ここ最近、テレビやインターネットで「ギフテッド」という言葉をよく聞くようになったと思いませんか?

 

2022年7月、文部科学省が「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方」という提言を発表しました。

 

文部科学省の資料ではあえて「ギフテッド」とは呼んでいませんが、この「特異な才能のある児童生徒」が事実上欧米でいうところの「ギフテッド」であり、国としてこの子たちを支援していこうという事業が検討されているのです。

 

しかし、いまの日本では、ギフテッドに対する理解が進んでおらず、SNSなどを見るとかなり勘違いしている人も多い様子です。

 

そこで今回は、ギフテッドとは本来どういう子たちのことを言うのか、いまの教育システムでは何か問題があるのか、そして私たちがよく勘違いしがちな点についてまとめてみました。

 

「よく分からないけど、天才なんでしょ?うらやましい。なにが困るの?」

 

と感じている人はぜひ、勘違いしていないか確かめてみて下さい。

そもそもギフテッドとは。定義は1つではない?

ここ最近、にわかに報道で取り上げられることとなった「ギフテッド(より英語の発音に近いギフティッドと呼ばれることも)」ですが、欧米では以前から広く知られています。

またギフテッドの定義は1つではなく、例えばアメリカでも州や学校・団体によって少しずつ異なります。

 

そのうちの1つ、全米小児ギフティッド協会(National Association for Gifted Children:NAGC)によると「ギフティッドは、1つあるいは複数の分野でずば抜けた素質(論理的思考力や学習能力)、あるいは力量(上位10%以上の成績)を示す人々」とされています。

 

日本でも、医学や教育の分野ではっきりと定められた基準はありませんが、一般的にはなんらかの突出した能力を持つ子や、IQが130以上の子をギフテッドと表現することが多いようです。

 

ギフテッドと思われる子が全体の何パーセントくらいいるのかも定義が分かれるため正確な数字は分かっておらず、アメリカでは全体の6%、日本では2〜3%ともいわれています。

ギフテッドに対する誤解や勘違い

今まで広く話題になることの少なかったギフテッドについて、まだまだ誤解や勘違いも多いようです。

 

例えばこんな風に思っている人はいないでしょうか。

 

  • 全教科が満点
  • なんでも完璧にできる
  • 発達障がいの一種
  • 神童(大人になったら凡人)
  • 勉強ができるので学校で大活躍

 

しかし実は、必ずしもそうではないんです。以下に1つずつ説明していきます。

誤解①ギフテッドの子はすべてにおいて人より優れている

「ギフテッド=天才」ととらえてしまうと、テストでは全教科100点で、スポーツも楽器もできて人望が厚くクラスのヒーロー・ヒロインのようなイメージを抱くかもしれません。

 

もちろん稀にそういう子もいますが、ほとんどの子は「幼稚園で数学だけ高校生レベル」「語学と音楽だけは一度聞いたら再現できる」など、一部の分野のみ突出した才能を持っていることが多いようです。

 

天才物理学者として知られるアインシュタインは、小学校時代、暗記の必要な教科ではまったく正解できず、周囲ともなじめずに、ついには学校側から退学をすすめられています。

 

歴史的音楽家のモーツアルトも、大人になってもお金のやりくりや身の回りのことはほとんどまともにできず、つねに落ち着きなく動き回っていたことが知られています。

誤解②ギフテッド=発達障がい

ギフテッドは発達障がいの一種だと思っている人もいるようですが、発達障がいの特性が見当たらないギフテッドの子ももちろんいます。

 

しかし、かなりの割合のギフテッドの子はASD(自閉スペクトラム)やADHD(注意欠如・多動症)、読み書きなどの発達障がいをあわせ持っていると考えられています。

 

近年注目されている「ニューロ・ダイバーシティ」という考え方では、「ふつうの人」「発達障がいの人」と2つに分かれるのではなく、「誰もが少しずつ異なる脳の機能を持っているのが当たり前」と見なします。

 

そして一般に「発達障がい」とされる人の特性は、多数派の人とは異なるけれども、もともとは人類にとってはデメリットではなく大切な役割を持っていたと考えます。

 

そういった子は多数派と違うからこそ天才的な才能を発揮できるのですが、同時に集団で浮いてしまうこともあるわけです。

 

このような高度な能力と発達障がいをあわせ持つ子たちは「2E(twice-exceptional)二重に特別な/支援を要する」と呼ばれます。

 

一方で、何かに特別優れているということはそれに対して並外れた熱意や集中力があるという可能性が高く、夢中で得意なことを追求した結果ほかのこと(漢字ドリルをやる、きちんと列に並ぶなど)に意識がいかないケースもあり、その様子が発達障がいと混同されることもあります。

誤解③優秀な子を勝手にギフテッドと呼んでいるだけ

SNSなどを見てみると、「ギフテッドなんて勝手につけた呼び方でしょ?」「うちの子は特別って思いたい親のための名称」といった声も見かけます。

 

たしかに、ここまで述べてきたように、ギフテッドは医学用語ではなく、国や地域・団体によって定義も異なりますが、そこには一定の基準があります。

 

また、早期教育に熱心な親が幼児教室などに通わせ努力した結果、優秀なギフテッドの子供になる…というものでもなく、海外ではすでにギフテッドの子供のための教育システムやサポートが実用化され、誰もが知るものとなっています。

誤解④ギフテッド=いわゆる早熟な神童

皆さん自身やお子さんが小さい頃、ちょっとやってみたスポーツや楽器がコーチも目を見張るほど上手にできたり、3歳にもならないうちに上の子の練習していた九九を覚えてしまったりと、「この子、天才かも!?」とみんなが驚いたエピソードはないでしょうか。

 

ギフテッドの子も当然そのような経験をするのですが、子供たちの能力の発達には大きな個人差があるので、なかにはたまたま他の子よりもできるようになるのが早かった、つまり早熟な子だったパターンもあり得ます。

 

その場合は、昔から「神童もハタチ過ぎればただの人」ということわざがあるように、しだいに他の子と変わらなくなってくることも珍しくありません。

 

とはいえ、小さい頃に興味を持ったことや上手だったことは生涯を通じて趣味や仕事に生かせる可能性は十分あります。

 

ギフテッドかどうかに関わらず、世間一般の年齢やものさしで考えるのではなく、今その子に合った環境や教材を用意したり、詳しい人を探すといったサポートはとても良いですね。

誤解⑤ギフテッドは勉強できるから学校なんてラクラクだよね?

ギフテッドの子が何学年も上の教科書をスラスラ読んで理解し、問題も解いてしまうという話を聞くと、「じゃあテストも受験も楽勝で、人生イージーモードだね、いいなぁ」と思うかもしれません。

 

しかし実際には、教室で心から困っているギフテッドの子がとても多いのが実情です。

 

もし、大人が1時間かけてひらがな2~3文字を習うとしたら。

 

そしてそれが毎日何時間も続き、他のことをするのも許されないとしたら…ものすごく退屈で、気が狂いそうになるのではないでしょうか。

 

そのうちやる気を失って無気力になり、せっかくの才能もつぶれてしまうことが危惧されます。

 

また、同年代の子に自分の発見や考察を話しても「なに言ってるか分からない」と相手にしてもらえなかったり、習っていない漢字を書くと正しくてもバツをつけられたり、授業中に高度な質問やミスを指摘して先生にまで嫌がられたり。

 

前述のようにギフテッドには発達障がいをあわせ持つことも多いため、「暗黙の了解に気付けない」「相手の感情を読み取れない」といった特性から人間関係で苦労することも多く、けしてギフテッドで成績優秀だから学校生活が順風満帆……とはいえない子がとても多いのです。

誤解⑥ギフテッド教育なんてしたら、ますます学力差が広がるのでは?

「特別優れている、いわばエリートの子だけにもっと進んだ学びを提供して一般人はそのままじゃ、もっと学力の差が広がるのでは?」

という声も聞きます。

 

しかし、ギフテッド教育=英才教育ではありません。

 

文部科学省の提言にもあるとおり、特別抜きん出た才能のある子供向けに、高校や大学・企業の協力を得てハイレベルな学びができる取り組みは少しずつ始まっています。

 

しかし今の日本では、高い能力があるにもかかわらず制度上「みんなと同じこと」をするしかなく、それが苦痛で不登校になってしまうような子たちを救う仕組みはまだまだ整っていません。

 

こういった子たちがみんな苦痛なく学習に取り組めるような工夫と、発達障がいをあわせ持つ子への合理的な配慮などが、これからのギフテッド教育の第一歩になると考えられます。

 

海外で行なわれているギフテッド教育には、ギフテッドと認定された子だけが通うスクールへ転校する、在籍校で放課後や週末により高度な授業を受ける、学校に行かず家庭教師やオンラインで学ぶ、飛び級をする…などさまざまな選択肢があり、広く受け入れられていることが分かります。

おわりに

今回は、最近よく見かけるようになった「ギフテッド」の子供たちについて、基礎知識や勘違いしがちな点について解説しました。

 

繰り返しますが、日本ではまだギフテッドの明確な定義がなく世間一般の理解も少ないため、支援もやっとこれから…という状態です。

 

しかし、やはり大切なのは大人がどう思うかではなく、子供自身が自分に合ったレベルの学びをワクワクして進められているかどうかではないでしょうか。

 

それはなにもギフテッドの子たちに限ったことではなく、すべての子供たちが「分からなくてつまらない」「簡単すぎてつまらない」「特性のために勉強に取り組めない」といったことのないように、きめ細かく学習の最適化を進めていけるのが理想だと思います。

 

文/高谷みえ

参考/内閣府|Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ

https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/saishu_print.pdf

文部科学省|特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議審議のまとめ

https://www.mext.go.jp/content/20220726-mxt_kyoiku02_000024176_001.pdf