2018.05.31
みんな、捨てる基準や捨て方の“正解”だけを知りたがる
筆者は「モノの捨て方」に関する本を書いたということもあり、たびたび取材を受けるのですが、よく聞かれるのが、さまざまなアイテムごとの「捨てる基準」と「捨て方」です。
洋服はどんなものを残し、どんなものをどうやって捨てればいいのか。
本をこれだけ持っているが、多すぎるから捨てたほうがいいのか、それとも捨てなくていいのか。
主婦雑誌ならこれにキッチングッズや家事道具が加わり、OL向けの雑誌なら靴やバッグ、コスメの類が加わり、子育て雑誌なら子どものアイテムが加わって、すべてのモノの捨てる基準と捨て方に「正解」を出すようリクエストされます。
たしかに、「こうしなさい!」と言われたい気持ち、よ~くわかります(笑)。自分で決められなくて困っているんだもの、誰かに指示されたほうがラク。だって、「正解」なんだもん、それを知って実行すれば問題は解決するはず!
その気持ちに応えてあげたい!とは切に思うのですが、私の良心が許さない(笑)。
というのも、「正解」を鵜呑みにしただけで問題が解決した例は見たことがないし(実際、私自身が何度も痛い目にあった)、むしろとんでもなくマズイことになるからです。
それはどういうことかというと…。
「正解」を出すのが難しいのは、基準が人それぞれだから
たしかに、ある程度のヒントや目安はあります。情報を得ることで頑なな思い込みが薄れたり、自分では気づかなかった視点を持てることもあります。
しかし、そんな過程を経て最終的に納得しうたうえで処分できるならいいのですが、自分自身が理解も納得もしないまま「正解」を断行すると、結局リバウンドしてしまいます。
どんなモノでも、「捨てる基準」と「捨て方」ほど、人それぞれ。たくさんの方の捨てるお手伝いをしてつくづくそう感じます。
ある人には通用する基準も、別の人にはとんでもなく受け入れがたかったり、同じアイテムも10個を少ないと感じる人もいれば、多すぎると感じる人も。
その違いこそが、自分が自分たる所以でもあるので、無責任に「それはダメ」と一刀両断にはできません。だって、モノは減っても心はズタズタになってしまいますから。
特に、興味深いなと感じるのは、「捨て方」に対する人の想いです。たとえ処分することが決まっても、「捨て方はどんな方法でもかまわない」という人は多くはありません。
ある人は、「まだ着られる洋服をゴミ袋に入れることだけはできない」と言い、またある人は、本を大量に処分しようと縛って束にしたものの「ゴミ置き場で雨に濡れるのを見るのだけは耐えられない」と言います。
一度処分すると決めたのに、「捨て方」に抵抗を感じてまた部屋に戻したり、「そんな処分の仕方をするなら持っていたほうがまし」という人だっているのです。
お金をかけてでも選びたかった“捨て方”とは?
こんな方もいました。
「たくさんの子供服がどうしても処分できない」
そう言う彼女は経済的にも余裕があり、育児ストレスの解消もあって、高い子供服をバンバン買っていたそう。
なんとかフリーマーケットで売りさばいたそうですが、手間もエネルギーもかかって処分を決めました、
でも、「ただ捨てるだけ」はどうしてもできないと言います。まだきれいだし、高かったからもったいないし、思い入れもたっぷり。とはいえ、売るエネルギーはありません。
あれこれ方法を提案したのですが、彼女がその中から選んだのは「途上国への寄付」でした。
寄付といっても、送れるモノの条件は厳しく、指定のサイズの箱に入れるなどいろいろめんどう。海外への送料も自分持ちで、一箱3000円弱かかるのです。
それなのに、彼女は嬉々としてその方法を選びました。
もったいないと口では言っていても、ほんとに大切に感じていたのは、金銭的なことだけではなかったということ。自分の思い入れがあるモノが、誰かに大切にされ、使い続けられるということが、彼女の心に響いたのです。
「気が済んでる」かどうかを自問するプロセスを踏もう
結局、約1万円をかけ、子供服はすべて途上国の子供たちに送られました。
「お金かかっちゃいましたね」という私に、
「でも、とてもスッキリ。役に立てたと思うとかえっていい気分。寄付したと思えば、納得できます」
と晴々した顔で言う彼女。
「捨てる基準」や「捨て方」の情報は私たちのまわりにあふれています。捨て上手な人も整理収納のプロもたくさん発信しています。
でも、見極めるべきは「その方法で自分の気持ちが済むかどうか」ということ。10円でもいいからお金に換算されたことで気がすむ人もいれば、誰かの役に立てたことで気がすむ人もいます。
私が実家の片づけをしたとき、母は「私の見ていないところであなたが捨てるならかまわない」と言っていました。母にとっては、自分が判断するのはいやでも、娘が判断するなら気が済んだわけです。
モノを捨てるためには、「気が済む」って実は重要な要素。
他人の情報を取り入れるにしても、マネするにしても、鵜呑みにする前に、「それで私、気が済んでる?」と問いかけるプロセスをぜひ踏んでみてください。
日頃から自問していると、自分でも気づかなかった基準が見えてくるかもしれません。
のざわやすえ
出版社での編集を経てフリーに。ライター・エディター活動の一方で、主婦雑誌で培った知識をもとに「暮らし方アドバイザー」として、整理収納や家事タスクのアドバイスでも活動中。また、趣味のソーイングではオーダー業も。働きながら育てた一男一女は、この春から高2、高1に。