「男らしく育つように、男の子には男の子用のおもちゃを」「女の子らしく遊べるように、女の子には女の子用のおもちゃを」。

 

親が悪気なく選んでいたおもちゃが、実は子どもにジェンダーバイアスを植え付けてしまっていたのかもしれません。多様性が求められる今、おもちゃの世界はどうなっているのでしょうか?

 

女の子の赤ちゃんを模した形をしていて、女の子の母性を育むとされてきたお世話人形は、代表的な「女の子用」おもちゃのひとつです。そんなお世話人形の世界に、男の子の姿をしたお世話人形が誕生しました。男の子の「自分もお世話して遊びたい」という声を掬い上げたバンダイのお世話人形「ホルン」はどういった点にこだわって作られたのか、開発背景について伺いました。

男の子もお世話人形で遊んでいるという現実

── お世話人形は今まで「女の子のおもちゃ」のイメージが強かったですが、バンダイのお世話人形レミン&ソラン」シリーズに新しく仲間入りしたホルンは男の子です。ホルンを発売することになったきっかけを教えてください。

 

バンダイのお世話人形・ホルン

 

北東志保さん(以下、北東さん):

ホルンは2019年7月に発売したのですが、企画は2018年秋に立ち上がりました。きっかけは、2018年に行われたユーザーであるお子さまと保護者の方とのグループインタビューでの発言です。実際に女の子がお世話人形で遊んでいると男の子も遊びたがるとの声を受けて、「男の子もお世話遊びがしたいんだな」という気付きがありました。

 

山崎梨沙さん(以下、山崎さん):

レミン&ソランシリーズに関しては、人形を2体お持ちのご家庭が多いです。対象年齢がレミンは1、2歳児が遊ぶ赤ちゃん、ソランとホルンは3歳児から遊ぶちょっとお姉さんの設定なので、お子さまの成長に合わせて追加でご購入いただく、あるいはレミンやソランのお友達としてホルンをご購入いただく、という家庭が多いようです。

 

ホルンの全体的な購入層は女の子がいらっしゃるご家庭が多いのですが、やはりレミンやソランと比較すると男の子がいらっしゃるご家庭での購入は多いです。実際に「兄妹で取り合いになったのでホルンも追加購入して楽しく遊べるようになった」「モデルが男の子なので手に取りやすい」とのご意見をいただいています。

「ホルン」がディズニーモチーフを採用している理由

── レミン&ソランシリーズの、そもそもの開発経緯や特徴についても教えてください。また、男の子のホルンならではの遊び方などもあるのでしょうか?

バンダイお世話人形レミン&ソラン、ホルンの付属絵本

レミン&ソランシリーズは、夢の中でディズニーキャラクターたちが登場するオリジナル絵本が付属しているのが特徴。「ホルン おせわきほんセット」の絵本は、トイ・ストーリーのウッディとホルンがおでかけする内容となっている

 

山崎さん:

愛情を育むお世話遊びは、子どもの成長過程において他者への思いやりや優しさを育てるとても大切な遊びです。「パートナーや友達のように長く愛される存在を」と考えたとき、上質で夢のある世界観を持つディズニーとの相性はぴったりだと思い商品開発を行っています。人形に付属しているオリジナル絵本では、人形がディズニーキャラクターたちと出会い、お世話を学んだり、一緒に楽しんで遊ぶ様子が描かれています。

 

北東さん:

人形の顔立ちも上品に仕上げ、大人が見ても「かわいい」と思える作りにしています。ほかにも寝かせるとまばたきをする、ディズニーキャラクターをモチーフとしたお洋服など、細かいところまでこだわって作り上げています。

 

また、レミン&ソランシリーズは子どもの成長に合わせて遊べるようになっています。レミンは赤ちゃんをイメージしているのでミルクを飲ませる哺乳瓶が付いている、ソランは少しお姉さんの設定なので、ドレスで着せ替えをするなどおしゃれ遊びが楽しめるようになっています。

バンダイのお世話人形ソランで遊ぶ女の子

北東さん:

ホルンにはトイ・ストーリーのウッディをイメージした帽子やブーツが付属しており、レミンやソランと同様にディズニーの世界観を作り上げています。もちろんレミンやソランのように、一緒にお風呂に入ったり、まばたきをするので寝かしつけることもできます。

 

── シリーズを通して世界観は統一しているんですね。男の子を育てる保護者からは、「女の子のようにお人形で遊ぶことで、将来我が子が変な趣味に走るのでは」と心配する方もいらっしゃいますが…。

 

北東さん:

私たちとしては、すべてのお子さまにお世話遊びを通じて優しい心を育んでほしいという想いがあります。なので性別にかかわらず、お子さまの「好き」という気持ちに合わせて人形を手に取っていただけたらと思います。

 

山崎さん:

会社としては、IP(※1)の世界観の再現・表現、商品が映えるデザイン・カラー採用、子どもたちのトレンドを取り入れるということをポイントに、子どもたちの需要に応じた企画開発を行っています。ST基準(※2)に沿った対象年齢設定はありますが性別の区別はないので、全ての子どもたちが楽しめるおもちゃづくりを目指しています。

 

※1 IP…Intellectual Property の略。キャラクターなどの知的財産のことを指す。
※2 ST基準…Safety Toy(玩具安全)の略。機械的安全性、可燃安全性、化学的安全性からなっており、第三者検査機関によるST基準適合検査に合格したおもちゃにSTマークを付与できる。

おもちゃの購入方法にみる、親子関係の変化

── 日本でもようやくジェンダーについての意識が高まってきています。おもちゃを作る側として、おもちゃの遊び方や購入理由など、お客さま側の変化を感じることはありますか?

 

バンダイのお世話人形ホルン

 

北東さん:

お世話人形に関して言うと「お世話遊びがしたい」というニーズは変わりませんが、商品の購入の仕方は変わってきたと感じます。以前は子どもが欲しがるものを親が買ってあげるという構図が大多数だったのですが、今では親子共に気に入った商品を購入されています。友達のような関係性の親子が増えた影響もあるかもしれません。

 

実際、レミン&ソランシリーズではディズニー好きな保護者の方が気に入って購入に至るケースも多いです。ママが「これかわいいじゃない」と言うと、少しおませなお年頃の子が「私もそう思ってたわ」と売場で同調したり(笑)

 

── そんな変化があるんですね!親と子でそれぞれのニーズの違いなどはありますか?

バンダイれミン&ソランインスタスクショ

レミン&ソラン公式のインスタグラムも世界観にこだわって運営している

 

北東さん:

子どもは直観的に好きな商品を選びますが、親は「お部屋にあっても嫌じゃないか」とデザインを気にされる方が多いですね。子どものおもちゃはカラフルな色遣いのものが多いので、生活感を感じるものや、自分の好きなテイストに合っているかは気になるようです。なので親が見てもすてき、かわいいと思っていただけるようなビジュアルや店頭づくりは意識していますね。

 

── なるほど、購入する親目線も大事なんですね。今後、ホルンのようなおもちゃを増やしていく予定はありますか?

 

山崎さん:

今のところ予定はありません。ただこれからもレミン、ソラン、ホルンのように、みんなで遊んでもらえる子どもたちの需要に応じたおもちゃを展開していきたいですね。

 

PROFILE 北東志保さん

株式会社バンダイ アジアトイ戦略部に所属、ベビー・プリスクール玩具のマーケティング、プロモーションを担当。2016年入社、旧・プレイトイ事業部にてベビー玩具の企画開発を担当、19年より現職。

 

PROFILE 山崎梨沙さん

株式会社バンダイ カテゴリーデザイン部に所属、ベビー・プリスクール玩具の企画開発を担当。2016年入社、旧・トイ戦略室にてマーケティングを担当、翌17年、旧・プレイトイ事業部への異動を経て、20年より現職。

 

 

「男の子もお世話遊びがしたい」というお客さまのニーズから生まれたホルン。しかし男児向けに打ち出すのではなく、あくまでもシリーズの新しい一員として展開しています。性別で細かく区切られない、「子どもたち」を対象とするおもちゃが売場を埋める日は近いのかも知れません。

 

#おもちゃとジェンダーバナー

(C)Disney
(C)Disney/Pixar

取材・文/秋元沙織