2022年の冬季五輪で、日本女子チームが初の決勝進出と銀メダル獲得を決めて大いに盛り上がった競技の「カーリング」。

 

ところで、このカーリング競技を子育てに例え、子供の健全な成長を阻害するといわれる「カーリングペアレント」という言葉を聞いたことありますか?

 

今回は、カーリングペアレントの意味や、なぜ子供の成長によくないのか、似た言葉である「ヘリコプターペアレント」「モンスターペアレント」との違いなどを解説します。

カーリングペアレントの意味とは?

カーリングでは、氷の上で的に向かってストーン(石)を投げ、高得点を競います。

 

このとき、狙い通りの位置に石を誘導するため、選手たちが氷にブラシをかけて角度や速度をコントロールしますよね。

 

この姿を、わが子を親の思い通りの方向へ進ませようとあれこれ手を出す親に重ね合わせたものが「カーリングペアレント」なのだそうです。

ウィンタースポーツが盛んな北欧で生まれた言葉とのこと、納得してしまいますね。

 

前もってわが子がぶつかりそうな困難や障害を予測し、取り除いておくカーリングペアレントの心理は、「子供が苦しむ姿を見たくない」「失敗したらかわいそう」という愛情ゆえにそうしてしまう場合と、「この子を親である自分の思い通りに行動させなくては!」という支配欲から出ている場合、そして両者が入り混じっている場合もあります。

ヘリコプターペアレントやモンスターペアレント(モンペ)との違い

「困った親」を表す言葉には、他にも「ヘリコプターペアレント」や、通称モンペこと「モンスターペアレント」などがあります。

 

それぞれ、カーリングペアレントとどう違うのでしょうか?

常に上空で監視…ヘリコプターペアレントとは?

「ヘリコプターペアレント」は、アメリカで生まれた育児用語とされています。

 

1人で判断行動できる年頃の子供の様子をいつも気にして、なにかあると誰よりも早く駆けつけてあれこれと世話を焼く親のようすを、上空でいつも旋回しながらターゲットを監視し、いざという時は急降下してくるヘリコプターに例えた言葉です。

 

はじめは、高校生や大学生の友達付き合いや結婚相手選びなどティーンエイジャー以上の親に使われていたのが、最近は転じて小さい子供の育児の場面でも使われるようになっています。

 

カーリングペアレントとの違いは、ヘリコプターペアレントが「何か起こったとき」にたちまち行動を起こすのに対し、カーリングペアレントは「何かが起こる前」からいろいろと手を打ってしまう点だといえます。

うちの子さえよければいい!モンスターペアレントの特徴

「モンペ」と略されることも多い「モンスターペアレント」は、かなり有名な言葉なので知っている人も多いと思いますが、「わが子さえよければいい」という観点で、子供の通う園や学校の先生・習い事のコーチなどに向け、理不尽な要求を押し通そうとする親のことをいいます。

 

「わが子のためによかれと思う状況」を親が作り上げてしまう点では、カーリングペアレントと共通していますね。

 

しかし、モンスターペアレントは要求を通すために外部に向けて攻撃的な態度をとることが多く、誰から見てもそれと分かるのに対し、カーリングペアレントはパッと見は問題があるように見えず、むしろ世話好きの優しい親に見えることすらあります。

ついつい先回り…子供の力を奪わないための対処法

親が先回りして困難をとりのぞく、あるいは子供自身に行き先を決めさせず、行かせたい方へルートを作って誘導する……。

 

まるでカーリングの石のように育てられると、子供にとってどんな弊害があるのでしょうか。

 

まず、生きていく上で欠かせない「失敗」という貴重な体験がなかなかできません。

 

失敗すると、その時は痛かったり恥ずかしかったり悔しかったりしますが、それと引き替えに子供たちはとても多くのことを学べます。

 

「子供には失敗する権利がある」という格言もあるほどです。

 

もちろん、大けがをするような危険な目にあわせる必要はありませんが、ちょっとしたケンカや仲間はずれ、ゲームで負けるなどのしょんぼりするような体験は、親が取り除くのではなく、後ろで見守るのがおすすめ。

 

こういったネガティブな経験は、親の目が届かない年齢まで成長して初めて1人で直面するよりも、目の前で子供のようすが見える小さい時にたくさん経験させてあげるほうがずっと安心ですよね。

 

親の仕事は、泣いて戻ってきた子供をなぐさめたり、悔しさや悲しさに共感したあとで、「次はどうしたらいいかな?」と考える手伝いをすることではないでしょうか。

 

また、失敗しそうな時に、いつも子供の行く手をさえぎって「ちょっと待って!ママがしておくからね」というやりとりを繰り返していると、子供は「自分は1人ではちゃんとできない存在なんだ」そして「1人で何かを決めたりやったりしてはいけないんだ」と思うようになってしまう可能性があります。

 

そして、いざ就職などの段になって「あなたの強みは?」「あなたは弊社で何をやりたいですか」と聞かれた時には何も答えられないかもしれません。

 

さらに、失敗が極めて少ない環境で育っていくと、失敗するのが怖くて新しいことや難易度の高いことに挑戦できなくなったり、一度でも失敗したら立ち直れないほど落ち込んだり、思い通りにならないときに感情がコントロールできない、いわゆる「キレやすい」性格になったり…...と、さまざまな弊害があるといわれています。

 

思わず先回りしてしまいそうになったら、上記を思い出して、ぐっとこらえる習慣をつけたいですね。

おわりに

今回は、最近ふたたび話題となっている「カーリングペアレント」の意味や心理を解説しました。

 

「もしかして自分も…」とドキッとした人もいるのではないでしょうか。

 

しかし、どんな親でも「子供の悲しむ顔は見たくない」という思いは共通です。また、子供の自主性を育みたいとはいえ、ある程度は親の希望通りの道を選んでくれればやっぱりうれしいですよね。

 

カーリングペアレントになるかならないかの分かれ道としては、上のような気持ちをいっさい持ってはいけないのではなく、子供には適切に失敗や困難も体験させつつ「失敗してもOK、どんな時もママやパパはあなたの味方だよ」というメッセージを態度や言葉で伝えていくことではないかと思います。

文/高谷みえこ