経営者として、タレントとして幅広く活躍する京子スペクターさんは、ライフスタイルコーディネーターとしても活躍されています。アメリカや日本で暮らして感じたことやライフスタイルにおけるモットーを伺いました。(全4回中の4回)

「家事はやらなくていいよ」夫からのリクエストでホテル暮らしがスタート

「君が苦労する姿は見たくない」というデーブさんの意向で、ホテル暮らしを選択
「君が苦労する姿は見たくない」というデーブさんの意向で、ホテル暮らしを選択

── 1983年の来日以降、夫、デーブ・スペクターさんとともに都内のホテルで生活されていたそうですね。ホテル暮らしが始まった理由を教えてください。

 

京子さん:夫の仕事で来日して以降、日本とアメリカを行き来していたため、ホテル暮らしの方が身軽だったということが理由のひとつです。もうひとつの理由は、結婚当初から夫に「君が苦労するのは見たくない。家事はやらなくていいから」と言われていたことです。ホテルに滞在していれば、掃除もメイドさんがやってくれますし、レストランで食事も可能。夫が思い描くライフスタイルが、ホテルに暮らすことで実現していたわけです。

 

── 素敵な旦那様ですね…!ホテル暮らしで困ったことはありませんでしたか?

 

京子さん:「暮らすのに何倍ものお金が取られること」でしょうか。公衆電話の代金も、通常は10円のところを、ホテルでは30円かかっていましたし、ホテルでの食事も割高です。衣類の洗濯もホテルのクリーニングに依頼していましたが、靴下1足に1000円かかっていて。買い物に出た時に「3足1000円」の靴下が売られているのを見て、「買ったほうが安いのでは」と真剣に考えてしまいました。

 

自宅のリビング。大きな窓からの景観に感動して引っ越しを決意
自宅のリビング。大きな窓からの景観に感動して引っ越しを決意

あと、レストランのお料理はとてもおいしいのですが、ムニエルのようなやさしい味わいのお魚が多く、メザシのように塩味のきいた素朴なメニューはあまりありません。ある日、無性にメザシが食べたくなって、サングラスをかけて近くのデパ地下に走って買いに行ったこともありました(笑)。

 

夫の仕事関連の資料がどんどん増えていくのも困りました。荷物置き場用にもうひと部屋、借りていたのですが、どんどん手狭になってきて…。

友人宅からの景観に感動し、マンションへの引っ越しを決意

── マンションに引っ越そうと思い至ったのはなぜでしょうか?

 

京子さん:ある時、都内の高層マンションに住んでいる友人から「花火大会があるから遊びに来ない?」と誘われたんです。友人宅に行ったら、窓から花火が上がる様子が間近に見えて。その景観に感動して「ここに引っ越したい!」と考えました。

 

── デーブさんは、引っ越しの提案に対してどのような反応でしたか?

 

京子さん:「いいんじゃないかな」と夫も賛成してくれました。ホテル側には引き止められましたけれどね。引っ越したマンションでは、同じフロアに居住用と仕事用の2部屋を確保したので、十分な収納スペースも確保できました。

 

── 引っ越してからは料理もご自身でされるようになったのですか?

 

京子さん:引っ越し後、「料理ができる!」と喜んで、調理器具を買いそろえたのですが、長年台所に立っていなかったので、包丁で指を切ってしまったんです。それがきっかけで、夫に「何もしなくていいって言ったのに!」と叱られてしまい…。以降、料理は外食が基本です。

 

「煎茶会」の様子。自宅でのホームパーティーも多く開催している
「煎茶会」の様子。自宅でのホームパーティーも多く開催している

── とにかく京子さんが苦労をするところは見たくないのでしょうね。夫婦ゲンカをすることもあるのでしょうか?

 

京子さん:滅多にないです。一緒に会社を経営していますので、意見の違いはありますが、夫婦ゲンカはほとんどないですね。好き同士で結婚した相手に対して、嫌がる言葉は言いたくないじゃないですか。デーブも同じような考え方だと思います。

 

── なるほど。お互いを思いやっているからこそ、円満でいられるのですね。

 

京子さん:おつき合いしていた時も、素の自分を出していたので結婚後のギャップはなかったです。初めから「よく見せたい」と猫は被らず、自然体でいることが円満の秘訣かもしれません。夫に関しては、日本語はペラペラすぎるし、「ユウゾウ」と名乗っていたこともあり、第一印象が「変な人」だったわけで(笑)。その後はいい面がたくさん見えて、印象は好転する一方でしたね。

 

ベランダで夜景を眺めながら食事をすることも
ベランダで夜景を眺めながら食事をすることも

「省く」風習がライフスタイルを豊かにしてくれる

── ライフスタイルコーディネーターとしても活躍されています。心地いい生活を送るために意識していることはありますか?

 

京子さん:「手間を省くこと」です。日本では「手間ひまをかける=愛情を込める」と考える人も多いですが、手間を省いても愛情は込められると思います。この考え方は、アメリカに住んでいた頃の体験が大きく影響しています。

 

アメリカはさまざまな人種や文化が存在しているので、「誰でも簡単にできる」ことが基本。「難しいことを簡単にする」という考え方が根づいているので、さまざまな工夫が施されています。趣味のドレス作りも、アメリカで習得しましたが、手順は少なくとにかく簡単に作ることができました。

 

日本では裁縫も料理も、工程が多く複雑に感じてしまいます。ライフスタイルコーディネーターとして講演の依頼が入る時は、アメリカでの体験をベースに提案するように意識しています。手間を省くことで生まれる時間を、自由に使ってほしいですね。

 

4−5アルジェリア大使館のパーティーにて
アルジェリア大使館のパーティーにて

── 文化の違いが考え方に反映されるのですね。アメリカと日本の「働き方」については、どのように感じていますか?

 

京子さん:私がアメリカで暮らしていた1970年代は、「夫婦共働き」がすでに当たり前で、子育てにおいても平等でした。日本は、最近になってようやく共働きの家庭が多くなってきましたが、まだ年齢や性別による偏見は残っていて、アメリカより遅れているなと感じてしまいます。

 

── 最後に、さまざまな経歴を持つ京子さんが、大切にしている信念を教えてください。

 

京子さん:「後悔を残さないこと」です。「もし、明日死ぬとわかったら何をしたいだろう」と考えた時、「やっておけばよかった」と考えるのであれば、今すぐすべきだと思います。そのうえで、「人に優しく、嘘はつかず、親切にする」こと。これを貫くことができれば、後悔のない人生を歩めるのではないでしょうか。

 

PROFILE 京子スペクターさん

(株)スペクター・コミュニケーションズ代表取締役。千葉県千葉市出身。高校卒業後、ハワイとアメリカに留学し、語学を学ぶ。1977年よりロサンゼルスのホテルニューオータニに勤務。コンシェルジュとして働くなかで、デーブ・スペクターと出会う。結婚後、日本に帰国し(株)スペクター・コミュニケーションズを設立。テレビの企画やプロデュースを手掛けるほか、アメリカでの生活を生かして、ライフスタイルコーディネーターとしても活躍する。現在アルバニア共和国名誉領事を務める。2023年より始めたInstagramが(@kyoko_spector)が好評。

取材・文/佐藤有香 画像提供/京子スペクター