これまでに虐待された人の雇用支援事業などを行ってきた、株式会社RASHISAの代表取締役・岡本翔さん。自身も複雑な家庭環境で育ったうえ、精神的な虐待を受けた経験があり、今では人生をかけて虐待問題解決に挑んでいます。 

精神的にきつかった中学生時代

岡本翔
複雑な家庭環境で育ち、つらい中学生時代を過ごしていた

── 岡本さんは人生をかけて虐待問題に取り組むため幅広い事業に取り組んでいるそうですが、ご自身も虐待を受けていたことがあったそうですね。

 

岡本さん:私自身、家庭環境がとても複雑で、幼少期から祖父と祖母と3人で暮らしていました。私を未婚で産んだ母とは暮らしたことがなく、父親が違う妹2人、弟2人がいます。きょうだいとは以前から交流はありますが、一緒に暮らしたことはありません。

 

祖父と祖母とは平穏に暮らしていましたが、私が中学生のときに2人が離婚することになり、祖母と母の弟にあたる叔父の3人で暮らす生活することになったんです。

 

── それは複雑な環境ですね。

 

岡本さん:当時は気づきませんでしたが一緒に暮らし始めたときは叔父は30代半ばで、今考えれば若く自分の人生もあったでしょう。祖母も働いていましたが、経済面で私は叔父のお世話になっていましたし、突然の環境の変化もあり、甥である私にとまどったと思います。

 

プレッシャーからか強くあたられることもあり、家に居づらいと感じたり、顔色を見ながら過ごしたりする時間が長かったです。 

 

── 叔父さんは岡本さんになぜつらく当たったと思われますか?

 

岡本さん:祖母だけでなく甥である私のことも支えなければいけないのは、今思えば大変だったのかもしれません。祖母は叔父をなだめてくれることもありましたが、家の居心地が悪いのは、当時の私は精神的にかなりきつかったです。

自分を解放できる学校が逃げ場だった

── まだ中学生で逃げ場はないなかで家の居心地が悪いのはつらかったですよね。当時、誰かに相談したりはしなかったのでしょうか?

 

岡本さん:しなかったですね。学校でもそのような素振りを見せたことがなかったので、いまだに当時の友人はこのことを知らないかもしれません。一緒に暮らしてはいませんでしたがきょうだいも母からつらく当たられていたようで、4人のうち2人は児童養護施設で暮らしていました。なので、もちろんきょうだいに相談することはできないし、肉体的な虐待を受けている彼らを見ると、「つらいけれど自分はまだ平気だ」と思えていた部分もあって。正直、叔父を憎んだこともありましたが、自分よりつらいきょうだいの状況を聞いてグッと抑えられたところもあったと思います。

 

── つらい日々のなかで、支えになっていたことなどはありましたか?

 

岡本さん:家ではイヤなことも多かったですが、私にとって学校は自分を解放できる場所でした。バスケ部だったのですが、バスケットボール選手になるのが夢だったので練習は楽しかったし、生徒会長にもなって充実した時間を過ごしていたと思います。夜は家に帰っていましたが、バスケに打ちこむことで家にいる時間が減っていたのかもしれません。

 

── つらい状況はいつごろまで続いたのでしょうか?

 

岡本さん:実は高校はバスケットボールの強い学校に進学したのですが、そこに寮があったので逃げるような気持ちで入寮したんです。それで叔父と離れたため、気持ちはだいぶ楽になりました。それ以来、叔父と住むことはなく、今では年に数回会う程度。叔父も今は体を少し壊していて、会えばふつうに話をします。

 

当時は叔父のことがイヤでしたが、今考えると甥の面倒を見るなんて叔父もきっと大変だったのだろうと思います。経済的負担をしてくれたことに、今は感謝しています。

目標は虐待の根底となる問題を解決すること

岡本翔
現在は虐待以外にも幅広い事業を手がける岡本さん

── 虐待を受けたことによるトラウマなどはあるのでしょうか?

 

岡本さん:虐待された人たちのことを私は「虐待サバイバー」と呼んでいるのですが、一般的に過去のトラウマによって、コミュニケーションが苦手、音に敏感、期待されるとがんばりすぎてしまう人が多いです。私は虐待の経験から人の顔色をうかがいすぎてしまうところがあると自覚しています。叔父や祖母の顔色を見ながら生活してきたせいでしょうね。

 

ただ、現在取り組んでいる経営者同士がつながる場をつくる仕事は、経営者同士をうまくマッチングさせる必要があります。経営者の顔色をうかがいながら進める仕事なので、いい意味で経験が生かされているような気がします。

 

── 虐待は非常に難しい問題ですね。解決していくためにはどのようにしていくべきか、経験者として岡本さんの考えを聞かせてください。

 

岡本さん:虐待を受けた子どもは、親になったときに自分も虐待する側になってしまう可能性が、受けていない人に比べて高いそうです。その根底には親の貧困、孤立、望まない妊娠など、さまざまな背景があります。それらを解決していくことこそが虐待を減らすことにつながると思っているので、今後はそのような事業にも取り組みたいと考えています。

 

── その事業が拡大していけば、虐待される子どもが減っていくかもしれないですね。

 

岡本さん:虐待は社会の問題だと思いますが、現在進行形で虐待を受けている子どもがそれで納得することは難しいです。子どもが虐待されている環境から逃げ出すことは容易ではありません。簡単なことは言えませんが、それでも努力次第で将来は明るくなると思っています。努力をしていれば保護者から離れる年になったときに、きっと自分で人生は切り開ける。私自身も過去の自分にそう伝えたいと思っています。

 

取材・文:酒井明子 写真:岡本翔