ビルの屋上で循環型農園(廃棄物などを有機資源として活用しながら、環境の負荷軽減を目指す農業体系)を営む社長でもある俳優の小林涼子さん。農園は農福連携を掲げ、障がいのある方が作業しています。そのサポートスタッフとして小林さんが起用したのが、子育て経験のある女性たち。小林さんが考える「お母さん」ならではの力とは。(全4回中の2回)

 

俳優の小林涼子さん

子育ては「思いを言語化できない幼児と向き合える力」

── 小林さんの会社「AGRIKO」では障がいのある方が働いていますね。働きやすさなど、どのような点に工夫しているのでしょうか。

 

小林さん:農福連携や障がい者雇用には、どうしても難しいイメージがあると思います。実際に難しい点もあるんですが、私が農林水産省の「農福連携技術支援者」という資格を取得するために勉強して思ったのが、私にも得手不得手があるように、彼らにも得手不得手があるだけだ、ということ。細かい作業などが、私たちより得意な方がたくさんいらっしゃいます。

 

なので、みんなの得意なことがちゃんと伸びるような農園にすれば決して不可能なことではないなと考えています。

 

そのためにどんな人たちと一緒に農園を運営していくのかがとても大切だと思ったんです。そこで、子育ての経験がある「お母さん」に一緒に働いてもらおう、という考えにたどりつきました。

 

── なぜ子育て経験のある人が必要なのでしょうか?

 

小林さん:お母さんたちは、自分の気持ちをまだ言語化できないような幼少期の子どもたちとも向き合ってきています。子どもの年齢や個性に応じて対応を変えたりとか、いっけん些細な子どもの異変も見逃さず「何かあったのかな」と気づいて対応していますよね。

 

私自身も父や母が私の異変に気づいてくれて、新潟に連れていってくれたから農業に出合えましたし、それが今の自分につながっています。私にはない能力を「お母さん」は持っていると感じています。

 

俳優の小林涼子さんが設立した株式会社AGRIKOの「お母さん」スタッフたち
障がいのある農園スタッフをフォローする「お母さん」スタッフたち

── 今のお話をお聞きして、ひとりの母としてもうれしいです。

 

小林さん:お母さん方は教育者としてもすばらしいと思います。子どもっていろいろなことができないのが当たり前ですよね。子どもがどうやったらできるようになるのかを考え、できることを少しずつ増やしていって、できなかったらまた戻って教えて…。本当にすごいと思います。

 

しかも子育てだけじゃなく、炊事や洗濯といった家事や、「家族が風邪をひきそうだからこうしよう」とか「子どもの持ち物や提出物は…」といった家族の体調管理やスケジュール管理もこなしている。家族という組織を率いる、めちゃめちゃ凄腕のリーダーだと思っているんですよ。

 

私はそのことを自分の母を見て感じてきました。母からたくさんのサポートを受けてきたからこそ「母みたいな人と働けたら幸せだな」という思いが根底にあります。私みたいに得手不得手がある人をうまく伸ばしてくれるような人たちと働きたい、というのがお母さんたちと働く理由なんです。

「スタッフ同士がスポーツチームのように運営」

── 子育て中はどうしても時間的な制約があったり「子どもが熱を出して休まざるを得ない」という人もいると思います。そのあたりは、どうフォローしているのでしょうか。

 

小林さん:まずはシフト制ですね。皆さんいろいろな事情があるので、まずは2週間ごとに、それぞれの働きやすさに配慮したスケジューリングをしています。

 

基本的に農園の業務は朝の9時半から13時半ごろまでで、お子さんが午前中幼稚園や小学校に行っている時間に勤務できるようにしています。また、午後はiPadで農園で働く障がいのある方々とお母さん方とオンラインをおつなぎして、見守ってもらったり、作業を教えてもらったりもしていています。

 

── 今は何人のスタッフが働いているのですか?

 

小林さん:農園スタッフは10人ですね。皆さん、何かのスポーツチームに所属していたり、地域のママ友同士という方々もいて、スタッフ同士がスポーツチームのように密に連携し運営してくれています。農園の連絡調整は「Slack」や「teams」といったビジネス系のアプリではなく、「BAND」というグループアプリを使っています。これは、スケジュールやアルバムの共有もできる、クラブ活動の運営などでよく使われているアプリなんです。

 

── そういった仕組みは小林さんご自身で考えられたのでしょうか?

 

小林さん:最初は私からまず「BANDを使いましょう」と提案しました。そうしたら「それ子どものスポーツチームの運営でも使っていますよ」という声があって。使っていただいているうちに、スタッフが中心になってアルバムを作ったり、スケジュールを作ったりしているうちに、仕組みの大枠ができていきました。

 

俳優の小林涼子さん
農園でスタッフとともに農作業を行う小林さん

障がい者と企業をマッチング

── 今農園で働いている方は、どのような障がいがある方々なのですか?

 

小林さん:今8人の方が働いているんですが、知的、ダウン症の方、精神、発達とさまざまな障がいがある方がいらっしゃいます。皆さん穏やかに、ご自身のペースでお仕事されています。農園の一部分に階段があるので身体に障害がある方は受け入れられていないのですが、それ以外の方はなるべく幅広く働いていただいています。

 

── 障がい者雇用には、そもそも働ける場所が限られていたり、作業場の賃金が安かったりといった課題もあります。今、農園の障がい者の方々はどのように働かれているのでしょうか。

 

小林さん:現在一定規模以上の企業には、43.5人に1人、必ず障がい者を雇わなくてはならないという法律が課されていますが、守られていないことが問題になっています。なぜ企業での雇用が進まないかというと、企業内で障がい者の方たちが活躍できる場が限られていたり、どのように障がい者の方を雇用すればよいか見えにくいという課題があります。

 

私たちは企業側に対して、障がい者雇用を通してSDGsなど社会課題を解決しませんか、と提案し、協業しています。

 

農園で働く方のなかには、絵が得意な方もいらっしゃいます。そういった方々が描いた絵や文字を使って企業の名刺やノベルティを作ったり、農園で育てた農産物を六次産業化した製品のパッケージに使用したりもしています。そうすることで企業側にとっても強みになりますし、商品の売上の一部は障がい者の方に還元される仕組みになっています。

 

俳優の小林涼子さんが設立した株式会社AGRIKOで販売している苗ポット
AGRIKOでは、農園で働く障がいのある方が不織布のプランターに文字などを書いた苗ポットも販売、収益の一部は障がいのあるスタッフにも還元されるそう

 

PROFILE 小林涼子さん

俳優、株式会社AGRIKO代表取締役。1989年生まれ、東京都出身。10クール連続でドラマに出演し話題を集める。直近の主な出演作品は、映画「わたしの幸せな結婚」、テレビドラマ「王様に捧ぐ薬指」や「ハヤブサ消防団」など。俳優業のかたわら、 2014年より農業に携わる。家族の体調不良をきっかけに株式会社AGRIKOを起業。

 

取材・文/市岡ひかり 写真提供/AGRIKO、小林涼子