は叶うわけではないけど、そのための努力は100%素晴らしい」というスタンスで、子供の夢を応援していきたいですね。
文/高谷みえこ
参考/グロービス経営大学院 用語集「生存バイアス」https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20796.html