「子どもが保育所に入れないことが理由で仕事を辞めざるを得ない」という事態を避けるため設けられた、育児休業の延長制度。 2017年にはこれまでの1年半から2年へと期間が延長され、最長2年間、育児休業手当てを受け取りながら保育園の入園待ちができることになりました。 ところが今、せっかくの入所内定を辞退したり、希望者が多くてとても入れそうにない園に希望を出すことで「入所できない」という通知書を受け取り、計画的に2年間育休を取って、なかにはそのまま退職まであらかじめ計画済み…という方法がネットなどで出回って問題となっています。 これから出産を迎えるワーママや、二人目・三人目の入園を控え制度がどうなっているのか分からない…というママもぜひ参考にして下さいね。

 

現在の育休延長制度のポイント


2017年から、最長2年まで延長できるようになった育児休業。 育休を延長する事自体はまったく違法ではなく、条件に当てはまり正当な手続きを取れば誰でも可能です。 ただし、この条件というのが、「保育所に入り仕事に復帰したいのに、空きがなく入れない」というもの。これ以外の理由では単なる休業扱いとなり、育休手当は受け取れません。

 

また、手続きとしては、1歳前に認可保育園へ申し込み、いわゆる「落選」の通知(自治体により、「不承諾通知」「入所保留通知」など名称は異なります)が来てしまったら、それを証明として職場へ提出しなければなりません。

 

万が一、1歳前に申請を忘れていたり、認可外の園だけに申し込んで落選していたりすると、上記の証明書がないため育休の延長ができないことになってしまいます。

 

このため、 「1歳になる前に必ず認可保育所へ申請を出しましょう」 「入れなかった場合も申請は取り下げず、1歳6か月時点でも不承認の通知書の提出が必要です」 など、育休手当をもらい忘れないためのノウハウが、育児雑誌やインターネットに掲載されるようになりました。

 

その中に、「職場に復帰するつもりがない人も、とても入れないような激戦区の保育所に申請を出して非承諾通知をもらっておけば、2年間、育休手当がもらえるよ♪」といった趣旨のものがあり、これが大都市周辺を中心に全国的に広まっていったと考えられています。

 

 

問題は「本来入れた子が落ちてしまう」こと


入所の意思がない保育所利用申請が増えていることに対し、各自治体では、「このままでは、本当に保育所を利用したいのか、育休延長のために落ちることを前提に申し込んでいるのかが分からない」とニーズ把握に障害が出ていることや、「入所するつもりのない申請の処理で事務手続きの時間や経費が割かれてしまう」などの声が上がっています。

 

自治体によっては、申し込みの時点で「内定が出ても辞退するつもり」というチェック欄を設けたり、入所不可の通知書がなくても延長を申請できるようにしてほしいと国に要望を出したりしているそうです。

 

しかし、今もっとも問題視されているのは、そういった自治体のデメリットではありません。

 

承認されない前提で申し込んだのに内定してしまうケースも発生するため、本当にそこへ通いたかった子が不承諾になってしまったり、自宅から遠い保育所にしか通えなかったり…という事態が起こっているのです。

 

 

職場、国、親たちがそれぞれの立場でできること


2017年の横浜市の例では、5917人の待機児童のうち、育休中で復職する意思がない保護者が482人にも上ったそうです。他の大都市圏でも同様のことが起こっています。

 

この背景にあるものと、私たちにできることは何か考えてみました。

 

|職場・会社ができること

平成29年10月の「改正育児休業法」では、育休期間の延長以外にも、事業主が次のような努力をすることが義務付けられました。

 

  • 労働者に対して個別に育児休業等に関する制度(育児休業中・ 休業後の待遇や労働条件など)を知らせる努力
  • 小学校就学に達するまでの子を養育する労働者が育児に関 する目的(配偶者の出産、入園式など)で利用できる休暇制度を設ける努力

 

過去には、育児休暇を延長するための手続きが周知徹底されておらず、結果的に手当金が受け取れなかったり退職を余儀なくされたりといったケースがありました。

 

改正後は、努力義務ではあるものの、「従業員の自己責任」ではなく、産休の申し出があった時に個別に育休制度について説明する努力義務が課せられました。

 

今回話を聞いたあるママは、直属の上司が制度をよく知らず、「育休手当を会社から2年も払えない。周りのことも考えろ。1年で復帰するか、辞めてほしい」と言われたそう。  しかし育児休業給付金は会社が払うものではなく雇用保険から拠出されており、運営も十分な黒字となっています。

 

また、もし周囲が2年間子育てをするママに対して「ずるい」「迷惑」と感じるとしたら、その職場の業務分担や人員配置が適正でないために、しわ寄せが許容範囲を超えてしまうからではないでしょうか。

 

少子化がますます深刻になる今日、「利益が下がるから産休・育休のサポート人員は増やさない。2年も育児をしてもらっては困る」という考え方の会社ばかりだとしたら…日本の将来が本当に恐ろしくなります。

 

 

|国にできること

上記のような職場環境では、例え4月入所に合わせて1年未満で育休から復帰したとしても、赤ちゃんが熱を出した時などの対応にも不安が残ります。  2015年度の「雇用均等基本調査」によれば、育児休業後に職場復帰している女性は92.8%と、ほとんどの人は再び雇用保険の払い手となっています。

 

本来は働きたいのに、落選前提で保育所に申請するような方法を取らざるを得ないほどブラックな職場もあることをしっかりと把握し、女性のキャリア断ち切ってしまうことのないような、本当に現状に合った制度の改善と見直しが今後も国には求められます。

 

|親が気をつけること

出産前には1年未満で職場復帰する予定だったとしても、ママや子どもの体調・周囲のサポートに対する不安などから状況や気持ちが変わってしまうこともあり、それは責められるべきことではないと思います。 ママだけが悩み「仕事か育児か」の選択を迫られることがないように、パパの職場も含めて働き方を見直し、ともに家事育児に取り組むことも大切です。

 

また、もし育休中に考えが変わり、今回取り上げた方法で給付金をもらいながら育児に専念できる状況が訪れたとしても、それをSNSや知人友人に自慢するようなことは厳に避けなければなりません。

 

あくまでも、育休延長制度は「どうしても預け先が確保できない時の救済措置」という位置付けですので、一部の人の発言で、働くママや育休中のママ全体の印象が悪くなってしまわないよう注意したいですね。

 

まとめ


筆者がこの件について取材し、ママたちに話を聞いたり色々調べたりした中で、忘れられないインターネットでのコメントがあります。それは、育休を延長したあるママからのひとこと。

 

「こういう方法をとる母親をズルイと言うなら、私は、小さい子を育てながら働ける職場環境や制度が整っていないのにとにかく復帰させ、続けられなければ辞めるしかない…そんな社会にこそ、ズルイと言いたいです」

 

胸にずしんと響く、ママの心の声だと思いました。 今日明日にすぐ解決する問題ではありませんが、一日も早く、それぞれのママ・パパ・子ども・職場の現状に即した育児休業がきちんと取れるような制度の整備を望みます。

 

文/高谷みえこ 

参考:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」 

日本経済新聞「保育「落選狙い」対策へ 育休延長目的で申し込み