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産む・産まない・産みたい・産めない…子どもの有無に関係なく胸を張って生きるには

女性の健康

2021.07.29

談笑する夫婦

不妊治療はよく、“出口の見えないトンネルを歩き続けているようなもの”と言われます。さまざまな情報に翻弄され、自分にとって何が一番いいのかわからなくなってしまったり、やめどきのタイミングを見失って迷子になってしまったり…。

 

だからこそ、「誰もが妊娠や不妊に関する適切な情報を気軽に得られる場所が必要だと感じます」と話すのは、自身も不妊治療を経験した産婦人科医の遠見才希子さん。

 

最終回となる今回は、遠見さんが不妊治療で感じたジレンマや、伝えていくべき一番大切なことについて熱く語ってくれました。

「信頼できる医師に巡り合うのは運次第」という状況が問題

── 不妊治療では病院選びに悩む人も多いです。不妊治療専門クリニックによって、治療の選択肢がいろいろあり、費用もピンキリで、“どんな治療をどこまでやるか”の決断をするのが難しい。子どもが欲しい一心で治療をすすめていくうちに、やめどきがわからなくってしまうケースも少なくありません。

 

遠見さん:

不妊治療は、医療機関によってオプションも様々で、何を基準に選べばよいのか迷ってしまう気持ちはわかります。「信頼する医師に巡り合えるかどうかは運次第」という意見も、正直否定できません。

 

私の場合、1人目の治療は自分の勤め先で知っている先生に診てもらっていたので、わからないことはなんでも聞くことができました。でも2人目のとき初めてのクリニックだったので、疑問に感じることがあってもなかなか聞けるような雰囲気ではなくて。

 

「なんでこんなに血液検査が必要なんだろう?」と疑問を感じたことも。医師である私ですらそうでしたから、一般の患者さんなら、なおさらわかりにくいと感じるはずです。

 

今は不妊治療をする方も増えていますから、誰もがもっと気軽に不妊治療の情報を得られる場が必要でしょうね。そうした情報を知り、納得した上で、自分で治療が選択できるという状況が望ましいと思います。

笑顔のカップル

産む・産まない・産みたい・産めない…状況は人それぞれ。どの選択も認められるべき

── 最近では、著名人がみずからの不妊経験を明かして啓発活動を行うケースも増えてきましたよね。「不妊は誰しもにあり得ることで、特別なことじゃない」という風潮が高まってきているのを感じます。

 

遠見さん:

不妊治療の保険適用化など社会の関心が高まっている中で、「不妊は社会全体の問題」という意識に変わってきているのだと思うんです。こうした動きも患者さんの選択肢を広げるひとつの方法になるといいですよね。

 

ただし、不妊やライフプランに関する雑な教育や啓発だけは避けてほしいと切に願っています。

不妊治療にはお金がかかる

── “雑な教育や啓発”というのは、どういうことでしょう?

 

遠見さん:

不妊の原因や本人を取り巻く状況は本当に人ぞれぞれで、一概に“こうすべき”と言いきれないんです。もちろん加齢にともなって妊孕性(にんようせい・妊娠しやすさ)が低下することは事実ですが、なかには40代で自然妊娠する方もいますし、逆に20代でも不妊に悩む方もいます。

 

ですから、たとえば「女性は年齢とともに、どんどん妊娠しづらくなるので、子どもが欲しい人は早めに産みましょう」といった画一的な教育・啓発をすすめてしまうと、不妊に悩む女性だけでなく、女性たちの生き方の選択肢も狭めてしまうのではないかと危惧しています。

 

本来、ライフプラン教育の役割は、ジェンダーバイアスを取り除き、多様な選択肢から自己決定を支援することです。本人の知識だけでなく、パートナーや職場など周囲の人々の理解や、社会制度の環境整備も必要です。

 

若いうちに出産しなかった人を追い詰めるような社会であってはいけないと思うんです。

 

── 確かに、それによって生きづらくなってしまう人も出てきそうです。

 

遠見さん:

一番大事にされるべきは、その人自身の人生が尊重されることです。産む・産まない、産みたい・産めない ── すべての意志と選択が尊重され、その人自身も大切にされる。そうした社会の在り方が、これからの時代を生きるカギになっていくのではないでしょうか。

 

「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)は、あなた自身にあります」ということを、若いうちから伝えていく必要があると思います。自分の体を決めるのはその人自身で、精神的にも、社会的にも、身体的にも健康で、自分の体のことを決める自由がある。適切な医学情報とともに、どちらも伝えていくことが大事ですね。

人生は思い通りにいかない…その経験が私を成長させた

── 産婦人科医である遠見さんが不妊を経験したことで、患者さんとの向き合い方や価値観に変化はありましたか?

 

遠見さん:

不妊のこの苦しみを当事者として経験できたことは、産婦人科医として大きな糧になっていると感じています。ただ、自分の苦しみを他人に押し付けたり、相手もそうだろうと決め付けたりするのはよくないので、その点は注意していますね。どういう形であれ、“人生は思い通りにいかないことがある”という経験は、人間を成長させる気がします。

 

子どもの有無や人数に関係なく、誰もが自分の存在を尊重され、人生に胸を張って歩いていける社会になるといいですよね。

 

PROFILE 遠見才希子さん

遠見先生プロフィール画像

1984年神奈川県生まれ。産婦人科医。2005年、大学時代から“えんみちゃん”のニックネームで、全国900か所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。現在、筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程在籍。著書に「ひとりじゃない 自分の心と体を大切にするって?」、「だいじ だいじ どーこだ? はじめてのからだと性の絵本」(2021年7月刊行予定)。

取材・文/西尾英子   ※プロフィール写真以外の画像はイメージです。

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