日本テレビの報道記者、キャスターとして、長年教育問題を取材してきた岸田雪子さんの著書『いじめで死なせない 子どもの命を救う大人の気づきと言葉』(新潮社)。 過酷ないじめを受けながらも生き延びた「いじめサバイバー」

の声に耳を傾けるなかで、

大人がかけるひと言が子どもの命を救うカギとして浮かび上がってきたそう。 本誌では、子どもたちを守るため、今私たちが知っておくべきことを教えてもらいました。 今回はその一部をご紹介します。

 

教えてくれたのは…

岸田雪子さん

東京都生まれ。早稲田大学法学部を卒業、東京大学大学院情報学環教育部修了後、日本テレビに入社。報道記者歴10年を経て報道キャスターに。報道局解説委員として文部省記者クラブの担当も。夫と小学校5年生の長男との3人家族。2018年6月、初の著書『いじめで死なせない』を出版。

 

 

CHANTO読者にアンケートをとってみたところ…

24人/116人が

すでに子どものいじめを経験していました

 

まだ子どもが小さく、

身のまわりではいじめについてあまり問題になっていないからと、

どこか人ごとに思っていませんか? 読者のみなさんにアンケートをとってみたところ、回答者の約1/5が、子どもがいじめにあったことがあると回答。この数、「

人ごと」と流せる数ではありません。子どもをどう守るか、

真剣に考える必要があります。

 

 

子どもからのSOSに親としてこたえるために

できること、すべきこと

 

 

いじめは見えにくくなっている

 

 

最近のいじめの特徴について教えてください

 

岸田さん:今、いじめの形が変わりつつあります。

 

昔のような暴力的ないじめはやや減り、

大人の目から〝見えにくいいじめ″がふえています。たとえば、特定のグループ内での仲間はずれ。

 

外から見ていると友達どうしでふざけ合っているようで、

大人の目には「仲のいいグループ」に映ってしまうんです。また、インターネットやSNSの普及も、

いじめを見えにくくする大きな要因です。

自分の子どもがツイッターで暴言を吐かれていたり、

LINEのグループからひとりだけはずされていたとしても、

そのことに親が気づくのは難しいですよね。

 

では、どうすれば子どもがいじめられていることに気づけるのでしょう?

 

岸田さん:まず、私たちは「何かあっても、子どもは話してくれない」という前提に立つ必要があります。それによって、積極的に子どもを見ようとする意識が働き、子どもに必ず表れる小さな変化に気づきやすくなれるはずです。とはいえ、小学校低学年までなら、

 

特に女の子は学校での出来事を親に話してくれることも少なくない

でしょう。働くママの場合、仕事や家事に追われて、

子どものためになかなかまとまった時間をさけない人が多いですね

。私自身もそのひとり。

親が忙しそうにしていると子どもはそれを察し、

言いたいことをのみこんでしまいます。そんなときは「あと30分で仕事(家事)が終わるから、そのあとにゆっくり話を聞くね」と、伝えてあげましょう。具体的な時間を提示することで、親が自分に向き合おうとしていることを感じられます。

親が結論を出さずに、まずは聞き役に徹する

 

子どもの変化に気づいたり、子どもが自分からいじめられていることを伝えてくれたときに、気をつけなくてはならないことはありますか?

 

岸田さん:子どもの話にじっくり耳を傾けることが第一。

 

もし子どもが自分から打ち明けてくれたら、「

話してくれてありがとう。必ず助けになるよ。

あなたの味方だからね」と心から伝えてください。このとき、親が先に「いじめられているんでしょ?」とか、「あなたも、何かやったんでしょ」などと決めつけてしまうのは避けてください。

ゆっくりとやさしく「何があったの」「そのとき、

どういう気持ちになったの」「どうしてほしかったの」「今、

どうなってほしいの」といった投げかけをし、時間をかけて、

冷静に聞くことがポイントです。

 

親が先回りして結論を出したり、行動を起こしてはいけないのですね。

 

岸田さん:その通りです。当事者はあくまでも子ども自身。感情的に動くのではなく、子どもの問題としてとらえ、そのうえで大人がサポートすることが大原則になります。いじめにあった子は、人格を否定されて自尊心が非常に傷ついています。親が真っ先に取り組むべきことは、その傷を癒やし、回復させること。「すごくつらかったね」と子どもに寄り添い、「ゆっくり休んでいいんだよ」と言葉をかけることが、命を守ることに直結する場合もあります。

 

 

子どもの将来を考えると、できるだけ早く学校に戻したいという親も多いかと思います。

 

岸田さん:いじめ行為がやまないまま学校に戻そうとすることは子どもを追いつめることになってしまいます。大人から見れば、「学校の教室」は狭い社会で、世界のごく一部にすぎません。けれど、子どもたちにとっては教室が世界そのもので、いじめられると、もうどこにも逃げられないと思ってしまうのです。「学校に行きなさい」という言葉は絶対に言わないでください。

私たち大人の気づきと言葉によって、いじめに苦しむ子どもを救うことができます。子どもが小さいと、まだ関係ないと思うかもしれません。だからこそ、今、いじめの現状と対策を知ってほしいのです。そして、もしいつか子どもがいじめられてしまったときには、力になってあげてください。

 

先輩ママが目撃したいじめの現場と、子どもを救った言葉と行動とは? 次ページに2人の先輩ママの体験談をまとめました。

私が目撃したいじめの現場と

子どもを救った言葉と行動

 

CHANTO読者のなかにも、自分の子や身近な友人・知人の子がいじめにあった人が少なくありません。子どもたちはいかにして救われたのか。先輩ママたちの言葉や行動にヒントがあります。

 

 

子どもの狭い世界から視野が広がるように努めました

 

小竹さん(仮名)

・33歳、東京都在住 ・パート ・夫、長男(8歳)の3人家族

 

「息子が小学校に入学し、2か月ほどたったときのことです。同じ保育園出身の子を含む仲よし3人グループのなかで、息子が仲間はずれに。内緒話をされたり、遊びに加えてもらえなくなったりして、『学校に行きたくない…』と涙をこぼすことも。でも結果的にいじめは一時的なものでした。原因となった2人が仲間割れし、息子もほかに仲のよい友達ができ、なんとなく解決へ。ただ当時は気安く話せる子がいなくて、友達が少ないなかで仲間はずれにされたのでショックだったようです。ふさぎこむ息子に、『〇〇くんに話しかけてみたら』などと助言したのがよかったのかもしれません。子どもは狭い世界しか知らない。視野を広げるのは親の努めだと思います」

 

▽岸田さんからひと言

やさしく寄り添いつづけたお母さんに、息子さんも安心して話すことができたのでしょう。グループを固定化せず、いろんな友達がいると気づかせることは、年齢が上がってからも有効な声かけのひとつです。

 

 

先生に助けを求めたことで動画いじめが解決へ

 

安藤さん(仮名)

・36歳、三重県在住 ・看護師 ・夫、長男(3歳)、次男(1歳)の4人家族

 

友人の子どものAくんが小6のときに受けたいじめの被害です。同級生で同じクラブのBくんに、いやがらせ目的に動画を撮影され、YouTubeにアップされました。Bくんは以前からAくんを格下扱いしていました。その動画をクラブの男女数人が見て、笑いものに。そのうちのひとりからAくんが聞き、母親もクラブの子の親から耳打ちされたことでいじめが発覚。それがなかったら気づかなかった可能性は高いと言っています。Aくんの母親はいじめの深刻さを感じ、Bくんの母親に直接会って動画の削除を冷静に依頼。しかし受け入れてもらえず、学校の先生に頼んでやっと削除できたとか。第三者である学校をはさむことで、いちおうの解決に至ったようです」

 

▽岸田さんからひと言

嫌がらせの動画アップは、小学生のあいだにもふえています。加害者側の親が放置している場合もあり、学校を介して削除を求めることが近道でしょう。削除後もAくんの心のケアには長い目で関わる必要があります。

 


新学期がはじまったばかりの9月は、いじめが表出しやすい時期です。 『CHANTO』10月号では、岸田さんのロングインタビューに加え、先輩ママの体験談もさらにご紹介しています。子どもの命を守るため、ぜひ参考にしてみてください。

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