自分の喜びを起点にした働き方考えること、自立心と人との関わりを持つことが今後の働き方の鍵

 

——今後は会社員としての働き方もますます変化していくのでしょうか。

 

安藤さん:

そうですね。「社内の一つの部署で働き続けること」は今後なくなるかもしれません。専門職は別ですが、いわゆる「従来の会社員的ジェネラリスト」のような数年ごとに部署異動があったり、一つの部署に10年もいてキャリアだけを垂直に積んでいくという働き方は減っていくと思います。

 

今年は感染症による経済への打撃や東京オリンピックの延期がありましたし、来年以降、日本も世界も経済状況が大変になるのは想像に難くありません。だからこそこれまでの日本は、「正社員は守られている」という意識を強く持っていましたが、その意識を手放さなければいけない時代にきています。

 

これまで会社の仕事だけに注力してきた人たちも、会社以外の仕事を始めることで、「自分でお金を稼げる」という気付きと充実感、そして、お金だけでなく、ライフワークのような「生きがいを得る喜び」「仲間が増えることの喜び」「感謝されることの喜び」など、精神的な支えとなるライフワークを持つ個人が増えていくはずです。

 

——「会社を離れてフリーランサーとしてやってみよう」という人も一定数増える可能性がありそうですね。安藤さんがオランダ留学時に見てきた「ワークシェアリング」の形態に、日本も近づいているということでしょうか?

 

安藤さん:

オランダのワークシェアリングが、日本のそれと圧倒的に違うのが「喜びを起点にしているかどうか」ということなんですよね。

 

欧米では労働の形態や身分制度、時間ではなく、「その人の人生で、何を大切に生きていきたいか」を起点にしていて、たとえば、「起業してベンチャー企業を立ち上げたので、今の会社は週3日にします」とか「子どもが生まれて育児に集中したいから勤務日数を減らします」とか、そういうポジティブな意識が起点になっています。

 

欧米は社会人になってから大学に通う人も多く、一回社会に出たけど、大学院でより専門的な勉強をしたいから、会社での仕事を減らしたり休職したりする人も多いんです。

 

——欧米では、働き方が個人の興味や関心、喜びに基づいているんですね。

 

安藤さん:

日本はそういう感覚ではなくて「社員が大変だから残業時間を減らそう」とか、「会社の体力がなくなってきているから副業・複業OKにしよう」とか。個人の喜びが起点の改革ではなく、あくまで労働時間や待遇などの課題解消のために、働き方を改革しようと言われても、全然ワクワクしないですよね。

 

だから、「コロナ禍でテレワークを導入しよう」ではなくて、社員の喜びのため、企業のクリエイティブ性を高めるために働き方を変えるというマインドが出てきたらいいなと思っていました。ピンチが起きて、その不安を解消するために行動するのではなく、「じっくり子育てと向き合いたいから地方移住を検討する」とか、「クリエイティブな生き方をしたいからパラレルキャリアという働き方を選ぶ」とか、そういう世界になったら楽しいですよね。

 

——「喜びを起点にした社会」良いですね、ワクワクします!では、今後さまざまな働き方の選択肢が増えてくる中で、働く側としては、どのようなマインドが求められていくのでしょうか?

 

安藤さん:

「自立心」と「人と繋がる力」がすごく大切だと思います。それから依存心を捨てること。ほとんどの仕事は、人とのやりとりで成り立っているものです。完全に人を介さないで仕事をするのってAIくらい。けれども当のAIも、今は人間を介してはじめて意味を成していますが。ともかく、一人暮らしで在宅ワークをしていたとしても、オンラインのミーティングで画面越しに人と顔を合わせる機会もありますし、手がけているサービスを受け取る顧客も人としての繋がりの一つです。

 

特に「複業」と「副業」はそういう人との繋がりを面倒くさがらないこと。「フリーランスになったから、面倒な人とのしがらみがなくなる」と思う方もいるかもしれませんが、フリーランスでも人との関わりはありますし、人とつながりを持たなければ、仕事は待っても入ってきません。雇われる側であれ、雇用主であれ、「状況が悪い」「あの人のせい」「会社が嫌い」というような周囲への依存心を減らして、自分の足で立つことが大切だと思います。

 

——どの時代になっても人との繋がりは必要と話す安藤さん。テレワークが一般的になってきた今の時代、ますます人との関わり方が重要視されていくのでしょう。今の働き方を変えたいと思うなら、まずは自分自身の「喜びの起点」はどこかを見直してみてはいかがでしょうか。

  

PROFILE 安藤美冬

作家/講演家/コメンテーター。1980年生まれ、東京育ち。大学卒業後、(株)集英社に勤務した後、2011年に独立。SNSでの発信を駆使し、肩書きや専門領域にとらわれずに多彩な仕事を手がける元祖ノマドワーカーとして、独自のワーク&ライフスタイルを実践。750日間のSNS&ネット断捨離期間を経て、2020年より一部再開。アメーバオフィシャルブログ『人生は冒険』で情報発信中。また、2021年1月下旬に著書『新しい世界(仮)』が光文社より発売予定。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/緒方佳子