社員からは不安の声、経営層からは組織崩壊の懸念

──とても面白い考え方だと思いますが、タニタ公式Twitterの中の人の発言時や、書籍『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社刊)が発売された当初も、賛否両論の意見が聞かれました。「これからの時代を見据えていて面白い!」と肯定的な意見が出る一方で、「会社にとって都合の良いリストラではないのか」などの反対意見も聞かれ、議論が巻き起こりました。

 

二瓶さん:

そうですね。社内でも不安や懸念の声が多く上がりました。

 

活性化メンバーは個人事業主となるので、仕事の対価はそれまでの給与・賞与制ではなく、基本報酬・成果報酬という仕組みに変わります。仕事の進め方や勤務時間、働く場所などが自由になる代わりに、依頼を継続して引き受けられるだけの仕事をする責任が出てきます。

通常の社員(上)と活性化メンバー(下)の違い 

 

社員からは収入減少や社会保障への不安、社会的信用の低下への恐れ、経営層からは社員が個人事業主化することで指示ができなくなり組織崩壊につながるのではないか、個別の業務に対する報酬設定はどうするのかなど、ネガティブな意見が根強かったです。

 

──社内でもさまざまな立場から不安や懸念の声が数多く出た中で、どのようにプロジェクトを運営しているのでしょうか?

 

二瓶さん:

日本活性化プロジェクトでは、今まで対象者が行っていた業務を「基本業務」として扱い、対象者の給与・賞与から算出した金額(基本報酬)で初年度は委託します。契約外の新しい職務に関しては、「追加業務」として委託料も別途支払う形(成果報酬)で依頼します。正社員だと新しい仕事を割り振られても給与の範囲内で行うことが多いですが、個人事業主では成果報酬で支払うことになります。

 

社会保障費や福利厚生費といった会社が負担していた分も、基本報酬の設計ベースに組み込みます。個人事業主になると雇用保険や厚生年金の対象から外れるので、その分を民間保険など別の形で個々人に合ったものに入る資金に充当することができます。

 

また、個人事業主となってからの疑問や悩みを共有・解消する互助組織として「タニタ共栄会」があります。活性化メンバー全員が会費制で参加しています。タニタとタニタ共栄会の間で契約を結んでいるため、活性化メンバーは会社の施設や備品の使用も可能ですし、税理士法人とも契約して確定申告に必要な会計や税務のサポートなども受けられるようになっています。

 

「3年契約の1年更新」とすることで急激な収入減のリスクを回避

──退職後に生じるであろう問題についてもあらかじめ考慮されているんですね。ただそうは言っても、やはり収入面の不安は大きい気がしますが…。

 

二瓶さん:

面白いデータが出ています。いわゆる「手取り額」で言えば、活性化メンバー全員が増加しています。平均増は22.5%ですが、最大では68.5%増えた人もいます。

 

また、こうした経済的不安を払拭するために、タニタとの業務は「3年契約で1年ごとの更新」としています。3年契約の最初の1年が経過した時点で、委託業務の内容や報酬額を見直して契約を更新するので、残された2年分は新しい契約に上書きされます。この仕組みを繰り返します。こうしておくと、もしも契約更新しないことになった場合でも、その時点ではまだ既存の契約が2年残っていることになります。

 

つまり、契約更新しないことになってから2年間は、既存の仕事が維持されるということです。個人事業主は社会情勢や取引先の都合などで仕事が突然なくなることもありますが、こうした契約内容にすることで急激な収入減少を回避します。

 

もちろん個人事業主として働き始めれば対象者がタニタの仕事を受託しない権利もありますし、機密保持厳守などのルールを守ればタニタ以外の社外活動は自由です。

 

──固定収入が見込めるのは安心につながりますね。では、会社の負担は増えているんですか?

 

二瓶さん:

会社の負担も、実はあまり変わらないのです。プロジェクト当初こそ「会社がコスト削減するための仕組みではないのか?」と非難を受けましたが、給与・賞与・福利厚生費諸々と業務委託料を比べても、キャッシュアウトはほぼ変わりません。そもそも本当にコストを削減したければ、こんなに手間のかかる仕組みにはしません。

 

──活性化メンバーの人数も知りたいです。職種や年齢層も関係しているのでしょうか?

 

二瓶さん:

2017年に8人でスタートし、2020年で社員から移行した活性化メンバーは累計24人になりました。社員の約1割が活性化メンバーとなっています。

 

職種も技術・開発、営業・企画、事務・管理と幅広くいます。各年代で移行が進んでいますが、30~50代が多いですね。ちなみに男女の構成比は、社員と活性化メンバーを比較するとほぼ同じです。