これまでは年の差婚といえば、男性が年上の傾向でした。しかし、いま「女性が年上」の結婚が増えています。初婚夫婦のうち「妻が年上」の割合は25.5%と過去最高を記録。なぜ年上妻を選ぶ男性が増えているのか?年下夫との生活に見出すものは?社会学者の山田昌弘さんに変わりゆく結婚観と新しい夫婦の在り方を聞きました。
「女性が年上」への心理的な壁が薄くなった訳
── 国の調査(※1)によると、「妻が年上」の初婚夫婦の割合は今や4分の1を超えています。妻年上婚の動きは結婚相談所の調査でも表れていて、とくに若者世代にその傾向が強いようです。家族社会学などを専門に中央大学で教鞭をとる山田昌弘さんは、「婚活」という言葉の生みの親として、この動きをどのように見ていらっしゃいますか?
山田さん:一般には「男性は自分より若い女性を選ぶ」イメージがあるかもしれませんが、大きく見ると夫婦の年齢差は年々縮まっていて、国の調査(※1)によると初婚カップルの平均的な年齢差はわずか1.4歳です。
そうした動きのなか、「妻年上婚」も確実に増えています。1970年頃は1割程度と少数でしたが、徐々に増えて2000年代には2割を超えるようになりました。「女性が年上だから」と結婚をためらう心理的な障壁が薄くなり、結婚の可能性が広がっているわけですから、それはいい傾向だと思いますよ。

── 女性にとって、年下男性との結婚生活にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
山田さん:以前、ある番組でご一緒したヘアメイクの女性は「7歳年下の夫はこちらの言葉に素直に耳を傾けてくれるから、一緒に生活していてすごくラク」とおっしゃっていました。今の若い男性は「家事や育児を手伝いたい・参加したい」という意欲があるとはいえ、親世代の影響もあって、「男性が主導権を握るべきという自負」、「年下の者は年長者を重んじるべき(長幼の序)という儒教的な価値観」が色濃く残っています。日々の生活のなかで、同世代や年下の女性から家事や育児について要望を言われると、つい反発してしまうわけです。
いっぽう、相手が年上であれば、長幼の序の心理が男性優位の心理を中和するのか、その反発心は薄れます。人生経験も仕事の経験も豊かな年上の妻から言われる言葉は、比較的素直に受け入れやすいのでしょう。年下ゆえに主導権を握ることにこだわらない男性と、自立した年上女性のバランスは、対等なパートナーシップを築きやすく、共働き子育て家庭を円滑に回すうえでメリットが大きいのかもしれませんね。
「プライドよりも現実」を見る若い男性
── 男女の価値観や経済状況など、さまざまなものが変化していますが、「妻年上婚」が増加している要因はなんでしょう。
山田さん:ひとつ大きいのは、美容やスキンケア、ファッションへの意識の高まりによって、女性が年齢を重ねても魅力的な印象を保ちやすくなったことです。仕事を続けることによる自己効力感も、それに拍車をかけています。
男性が結婚や恋愛相手を判断する際、最初のハードルとして外見的な印象を重視する傾向は依然としてさまざまなデータに表れていますが、その基準をクリアする女性の年齢層が格段に広がったということです。
── 女性にとっては「年齢を理由に選択肢が狭められることが減った」と捉えることができますね。
山田さん:そうですね。40〜50年前であれば、30代以上の女性は肌ツヤや服装、髪型などで「おばさん」とみなされることもあり、若い男性からは恋愛対象から外される現実がありました。しかし、今や、そうした年齢によるレッテルが意味をなさなくなりつつあるわけです。
── 外見以外の面で、結婚相手に求める条件に変化はありますか?
山田さん:こちらは大きく変わりました。とくに女性の大学進学率が大きく増えた40代以下の結婚観の変化は大きいですね。40代以上の男性には「男が稼いで家族を養わなくてはならない」、「家庭では男を立ててほしい」という昔ながらの意識がまだ残っています。しかし、今の若い男性はまったく違います。「女性にも稼いでほしい」、さらには「自分より稼いでくれるならありがたい」とさえ考える人が目立つようになっています。
経済状況の変化で、ひとりで家族を養うことは困難になっていることも大きいでしょうね。ある男子大学生は「妻がパートじゃ、東京で家を買うこともできない」とこぼしていました。経済が右肩上がりだった時代と違い、今は正社員で必死に働いてもそんなに給料が上がるわけではない。よくも悪くも男性の「養わねばならない」という肩の力が抜けてきたと言えます。裏を返せば女性の「稼ぐ力」がプラスに評価されやすくなったというわけです。
婚活で失敗する人の決定的な傾向が明らかに
── 男性側の「養わねば」というプレッシャーが変化して、女性に求めるものが変化してきたのですね。
山田さん:国の調査(※2)でも、近年は男女ともに結婚相手に求める条件が一筋縄ではいかなくなっていることがわかっています。男性は女性に対し「経済力」を求めるようになっていますし、女性は男性に対し「家事・育児の能力や姿勢」「容姿」を求める割合が上昇しています。
こうしたなか、婚活に苦労するのは、古い価値観から抜け出せない人です。「収入が低いのに家庭で優位に立ちたい男性」と、「自分は稼ぐ気がないのに、親世代のように高収入の男性に養ってもらいたい女性」、この2つの層は、今の婚活市場では後れをとっています。
── 女性から見ると、「外見を磨いて、稼いで、家事育児もして…」と、結婚生活のハードルがさらに上がっているように感じます。「そんなのムリ!」「やってられない」という気持ちになってしまいます…。
山田さん:そうですね。男女の役割分担に関する意識の変化はみられるものの、家事・育児の負担は依然として女性側に偏りがちだという調査結果(※3)もあります。「稼ぐ力も家事育児力も」という要求が、男女で同じ重みで課されているとは言い切れません。ここは今の共働き夫婦が向き合うべき、大きな課題だと思います。
── 仕事や家事に追われる生活で、そうした不均衡を解消しながら幸せな夫婦関係を築くには、どうしたらいいのでしょうか。
山田さん:お互いがコミュニケーション力を磨くことも大切です。相手の状況やニーズを察する力、そして、不満や要望をため込まず、率直にかつ建設的に伝え合う力を身に付けていく。これからの時代、幸せなパートナーシップを築くために求められる姿勢です。
年齢差や従来の「男は仕事、女は家庭」という役割分担にとらわれる必要はなくなりました。お互いに努力して自分を磨き、敬意を払い合いながら協力し合える関係を築くこと。これこそが、これからの共働き時代を生き抜く夫婦のスタンダードになっていくはずです。
取材・文:鷺島鈴香
(※1)厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計」(※2)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(※3)東京都「男性の家事・育児実態調査2025」