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どもっても生きやすい世の中へ。吃音者の僕だからできること

女性の健康

2021.07.31

言いたいことがうまく言えない。相手にイライラされたり、誤解されたりして悲しい。吃音のせいで、就職がうまくいかない…。

 

吃音を持つ人は社会で様々な生きづらさを感じています。今回は、吃音の研究や啓発活動を行っている医師の菊池良和先生に、吃音者が生きる社会への想いや活動内容についてお話を伺いました。

誰にも言えない吃音の悩み。自分が医師になればいい

—— 先生も吃音をお持ちとのことですが、医師になったきっかけと関係があるのでしょうか。

 

菊池先生:

はい。私は小学生のときから吃音に悩んでいました。吃音が出るたびに「またどもってしまった」と気分が落ち込んで、自分への自信を失っていました。そんなとき、「病院で診てもらえば解決策が見つかるかも」と思ったんです。

 

しかし、私は心配をかけたくなかったため、親に吃音の悩みを話したことがありませんでした。小さい頃は気にかけてくれていましたが、成長するにつれて会話の機会が減り、親はすでに治っているものと思っていました。

 

病院に行くために親に保険証を借りる際に理由を聞かれたら、まだ吃音で悩んでいることを話さなければなりません。当時は、それを打ち明ける勇気がありませんでした。

 

「診てもらうことが難しいなら、自分が医師になればいいんだ。そして、吃音を軽減する方法を見つければこの悩みから解放される」と、自分が医師になる道を思いついたのです。このとき、少しだけ気持ちが明るくなりました。

 

医師になった私は、吃音の研究しながら、吃音外来で自分と同じような方々の相談を受けたり、吃音の啓発活動を行ったりしています。

当事者だからわかる研究を進めていきたい

—— 今お話にあった吃音の研究ですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

 

菊池先生:

吃音の原因は脳にあるのか、聴覚は吃音と関係しているのかなど、吃音者の脳研究を行っています。きっかけは、研修医を終えたときに読んだアメリカの吃音専門家の本です。前例が少ない分野でしたが、「君にしかできないことを」と、当時の教授から背中を押していただき、励みになりました。

 

そして、今年から吃音とその2次障害である「社交不安症」の関係を研究し始めました。社交不安症とは、日常生活に支障が出るほど人前で恐怖や不安を感じる心の病。これによって自分を過小評価して、本来、自分が持っている能力が発揮できなくなる可能性があります。

 

実は、私が所属する九州大学病院で過去5年間に受診した吃音の患者さん(成人)を調べたところ、半数が社交不安症を抱えていました。

 

また、私にも経験がありますが、思春期を迎える中高生の頃に吃音について深く悩むようになります。なかには、孤独を感じて、不登校や中退をしてしまう子もいるのです。

 

今年は、このような中高生がどのくらい社交不安症を抱えているか、この子たちに対してできるサポートには何があるかを調査しようと考えています。吃音と社交不安症の関係を調べて、自分を追い詰めない方法を追究することで、吃音者がポジティブに人生を楽しめるようなヒントを見つけられるのではないかと思っています。

脳出血で倒れたから、自分の道が見えてきた

—— 同じ吃音を持つ人 の悩みに、根本から向き合っていらっしゃるのですね。吃音の啓発活動にはどのような想いがあるのでしょうか。

 

菊池先生:

「吃音は他人に移る」「吃音は精神的な弱さが原因」など、吃音には昔からさまざまな偏見や誤解があり、本人や家族を苦しめてきました。

 

学校・職場など社会や家族に吃音の正しい知識を啓発することで、吃音者が生きやすくなるようにしたいと思っています。

 

もちろん、一人の力だけではたりないので、私が啓発することで、同じように吃音者の理解を深める活動をする人が増えたらいいですね。

 

じつは脳出血で倒れて意識不明になったことがあります。なんとか一命をとりとめて、約4か月のリハビリで回復しましたが、このときに「生きているうちに吃音の正しい情報を広めて、人々の理解を進めたい」と強く思ったのです。

 

—— 現在はどのような啓発活動を行っていますか。

 

菊池先生:

書籍の執筆やメディア出演、講演会の登壇などで啓発活動を行っています。書籍は、共著を含めると、これまでに12冊を出版しています。

 

さまざまな活動を行っていますが、なかでも医師に対して啓発することにいちばん力を入れています。それは私が医師であるからという理由もありますが、病院で吃音の相談を受けたり訓練をしたりする言語聴覚士と話す前に、まずは医師が最初に診察するため、その人たちに吃音の知識を広める必要があります。

 

最近では、日本小児神経学会学術集会で500人の小児科医師に講演をさせてもらいました。

 

—— このような啓発活動を行う中で感じることはありますか。

 

菊池先生:

吃音の正しい理解を広めるためには、私のような第三者による発信のほかに、吃音者と周囲の人がしっかりコミュニケーションをとり、その人の気持ちやお願いごとが伝わることも大切だと思っています。

 

吃音者が身近にいてどう接すればいいか戸惑っている人々には、まずは多様性の一つとして吃音の存在を知ることから始めてほしいですね。「この人、吃音なんだ」と思ったら、書籍やインターネットで吃音について調べたり、どのような配慮が必要か本人に直接聞いてみたりすることで、私の啓発活動もつながっていくのではないでしょうか。

 

 

今回の取材を通して、「吃音を持つ人の人生を楽しいものにしたい」という菊池先生の熱い想いが伝わってきました。もし身近に吃音を持つ人がいるなら、それを個性として受け入れて理解しましょう。皆さんが正しい知識を得た上でその人と会話をすることで、菊池先生のバトンもつながっていくはずです。

 

PROFILE 菊池良和さん

吃音症を専門とする医師。九州大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究院臨床神経生理学教室で博士号を取得。現在は、同大学病院耳鼻咽喉科・頭蓋部外科において、吃音外来を行っている。

取材・文/廣瀬茉理 ※プロフィール以外の画像はイメージです。

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