過酷な生活や運命にあるなかで、人はどう生きるか。恨みや泣き言を言うのはしかたがない状況でも、どこか軽やかでしなやかに生きてきた風間トオルさん。60歳を超えてなお、さわやかな風貌には、本当に強い人にしかない品格が宿っているのかもしれません。その生き様には、考え方のヒントが詰まっています。
さんまさんが幼少期の話を面白がってくれた

── テレビドラマや映画で活躍する一方、幼少期は離婚で親とは離れ離れに暮らし、祖父母との生活も困窮。そして、祖父の介護も経験した風間さんはもともと、ご自身の生い立ちを「人に話すことでもない」と思っていたそうですね。当時はそうした経験をどんなふうに捉えていたのでしょうか。
風間さん:別に隠していたわけではなくて、「わざわざ人に話すことでもないかな」と思っていたんです。自分にとっては当たり前の日常でしたから。きっかけは、明石家さんまさんの番組に出させていただいたことでした。そのときに子ども時代の話をいろいろ聞かれて、自分にとってはふつうだと思っていたエピソードをお話ししたら、みなさんがものすごく笑ってくれたんです。「あ、この話ってそんなに面白いんだ」「こんなに喜んでもらえるなら別に話してもいいのかな」と、思うようになりました。
それまで「どこぞのお坊ちゃんだと思っていた」と言われることが多かったんです。なぜか昔からそういうふうに見られていたんですけど、自分からわざわざ「違うんです、実は」と訂正するのもおかしいですし、どこから話したらいいのか、わからないのもありましたしね。
── はたから見れば、過酷にも思える子ども時代ですが、そうした経験を振り返る風間さんの言葉からは、置かれた環境への不満や親への恨み節がまったく聞こえてきません。人にあまり期待しないという感覚もあるのでしょうか。
風間さん:人に期待しないというよりは、「自分でやりたい、何でもやってみたい」という気持ちのほうが大きいですね。自分にはできないんじゃないか?と思うようなことや、投げ出して誰かに任せたくなるような場面でも「これってもしかしたら自分でもできるんじゃないか?」と、一度立ち止まって考えて、まずやってみる。
それに、けっこう問題があっても自分で抱え込むのが好きみたいです。人に頼らず自力でというと、苦しそうに聞こえるかもしれませんけど、あれこれ考えを巡らせて試行錯誤する時間そのものが楽しいんですよね。何もない平坦な道より、壁や試練があったほうが面白い。「なんとかなる」とまでは言いきれなくても、「なんとかしたい」思いが自分を動かしている気がします。
外食高い「作れば10分の1で再現できる」
── 一方で、自分ではどうにもならないことにぶつかったときは、どうしていたのでしょうか。
風間さん:自分のなかで、どこかで線を引いているところがあるのかもしれません。「ここまではできるけれど、これ以上はできないだろうな。だったらできる範囲内で考えよう」と。たとえば子どもの頃はお金がなかったから「100円までなら出せるけれど、それ以上は出せない。だったら100円以上出さないと叶わない夢は最初から持たない」と考えていました。
でも、それは夢を諦めるということではないんです。100円以内で叶う夢だって、世の中にはたくさんありますよね。それをできるだけ探していっぱい持とうと思っていました。
── 子どもの頃は「早く大人になって自分で稼ぎ、好きなものを買う」という思いが心の支えだったそうですね。実際に大人になり、それが叶うようになって金銭感覚は変わりましたか。
風間さん:基本的にはあまり変わっていないと思いますね。浪費家ではないですし、自分から「あれが欲しい、これが欲しい」となることもほとんどありません。今も子どもの頃の感覚が残っていて、自分の金銭感覚は昭和のままで止まっているところがあるかも。
たとえば今、外食に行くとすごく高いじゃないですか。お店で値段を見ると、「こんなにするんだ」と、ちょっとビックリするんですよ。若い頃から飲食店の厨房で調理のアルバイトを経験していたので、飲食店で食べたものもなんとなく自分で再現できるんです。だから「これ、家で作ったら10分の1くらいの値段でできちゃうな」なんて思っちゃいますね(笑)。
好奇心がきっといい答えを見つけてくれる

── お話を伺っていると、状況に応じて考え方を切り替えていく「しなやかさ」を感じます。イヤなことや理不尽なできごとに直面したときは、どのように受け止めてきたのですか。
風間さん:若い頃は言われのないことを言われると、ちょっと傷ついたりもしましたよ。でも、だいたいは「寝てしまえば翌日には忘れる」と思っているので、イヤなことがあったときは早めに寝るようにしていました。
子どもの頃は経済的に厳しく、家にはすきま風がすごく入ってくるので、冬の夜は寒くてなかなか眠れなくて。布団の中でどうしようかと縮こまっているんですけど、そのうち疲れて寝てしまう。そうすると、いつの間にか朝が来て、また暖かくなる。そういう経験を繰り返すうちに、「明けない夜はない」という感覚が自然と身についていったんだと思います。
だからイヤなことや大変なことがあっても、「まあ、そういうこともあるよな」と受け止める。目の前の1日を一生懸命やっていれば、そのうち良いこともあるし、トータルでチャラになればいい。そうやって、その日その日を精いっぱい生きることで、前に進んできたんだと思います。
── 還暦を過ぎた現在も、年齢を感じさせない若々しい姿がたびたび話題になります。ご自身では、その若さや活力を何が支えていると思いますか。
風間さん:健康のために食事や運動も意識していますけど、一番は人に会うことですね。人に会えば、それだけいろんな経験ができますから。だから、仕事でもロケの番組は好きですね。自分のプライベートでは出会わない人に会えたり、経験もできたり。知らない土地へ行って、道路や田んぼ沿いなどを歩いている地元の方と話したり、その土地の人しか知らないようなものや食べ物があったら挑戦してみたり。知りたい、しゃべってみたいという好奇心は、子どもの頃からずっと変わっていないと思います。
やっぱり、いろんなことを経験して、自分で考えて動いてみる。そうしていると、おのずといい答えも見つかるんじゃないかな、と思っています。
取材・文:西尾英子 写真:風間トオル