法律はできても、現実が追いついていない。そこから生じる葛藤をオフィス・キャリーノ代表 朝生容子さんに読み解いてもらいました。

時短勤務に罪悪感はいらない

 

——体力やストレス、周囲への罪悪感などを理由に、仕事を手放すママはいまだ少なくありません。課題はどこにあるのでしょうか。

 

朝生さん:

自分ひとりで全部抱え込んで悩んでいる女性が非常に多い印象を受けています。夫はどうせやってくれない、他人に子どもを預けるのも不安、時短だから早く帰る罪悪感でいたたまれない家族や職場に相談することもなく、自分の中でそんな風に決めつけてしまっているんですね。

 

ですが、時短勤務の部下を持ったことがある私から言わせてもらうと、時短勤務でも続けてくれるだけで十分に周囲は助かっているんですよ。辞められて新たな人材にゼロから教えていくより、決まった時間内でもちゃんとサポートしてくれる人材のほうがチームにとってはずっとプラスになるんです。

 

——産前と同じパフォーマンスができないことに罪悪感を抱かなくていい?

 

朝生さん:

そのとおりです。あなたが稼働することは、きちんと職場のプラスになっている。今、時短勤務で罪悪感を抱えている人は、そのことをぜひ自覚していただけたら、と思います。

 

一方で、職場からやんわり降級や退職を勧められた、という声も残念ながらまだまだ聞こえてきます。「さすがにこんなハードな職場で産後復帰はしないよね?」「子どもを産んだら営業職は無理でしょう」と上から勝手に決めつけられた、役職に就いていた女性が育休復帰後に一方的に降級を強いられた、という体験談も実際に耳にします。

 

復帰後に格段にパフォーマンスが落ちたなどの問題があれば、もちろん降級がやむを得ない場合もあるでしょう。ですが、「育児中だから」という理由だけで会社側が降級を強いるのは、明らかなハラスメントです。仕事の評価とは無関係なバイアスで判断している、ということですから。

専業主婦のメリットとリスク

——悩んだ末に、いったん仕事から離れる選択をする人もいます。専業主婦(夫)であることのメリットやリスクをどう捉えていますか。

 

朝生さん:

家族と相談して、ご自身で納得した上での判断であれば、もちろん尊重されるべき選択だと思います。育児はもちろん、子育てなどを通じて地域社会ときちんと向き合える時間が持てるのは、専業主婦(夫)の大きなメリット。地域社会の課題に直面することは、新たな視点が生まれるきっかけにもなりえます。

 

また、これは専業でなくてもいえることですが、これまで女性たちが一手に担っていた地域の話し合いの場に、3040代の男性が参入することは、コミュニティの多様性や地域の活性化にも繋がるはずです。

 

一方で、経済的な側面から考えると、生涯ずっと専業主婦(夫)というのは、やはりリスクが大きい。実家が資産家であるといったケースを除けば、長い人生でパートナーに収入のすべてを依存している状態は非常にリスクが高い。性別に関係なく、そういった現実は認識しておいたほうがいいでしょう。