「私たち女性は、10年前、20年前と比べて働きやすくなっているのか」考えてみたことはありますか?
キャリアコンサルタントで、自身も二児の母である岩橋ひかりさんは「働く女性が多数となり、ワーママは誰かを手本にするのではなく、個々人で働き方を模索する時代に突入した」と話します。
ワーママを取り巻く環境の変遷、現在の状況との向き合い方について伺いました。
「自分らしく働く」が特別ではなくなってきた
── コロナ禍でリモートワークが急速に進み、在宅勤務が浸透しました。子どもと過ごす時間が増えて嬉しい反面、“オンとオフの切り替えがしづらくなった”“家族が家にいることで、かえって負担が増えた”という声も少なくありません。実際、ワーママにとって、働きやすさは向上したのでしょうか?
岩橋さん:
ワークスタイルが大きく変わったことで、家庭での家事分担や時間の使い方が変わるなど、いったんゼロベースのスタートになり、戸惑う人もたくさんいました。
ただ、コロナ禍もさすがに3年目を迎えるので、当初の混乱期と比べるとずいぶん落ち着いてきたなという印象です。実際、私の周囲では、この状況を受け入れながら、みずからのキャリアを見つめ直し、そのうえで、次のステップへと進み始めている人が増えています。
世の中の流れとして、“もうそろそろ自分らしく生きていいよね!”といった方向性を感じますね。
── 背景には、どういったことがあるのでしょう?
岩橋さん:
以前は、“自分らしく生きる”というと、ややハードルが高めで、特別な人やイケてる人がやっている、といったイメージが少なからずあったと思うんです。
でも、人生100年時代を迎え、個人がそれぞれの価値観で生きることを追求するようになってきた。そうして、より自分らしい働き方や生き方というものをみんなが本気で考え始めたのだと思います。
柔軟な働き方を求めて転職や独立に踏みきる人がいたり、まったく別のことを始める人もいます。あるいは、いったん子育てに振りきる人も。その選択はさまざまです。こうした声は、男性からもよく聞きますね。
ヘトヘト両立生活から自分らしい生き方へ
── そうなんですね。確かに、自分らしい働き方や生き方について、みんなが“自分ごと”として模索し始めた感じはあります。
岩橋さん:
労働環境の変化によって、ワーママが直面する悩みも変貌を遂げてきました。現在は、「ワーママ1.0〜2.0」を経て、自分らしい生き方や働き方を求める「3.0」のフェーズに入っています。
── 「ワーママ3.0」ですか…?
岩橋さん:
働く女性が増え始めたころ、女性たちが最初に直面した悩みは、「妊娠、出産しても仕事を続けるか?」でした。これが「ワーママ1.0」になります。
その後、2010年に育児・介護休業法の改正で短時間勤務制度が義務化され、それに伴い、復帰後も働き続けやすい環境整備が進みました。そうして、出産しても働き続けることが一般化してきました。
── すでに10年くらい経つのですね。
岩橋さん:
続いての、「ワーママ2.0」は、「どうすれば両立できるか」という問題です。
例えば、子どもが病気になったときの預け先の確保だったり、両立を快適にするためのさまざまな時短術、家事や育児にどう夫を巻き込むかなど、具体的な悩みを解決するための情報収集や共有が盛んに行われるようになりました。
ところが、毎日時間に追われ、ヘトヘトの状態で両立生活を続けるなかで、「本当にこれでいいの?」と考えるワーママが増えてきたんです。さらに、先ほどお話しした世の中の風潮も追い風になり、自分らしい働き方・生き方を模索するようになってきた。現在はこの「ワーママ3.0」のフェーズを迎えているというわけです。
悩むことはチャンスである
── 時代と共に、両立の悩みや考え方も変化を遂げてきたのですね。とはいえ、今もワンオペで孤軍奮闘していたり、理解が乏しい環境のなか、肩身の狭い思いをしながら働くワーママも少なくありません。そうした環境にいる人にとっては、「私だって自分らしく働きたいけれど、とても無理…」と、考えてしまいそうです。
岩橋さん:
現在、厳しい環境にいる人たちは、なかなか先のことを考える余裕がないかもしれません。ですが、“自分にはとても無理”と考えないでください。そもそも「私らしい働き方や生き方」に正解はありません。まずは、自分が本当はどうしたいのか、何を目指すのかを明確にすることから始めましょう。
忙しい日常のなかで、自分のキャリアについて立ち止まって考えているという人は、意外と少ないのではないでしょうか。
ですが、悩み考えることによって、進むべき方向性が見えてきたり、新しい発想がわいてきたりして、自分が変わるきっかけになります。ですから、今がチャンス!と考えましょう。
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悩むこと=自分が変わるチャンスと捉える事で、気持ちがポジティブになり、なんだか勇気がわいてきます。次回は、「自分らしい働き方」を見つけるための方法を伺います。
PROFILE 岩橋ひかりさん
取材・文/西尾英子