同い年の聞こえる人たちの半分しか経験してない

── 聴覚に障害があることで、文字のみのコミュニケーションで、言語に難しさを感じることもあるんですね。たとえばどういうときでしょうか。

 

佐藤さん:会話するときって、状況や相手に合わせて言葉を選ぶ場面が多いと思うんです。そういうときに、文字おこしアプリを使ったり、筆談でコミュニケーションしようと書いたりしていると間(ま)ができてしまって、自然な会話じゃなくなってしまうんです。

 

佐藤悠理
高校では被服科を卒業。着物も美しく着こなす佐藤さん

── 書いているその時間が間(ま)となって、会話が止まるということでしょうか。

 

佐藤さん:そうです。たとえば、相手や私が怒っていたとしても、文字にすることで、感情そのものが消えてしまう。怒ってることがわからなくなるんです。だから、同い年の聞こえる人たちと同じ生活をしていても、その人たちの半分しか経験できていないなといつも感じています。

 

── 文字のみのコミュニケーションだと、怒りの感情も受け取りにくいし、伝わりにくいと。

 

佐藤さん:そうなんです。どんなに怒っていても、相手の方の文字が普通に並んでいたりすると、怒ってないようにも見えてしまう。耳が聞こえる人たちは、ムッとしたとき、話せば声の様子でわかりますよね。でも、文字だけだとわからない。書いている間に怒っている本人が冷静になってしまい、そのうち怒っている情報がなくなるというか。

怒りを声で伝えられるようになった訳

── 怒っている情報がなくなることで、言葉の行き違いが生じることもあるのでしょうか。

 

佐藤さん:あります。怒っていても、怒っていることがわからなくて言葉の行き違いが起きるんです。私が、相手の感情がわからないままニコニコしてしまったときとか。

 

逆に、私が怒るようなことを言われても、やり取りしている間、私のほうが冷静に見えるので、ニコニコ返すことで、人によっては神対応みたいに受け取られることも(苦笑)。怒る情報が途中でなくなることで、言葉や感情がすれ違うことは起こります。だから、耳が聞こえる方には、もし聴覚障害の人と会話をすることがあれば、怒ったときははっきりそう言うなどしてもらえるとありがたいです。

 

── 佐藤さんは、もし感情が伝わらない状況で怒りが湧いたり、悲しくなったりしたときはどうされるんですか?

 

佐藤さん:私の場合は、子どもの頃に発音を訓練したこともあって、言葉を発することで相手も聞き取れる場合もあるので、最近は、自分が怒っているときは、はっきりと声に出して伝えるようにしていますね。そうすると通じることが多いので、怒っていることを言うようにしています。

 

そのきっかけになったのが、吃音がある同世代の友人との出会いでした。そのとき、彼に手話通訳のお手伝いをしてもらったのですが、たとえば、私がムッとするようなことを言われたときにこちらが怒っている情報も一緒に伝えてもらうとこんなに楽なんだ!という経験をして。これが、私にとって人生の転機になりました。

 

お互いコミュニケーションで悩みを抱えていたときに出会ったのですが、当時、彼は手話を積極的に覚えてくれ、私が聞こえない音についてたくさん教えてくれました。音楽だと、どんな雰囲気の曲か、歌詞のどの部分を歌っているのか。おかげで視野がグンと広がりました。

 

── そんなふうに理解してくれるご友人がいると、日常が変わりそうです。

 

佐藤さん:はい。彼のおかげで楽しみが増えてうれしかったです。耳が聞こえても聞こえなくても、仕事もプライベートも大事にしたいという気持ちはきっと同じですよね。変に遠慮したりしないで、きちんと自分の思いを伝えることで、いつか恋愛面でもいい出会いがあるかもしれない。そんな日が来るといいなと思っています(笑)。

 

取材・文:たかなしまき 写真:佐藤悠理