情報番組の海外レポーターやモデルとして、20代を駆け抜けた鈴木ちなみさん。かつては「結婚してもバリバリ働き続ける」と、思い描いていたキャリア観は、結婚、出産、そして海外移住で大きく変化。仕事のペースを落とすことへの葛藤をどう消化し、家族優先のフェーズをどう受け入れたのでしょうか。

「時間がない!」スッピンで動画を回したことも

第三子の誕生をインスタグラムでも報告。母親の指を離さない小さな手が愛らしい

── 20代、バラエティ番組の海外レポートなどで活躍していたタレントの鈴木ちなみさん。結婚・出産を経て、現在はシンガポールで育児をしながら現地情報をYouTubeなどで発信しています。移住後、ライフスタイルが家庭メインに変わったことに、とまどいはありましたか。

 

鈴木さん:夫の仕事の都合でシンガポールに移住したこともあり、当初、私のビザは夫の帯同ビザでした。そのため、携帯電話の契約や銀行口座の開設など、何かにつけ夫のパスポートが求められ、私ひとりでは何もできなかったんです。子どもが9か月と小さいこともあって、異国の地での生活を楽しむ余裕もなく、そのことに「自立した人間ではない」ような悲しさ、もどかしさを感じたことはあります。

 

── 海外駐在に限らず地方転勤など、夫の仕事の都合でキャリアを変更することになった女性は、多かれ少なかれそういう思いをするのでしょうね。

 

鈴木さん:慣れない土地での不安をまぎらわせるため、少しでもレポーターなどの経験を生かせたらと、SNSなどを通じてシンガポールの情報を発信していきました。そうした自分の姿を通じて、同じ思いをしているママたちに少しでも元気や前向きな気持ちを届けられたら、という思いもありました。

 

子育てに追われながらの発信なので、メイクなどの時間は十分にとれません。メイク時間は5分程度。「この時間しかない!」と、スッピンで動画を撮ったこともあります(笑)。ヘアサロンも、近場の美容院に3か月に1回行ければいいほう。前髪は自分で切っています。

 

移住後は、主に自分のYouTubeチャンネルやSNSでの発信が多かったのですが、情報発信を少しずつ続けたことが評価されたのか、2026年4月からはシンガポールの日系メディア「SingaLifeTV」で、MCを務めるようになりました。20代のころのレポーターとしての経験、30代以降のシンガポール生活、両方を生かせる仕事です!

心のどこかにあった「子ども中心」の生活観

── テレビ番組やグラビアなど多忙を極めていたころは、将来のキャリアをどのように思い描いていましたか?

 

鈴木さん:私の母はずっと現役で働いていて、その背中を見て育ったので、若い頃は「私も一生バリバリ働き続けるんだろうな」と、信じて疑いませんでした。実際、モデルや海外レポートの仕事は本当に楽しくて、生きがいそのものでした。

 

── そうした華やかな生活から、家庭重視の生活に変わることに葛藤はありませんでしたか。

 

鈴木さん:移住当初は孤独やもどかしさを感じることもありました。ただ、今の家庭重視の生活に、不満はありません。というのも、20代の前半をがむしゃらに駆け抜けるなかでも、「私は自分の家族を作らないと、ダメだな」という思いがあったからです。当時、自分の心のよりどころになっていたのは実家でした。働いて働いて、岐阜に帰った時に家族とおいしいものを食べたり、両親と旅行に行ったり、家族と時間を過ごすのが自分にとって何よりも喜びだったんです。

 

ただ、親には親の人生があり、私よりも先に老いていきます。妹たちも結婚してそれぞれ家族を持っている。だから私は私で、自分の家族を作って、その家族が安心して暮らせる環境を作らなくては…という思いが、ずっと心のどこかにあったのだと思います。そんな私にとって、3人の子どもが幼いうちは、生活の軸足を家庭に置くことは自然なことなんです。

3児の母の夫婦仲「怒りの感情が湧いたら」

鈴木ちなみ
船上からシンガポールの象徴的な像として超有名なマーライオンをバックに写真撮影

── 子育て時間を大切にしながらも仕事はあります。共働き生活をするとどうしてもパートナーに不満を持つ瞬間があるかと思いますが、そんなときはどうしていますか。

 

鈴木さん:在宅勤務が多い夫とは基本的に仲が良いのですが、私が一方的にイライラしてしまうことは当然あります(笑)。「仕事があるから15時から子どもをお願いねって頼んでいたのに、その15分前までオンライン会議をしてるとか、のんきすぎない?」みたいな。

 

── 自分だったら「育児にも引き継ぎがあるんだからもっと余裕をもって!」と、怒ってしまうかもしれません。一方でそれを口に出せず不満を貯めこんだりして…。

 

鈴木さん:私は言いたいことは率直に伝えるようにしています。ただ、そんなときに心がけているのは、「怒りの感情が湧いたその場では言わず、ひと晩置く」ことです。カーッとなっている瞬間に言葉を発すると、余計なトゲが出てしまってケンカが長期化するだけですよね。だから一度寝て、冷静になってから「昨日、こういうところが嫌だったんだけど、どう思う?」と、伝えるようにしています。

 

不満は伝えるけど、伝え方は配慮しています。同じ時間を過ごすなら、不機嫌でいる時間はなるべく短くして、楽しい気持ちで過ごしたいですから。

 

── 4歳、2歳、0歳と今は幼い3人の子どもたちも、やがては成長して手が離れていきます。これから40代、50代を迎えるにあたって、どんな女性、どんな母でありたいと考えていますか?

 

鈴木さん:「何年後にこの仕事をしてこんな立場になりたい」といった具体的な将来像を描くことはやめました。子育てをはじめ、計画通りにいかないことは多いですし、そうなると自分や周囲を責めてしまいたくなるので。

 

それよりも、「どう自分を表現したいか」を考えるようになりました。仕事、そして日々の暮らしや家族との関わりのなかで、「明るく、等身大の自分」を表現していきたいですね。街ですれ違う素敵なマダムたちを観察しながら、自分らしい年の重ね方を模索しているところです。肩肘を張らず、今目の前にある家族との時間を大切にしながら、その時々のフェーズに合わせた表現を楽しんでいけたらいいなと思っています。

 

取材・文:鷺島鈴香 写真:鈴木ちなみ