コピーしました
お使いの端末は
この機能に対応していません

社会心理学者が考える「刑務所に行きたい」と罪を犯す人たちに、私たちができること

仕事

2022.01.28

17歳の少年が凶行に及んだ東大農学部前の門17歳の少年が凶行に及んだ東大農学部前の門

「人を殺して罪悪感を背負って、切腹しようと考えた」

 

文京区の東京大学前の歩道で3人を刃物で襲い、殺人未遂容疑で逮捕された高校2年生の少年(17)は、そう供述しているそうです。

 

「医師になるために東大を目指していたが、成績が1年前から振るわず自信をなくしていた」

 

などとも話しているようですが、名古屋の有名私立高校に通う高校2年生がわざわざ上京してこのような事件を起こすとは、どんな精神状態だったのでしょうか── 

 

最近、「刑務所に行きたい」「死刑になりたい」と凶悪事件を起こす人が後を絶ちません。

 

社会や私たちは、そんな人たちにどう対応し、向き合うべきなのか、新潟青陵大学大学院教授で社会心理学者の碓井真史さんに聞きました。

受験期間中の事件に衝撃が(イメージ写真)受験期間中の事件に衝撃が(イメージ写真)

人生の途中までは順調だったが…

「多くの人は不幸や挫折を経験しながら人生を送っているものです。

 

しかし、それを社会のせいにして自暴自棄になり、最後に大きな事件を起こす犯罪者もいます。

 

人生の途中までは順調でしたが挫折して、でもまだ取り返しがきく若い人が多いように見受けられます」

 

今回の少年はまさに、全国でも屈指の進学高校の生徒で、受験は来年にもかかわらず、人生に悲観して、自暴自棄になったようです。

 

昨年8月に、東京で起きた小田急線刺傷事件で逮捕された男(当時36)も、都内の有名大学に通っていた時期があり、決して恵まれない半生を送ってきたわけではありません。

 

2008年に東京・秋葉原で無差別通り魔事件を起こした男(当時25)も、青森県でトップの高校に進学。

 

しかし、それから挫折を繰り返し、凶行に走り、死刑判決が下ることになりました。

拡大した格差が固定化しつつあるとも言われる現在の日本(イメージ写真)拡大した格差が固定化しつつあるとも言われる現在の日本(イメージ写真)

“それなり”“人並み”の人生を送れない

「現代は、自由な社会ですが格差も拡大しつつあり、“それなり”とか“人並み”の幸せを感じたり、送ったりすることができなくなっていることがあると思います。

 

個性や幸福が、高学歴であるとかお金持ちであるとか、高級車に乗るといったようなことに限定されがちです。

 

逆に、それらを得られない人は不幸や挫折者ということになり、中間層の消失もあり、“そこそこ”で生活できる社会ではなくなっているのです」

 

エリート候補であった彼らが、“中間”にもとどまることができなかったのは、経済が低迷し、“やり直しができない”社会と言われることに原因があるかもしれません。

長期低迷が続く日本経済とも無関係ではなさそう(イメージ写真)長期低迷が続く日本経済とも無関係ではなさそう(イメージ写真)

無差別ではなく弱者を狙って…

しかし、なぜ他人を巻き込むような凶悪な事件を起こしてしまうのでしょうか──。

 

「いわゆる“甘え型”の犯罪が増えているのも、最近の特徴だと思います。

 

かつての若者が乗り越える壁は、親や先生や権力者でしたが、最近はその矛先が自分より弱い人に向かっているようです。

 

よく無差別事件と表現されますが、実は自分が反撃されにくい子どもや女性や高齢者を狙っていることが多いです。

 

その瞬間だけ、惨めな自分が王様になる、注目されるといったような、まるでわがままな子どものようなのです」

スマホひとつで過去の事件や手口が調べられる(イメージ写真)スマホひとつで過去の事件や手口が調べられる(イメージ写真)

死ぬときくらい注目されたい

他者を巻き添えにして自殺する「拡大自殺」という考え方もあり、今回の高校生の事件は未遂でしたが、同種のものと考えられます。

 

昨年12月、大阪の診療内科が放火され25人が犠牲になった事件では、死亡した容疑者(当時61 )のスマホの解析から、「死ぬときくらい注目されたい」というキーワードを入力していたことがわかりました。

 

‘19年の京都アニメーションの放火事件についても、検索していた形跡があったそうです。

 

京アニ事件といえば、36人が亡くなった悲劇的な事件で、起訴された男(当時41)は現場にガソリンをばらまいたとされ、瀕死の大火傷を負いました。

 

‘19年に神奈川県で起きた川崎市登戸通り魔事件では、2人が亡くなりましたが、容疑者の男(当時51)は犯行直後に自らの命を絶っています。

自己肯定感を下げないしつけや指導が求められる(イメージ写真)自己肯定感を下げない指導やしつけが求められる(イメージ写真)

失敗しても否定しない

このような人たちを生まないために、碓井さんは子育てや教育について、こう提言します。

 

「かわいがりと頑張らせることの両立が必要だと思います。

 

たとえば、ただ甘やかしてばかりもだめで、受験や競争などをさせてもいいと思います。

 

一方で、それに失敗したとしても、その子の人としての価値は変わらないことはしっかりと示すべきです。

 

そこで親が極端に悲しんだり失望したりすると、子どもは傷つき、自信をなくし、自己肯定感が下がります」

失敗や挫折を若者に語り継ぐ

若者への語りかけも必要と碓井さん。

 

「上司や年長者は自分の失敗談を後輩や若者に語っていくことも大切だと思います。

 

人生に失敗や挫折はつきものだということを示し、それを乗り越えてこそ今があることが伝われば、若者は成長を信じて頑張ることができると思います」

 

人生につまずいても、温かく見守り、その人なりの道を歩むことを尊重する社会になることが必要なようです。

 

PROFILE 碓井真史さん

新潟青陵大学大学院教授で社会心理学者の碓井真史さん

うすい・まふみ。1959年、東京生まれ。スクールカウンセラーで新潟青陵大学大学院教授(社会心理学)。著書に『誰でもいいから殺したかった!――追い詰められた青少年の心理』など。

文/CHNATO WEB NEWS 写真/碓井真史(プロフィール)

KEYWORDS関連キーワード
あなたにオススメの記事

仕事テーマ : 【社会問題】その他の記事

社会問題
もっと見る