華やかに見える海外生活の裏にある言葉や文化の壁。頼れる人が近くにいないワンオペの現実。生後9か月の第1子を抱えてシンガポールへ渡ったタレントの鈴木ちなみさんも、移住当初は「何がどこに売っているのかさえわからない」生活の中で、深い孤立感を味わいます。その日々をどう抜け出したのでしょうか。

「買い物さえも難しい」移住当時の生活

鈴木ちなみ
フードコートに行くと必ず頼むというチキンライス

── 20代のころは『めざましどようび』(フジテレビ)の海外レポートなどで活躍していたタレントの鈴木ちなみさん。結婚・出産を経て、現在はシンガポールで子育てしながら現地情報を発信しています。移住当初は、言葉も文化も異なる土地での育児で、想像を絶する大変さがあったのではないでしょうか。

 

鈴木さん:夫の仕事の都合で、はじめて授かった9か月の赤ちゃんを抱えて、シンガポールに移住してきました。土地勘のない場所で、最初は友だちがほとんどいなくて、本当に孤独でした。

 

日本だったら近くの児童館に行けば無料で安心して遊ばせられるし、同じ月齢の子を持つママと自然に言葉を交わせますよね。でも、シンガポールは日本以上に共働きが盛んで、生後数か月から保育園に預ける家庭が多く、ふらっと遊びに行ける無料の地域コミュニティもあまりないんです。

 

── 赤ちゃんと2人きりで過ごす時間は、息が詰まることもあったでしょう。

 

鈴木さん:まさにその通りでした。居場所がなさすぎて、子どもを抱っこしながら、自宅のベランダから向かいのマンションをボーッと眺めたりして。「あのお宅はベランダに木を置いているな」とか「今日もおじさんたちが道路を工事しているな」とか(笑)。今振り返ると、精神的に追い詰められていたんだろうな、と感じます。

 

── 見知らぬ土地での慣れない育児はストレスフルだったことでしょう。

 

鈴木さん:シンガポールに移住して半年くらいは、本当に右も左もわからなくて。たとえば、買い物。日本のスーパーなら「ここに行けば離乳食の食材が揃う」「日用品ならあのお店」という感覚が体にしみついていますよね。それが「どの店に何があるか」さえわからない。

 

ようやく食品売り場にたどりついても、並んでいる食材が日本と全然違っていて、離乳食の定番ともいえる、しらすも手に入らない。「さつまいもなら大丈夫だろう」と購入して、いざキッチンで切ったら中が鮮やかなオレンジ色(笑)。日本のものとは違うので、「ひょっとして傷んでいるの?食べさせて大丈夫なの?」と立ち尽くす、そんな毎日でした。

子育ての悩みを共有するママ友に救われた

── 育児でわからないことがあったときはどうしていたのですか。

 

鈴木さん:まずは日本の家族に頼りました。私には2人の妹がいるのですが、2人とも子育ての先輩なんです。「お尻がかぶれちゃったけど何塗ればいい?」「熱がこれくらい出たんだけどどうしよう」と、ちょっとしたことでも写真付きでメッセージを送って、相談に乗ってもらいました。物理的な距離はあっても、気兼ねなく弱音を吐ける存在がいたことには本当に救われました。

 

シンガポールでハマったコピ(コーヒー)を飲むのは癒される時間だそう

── 現地での生活リズムや人間関係はどのように整えていきましたか。

 

鈴木さん:子どもが保育園に通い始めたことで、私自身の時間ができて、気持ちにゆとりが生まれるようになりました。保育園で現地の方や外国人のママ友ができたことも大きかったです。同じコンドミニアムに住む日本人ママとも交流するようになりました。

 

そこで気づいたのは、「子どもが野菜を食べてくれない」「トイレトレーニングが進まない」という悩みは、国籍や文化が違ってもみな同じなんだということ。何気ない子育ての悩みを話せる相手が、ちょっとずつですけど増えたのが、すごく大きいと思います。あるママ友は、私がトイレトレーニングで悩んでいたら「1週目はこうやって、2週目はこうやって」と、長文マニュアルみたいなアドバイスのメールを送ってくれて。そういうまわりの方々の優しさにずいぶん救われましたね。

子育ての孤独感も…焦らなかったのは正解だった

鈴木ちなみ
観光地のひとつ「プラナカンハウス(レトロなプラナカン建築が並ぶカトン地区)」は可愛いパステルカラーで映える

── 孤独な育児に悩みながら、鈴木さんはどうやってママ友の輪を広げていったのですか。子育てに慣れないうちは、「早くママ友を作らなきゃ」と焦ったり、「ママ友ができたとして、うまくやっていけるかな」と不安になったりしがちですが…。

 

鈴木さん:私も人間関係に少し身構えてしまうタイプですから、ママ友作りについての焦りや不安、どちらもわかります。でも、だからこそ、移住したときは「友だち作りを急がないようにしよう」と、心に決めていました。

 

育児に疲れていたので、まずは自分の心の健康と家族の生活を最優先。ママ友作りは生活に慣れて自分の気持ちに余裕ができてからだなと思って。友だちができたとしても、いろんな考え方がありますし、焦って距離を縮めるのも違うなと感じました。だから、まずは保育園や近所で赤ちゃん連れのママさんに会ったとき、気持ちのいい「挨拶」ができればいい、そう考えました。振り返ってみれば、それで正解でした。

 

── 赤ちゃんと向き合い大変な中で、ムリにママ友作りに励もうとせず、少しずつ関係性を作っていくわけですね。

 

鈴木さん:すれ違いざまの「こんにちは」のトーンや表情で、なんとなくお互いの温度感がわかりますよね。相手が受け入れてくれそうかどうか推しはかりながら、立ち話をしてみたり。

 

「この人となら心地よい関係が作れそうだな」と感じたら、「今度お茶しませんか?」、「ランチ行きましょう」とお誘いしてみる。焦ってグループに入ろうとせず、ちょっとずつ、ちょっとずつ、ムリなく関係を広げていく。それが結果的に長く付き合えるご縁につながるのだと思います。

 

取材・文:鷺島鈴香 写真:鈴木ちなみ、花森友里(サムネイル)