着て眠るだけで疲労回復──夢のような商品が登場したのかと注目を集め、2030年には市場規模1700億円にもなると予測される「リカバリーウェア」。CMやSNSでも話題の機能性衣類ですが、着るだけで本当に疲労は一気に抜けるのでしょうか?一般的な衣服との違いや具体的な効果、そして着用を意識することで得られる意外なメリットについて、医師の海原純子さんに話を聞きました。

一般の衣類とは何が違うの?

海原純子
「リカバリーウエアがすべてを解決するわけでなく、ふだんの生活習慣も大切」と話す海原純子さん

── 注目を集めているリカバリーウェア、名前から体力回復や健康促進といったイメージを抱きがちですが、実際はどういったものなのでしょうか?

 

海原さん:着るだけで血行を促進し、疲労回復や筋肉のコリの緩和をサポートする機能性衣類のことです。医療機器は4つのクラスに分けられるのですが、そのなかで使用上のリスクがもっとも低い「クラスⅠ(一般医療機器)」に分類されています(※)。これは医療用マスクや温熱パッドなどと同じカテゴリーで、人体へのリスクは極めて低く、メーカーが届け出れば販売できます。国がその商品を個別に承認審査するわけではありません。ですから、休養や睡眠環境を整える「補助アイテム」として活用するのが現実的です。

 

※数は少ないが、クラスⅡ(管理医療機器)に分類されるリカバリーウェアも存在する。クラスⅡの商品は磁気の力で筋肉の深い部分に直接届くため、「装着した部位のコリ及び血行の改善」などと明確に表せられる。それを担保するために第3者機関による厳格な審査・認証も必要になっている。

 

── 一般的な衣服との違いはありますか?

 

海原さん:薬機法に基づいた「明確な使用目的(効果・効能)」を表示できる点や、科学的な根拠がある点で、一般の衣服とは異なります。リカバリーウェアは「疲労回復」など具体的な身体の変化を表現できますが、一般的な衣類はそういった内容をうたうことはできません。また、着用による血流量の変化などを測定する評価試験を行っている点もリカバリーウェアの特徴で、一般的な衣類にはないですよね。

ウェアを着ることで得られる意外な効果

── 実際に着用した場合の主な効果は?

 

海原さん:血行促進、疲労回復、筋肉のコリをほぐすのが主な効果といわれています。遠赤外線を放射するセラミックなどの繊維や特殊素材による温熱効果で皮膚の表面が温まり血行を促進。血流がよくなれば身体にたまった疲労物質や老廃物が運ばれます。また、血液が巡ることで筋肉の緊張が緩むとされています。ただし、それらの作用は極めて緩やかで、身体への直接的なダメージを与えない非侵襲(ひしんしゅう)性が特徴です。

 

── 商品のCMでみかけるような「着て休むだけ」「眠っている間に疲労回復」みたいな効果は期待できるのでしょうか?

 

海原さん:繰り返しますが、本質的には補助的なものです。たとえば、生活習慣が整ってないなかで着用しても、体調が劇的によくなるわけではありません。認められている効果はあっても「着て眠れば1日で回復する」といった即効性もないわけです。

 

むしろ、私は心理面での効果が期待できると考えています。これらの商品に興味を持つ方は、少なくとも身体への意識があるわけです。セルフケアにベクトルが向いている。だから、ウェアを着用するだけでなく「寝る前に軽くストレッチしよう」「ふだんから少し身体を動かそう」といったモチベーションが働く方もいるでしょう。リカバリーウェアをきっかけに、健康習慣が身につくなら大きなプラスです。

 

あとはプラセボ効果で、「着ているからよく眠れるだろう」という安心感もあるでしょう。たとえば不眠の大きな要因として「夜、眠れないのでは…」といった不安感があります。そこにリカバリーウェアの存在が「(血行を促進するから)これを着たら眠れるだろう」と思い込みや期待感がもてる。これは「援助への期待」と言い、これがあるから大丈夫という安心感や期待感が心理的に働きます。

肌荒れやかぶれがあれば使用中止を

── 即効性ではなく、あくまで補助的なもの。ただし、心理面で副次的な効果もあるのですね。では、着用時の注意点はいかがでしょうか。たとえば、着てはいけないタイプの方もいますか?

 

海原さん:アトピーなどは問題ないとは思いますが、気になる場合は必ず医師に相談するのが賢明です。また、人によっては肌に触れるものなので肌荒れやかぶれも考えられます。その場合は着用を控えたほうがいいでしょう。また、着用時にインナーを「着るか着ないか」で言えば、効果には差がないと思います。ほかに挙げるなら、肩こりが気になるなら全身でなく上半身だけの着用でも十分でしょう。

 

── 便利なものだけど、過信し過ぎない意識が必要ということですね。

 

海原さん:自分が着てみて心地よかったり、体調の良さを実感したりするなら着続けていいですし、逆に途中でやめてもいいと思います。何でもそうですが「これが絶対」というものはありません。最近は40、50代の女性が急に健康意識に目覚めて、過度な運動して疲労骨折するといった話をよく耳にしますので、身体とは適度につき合うこと。リカバリーウェアきっかけで、日々の健康意識に目を向けてくれればと思います。

 

取材・文:西村智宏 写真:海原純子(本人と書籍写真)※サムネイルの写真はイメージです