SNSに数多くの作品を公開し、今や日本だけでなく海外でも話題の葉っぱ切り絵アーティストのリトさん。葉っぱを切るという繊細なアートで、心温まる動物たちの世界を表現した作品たちが、どのように生まれているのか教えてもらいました。

きっかけは「作品解説をやめたこと」

—— 葉っぱ切り絵アーティストを始めるきっかけについて教えてください。

 

リトさん:

僕自身が発達障害ということが判明し、その障害のことを世の中に発信するツールのひとつとしてはじめたのが、アートの投稿です。自分が持つ過度の集中力を生かして描いた緻密なイラストを投稿することで、発達障害について理解してもらえるのではないかと。

 

葉っぱ切り絵アーティストのリトさん
葉っぱ切り絵アーティストのリトさん

—— 最初から活動は順調だったのでしょうか?

 

リトさん:

初めてTwitterでイラスト作品を公開したときは、反響もありました。もともと、僕のアカウントでは発達障害についての情報を発信していて、そのときのフォロワーさんが1800名いまして。「リトさんが新しいことを始めたぞ」と、興味を持ってくれる人もいました。

 

しかし、それも長くは続かず。アートを仕事として成り立たせるのは難しい、他の人がやっていないことを考えなければいけないと、試行錯誤のなかで見つけたのが、葉っぱ切り絵でした。何時間でも細かい作業に集中して取り組める自分に、葉っぱ切り絵は非常に向いていると思いました。

 

ただ、葉っぱ切り絵を投稿し始めて8か月ほどは、ほとんど反応がなく、「やはりこれもダメか…」とやめようかと思っていたんです。それがある作品を投稿したところ、突然、すごい勢いでリツイートされ始めたのです。

 

「星と雪の夜に」(『いつでも君のそばにいる』(講談社))
「星と雪の夜に」『いつでも君のそばにいる』(講談社)

—— どの作品でしょうか?

 

リトさん:

大きな水槽で泳ぐ魚たちを人々が見ている、「葉っぱのアクアリウム」という作品です。

 

「葉っぱのアクアリウム」(『いつでも君のそばにいる』(講談社))
「葉っぱのアクアリウム」『いつでも君のそばにいる』(講談社)

実はずっと作品とともに、長めの解説文を添えていました。書いていた内容は「作品の説明」や、その作品を通して得られる「学び」などです。

 

例えばイノシシの切り絵には、「イノシシは犬かきで泳ぐことができる」という、豆知識を添えていました。

 

ただ「葉っぱのアクアリウム」の少し前からは、その長い解説文をやめることにしていました。作品と一緒に投稿するのはタイトルだけ。解説なしでも何を表現しているかわかるような作品を心がけるようにしたんです。それがよかったのか、この作品で突然バズって、メディアにも取り上げられるようになりました。

 

—— シンプル化したら予想に反して反響があった、と。

 

リトさん:

そうですね。タイトルだけシンプルに添えるほうが、見る人は想像力をかき立てられて、良かったのかもしれません。「なんだ、言葉はいらなかったのか」と気づいた瞬間でした。

 

以来、基本的には作品にはタイトルだけ添えることに。作品には色をつけられるわけではないので、今では「パッと見た瞬間でわかる」ということを大切にしながら作っています。

 

—— 背景の美しさも作品を引き立てている気がします。

 

リトさん:

初期の頃は室内の白壁をバックに撮影をしていましたが、他の方のSNSなどを見るなかで、葉っぱは自然のなかで写すほうがいいと気づき、最近は空をバックに撮影しています。少し緑が入ったほうがいいかなと、画角に木々を入れるようになりました。

 

14万「いいね」が付いた「君に会いに来たんだ」(『いつでも君のそばにいる』(講談社))
14万「いいね」が付いた「君に会いに来たんだ」『いつでも君のそばにいる』(講談社)

 

 作業工程で「失敗」は日常茶飯事                                

—— 作品のテーマはどのように決めているのですか?

 

リトさん:

ほぼ毎日の頻度でSNSに作品をアップしているのですが、これだけ毎日アップしていると、テーマに困る日もあります。そのときは、今日は何の記念日か、という切り口の情報を収集します。先日は「世界亀の日」ということで、亀に乗った浦島太郎が竜宮城を訪れるシーンの葉っぱ切り絵をつくりました。

 

毎月、その月に誕生日を迎える方をお祝いする作品「○月生まれの君におめでとう」や、12か月の星座をテーマにした作品も投稿しています。

 

それでもどうにもアイデアが思い浮かばない日もあります。そんなときは、「あれとこれと…うん、明日やろう」のように、テレビをのんびり見ている、まさに自分の現状を葉っぱ切り絵で表現するなんてことも…。

 

「あれとこれと…うん、明日やろう」(リト@葉っぱ切り絵Instagramより)
「あれとこれと…うん、明日やろう」リト@葉っぱ切り絵Instagramより

—— 葉っぱにもこだわりが?

 

リトさん:

撮影するときに葉っぱを持つため、片手で持ってきちんと葉っぱが自立するのはマストです。ただ分厚すぎると切りづらい、小さすぎると絵を描きにくいなどあり、探すのが意外と大変です。

 

葉っぱは、常時ストックを切らさないようにしています。入手しやすく、サイズも使いやすいのでサンゴジュやアイビーをよく用いますが、秋限定ですが、もみじやイチョウなどを使い、色や形を生かした作品を作ることもあります。

 

以前は、葉っぱなので徐々に劣化していくため、撮影が終わったら作品は捨てていたのですが、現在は加工してドライリーフにすることで、作品を保管して展示会を行うことができるようになりました。

 

制作の様子
制作の様子

—— 失敗することはないのですか?

 

リトさん:

もちろん制作過程で失敗はあります。そもそも細かい作業ですし、2時間くらいでできる作品もありますが、大作になると、6〜8時間ずっと集中して作り続けているので。

 

作業工程は、テーマを決めたら紙に下絵を書き、次に葉っぱに下絵。それからナイフでカットしていきます。失敗したときは、最初からその部分がなかったかのようにリカバーするワザも磨いてきました。必ず下絵通りでなくてはいけないということはないんです。

進化し続ける葉っぱ切り絵アーティスト

—— 始めた頃に比べると、ご自身の作品に進化を感じますか?

 

リトさん:

初期の作品は今では恥ずかしくて見られません(笑)。そう思うと、技術面で成長しているのもしれないと思います。

 

今まで森を描いた作品はたくさん手がけてきたのですが、水のなかの世界はほとんどテーマにしたことがありませんでした。チャレンジしてみたのが、先ほどお話しした浦島太郎をテーマにした「さあ、竜宮城に着きましたよ」という作品です。

 

森は木を立てると森とイメージしやすいけど、水のなかってどうやって表現したらいいんだろうと悩みました。結局、葉っぱを丸く切り抜いたり、海藻を作ることで水のなかであることを表現したのですが、まだまだ学ぶことはあるなと感じました。

 

「さあ、竜宮城に着きましたよ」(『いつでも君のそばにいる』(講談社))
「さあ、竜宮城に着きましたよ」リト@葉っぱ切り絵Instagramより

—— これからの目標を教えてください。

 

リトさん:

葉っぱ切り絵アーティストの第一人者であり続けたいと思っています。

 

今、作品集を出版させてもらったり、全国で展示会を開かせていただいたりしていて、多くの方に自分の作品を見ていただけています。欧米やアジアなど海外のメディアでも取り上げてくださっているようです。僕の作品を見ることで一人でも多くの方の力になれたら嬉しいですね。

 

PROFILE リト@葉っぱ切り絵

葉っぱ切り絵アーティスト。1986年生まれ。神奈川県出身。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。国内メディアから、米国、英国、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イラン、タイ、インド、台湾など、世界各国のネットメディアでも、驚きをもって取り上げられる。8月に新刊『葉っぱ切り絵絵本 素敵な空が見えるよ、明日もきっと』が発売予定。

葉っぱ切り絵絵本 素敵な空が見えるよ、明日もきっと

取材・文/酒井明子 撮影/キムラミハル