2018.06.11
かつて「シンプルな暮らし」といえば、手間隙かけたスローライフという意味合いが強かったように思います。
それがしだいに、今の自分意必要のない行動、古い価値観を手ばなして、他人の評価に左右されずに生きる…といったニュアンスをまとうようになって、私たち働くママのあいだにも、その考えが広まってきました。
そんな「シンプルな暮らし」って、やっぱりいいものなの?
広告代理店に勤務するかたわら、シンプルライフ研究家としても活動するマキさんに聞いてきました。
物を捨てたら部屋が片づくだけじゃない
そもそも、マキさんが「シンプルな暮らし」に取り組み始めたのはいつ頃のことなんですか?
次女を妊娠したときです。
長女の育休が終わって、復職した当初はむしろ「家事も育児も手を抜かない」というのが目標だったんです。
でも仕事と育児を同時にこなすのが初めてだから、すごい手探りというか。
つねに綱渡り。本当に、綱一本で渡っている感覚だったんです。
で、2人目を妊娠したときに、いよいよこれはやばいぞと。どうしたら暮らしを効率化できるのか、削ぎ落とせる部分はどこなのか、考えるようになりました。
今振り返ればですが、なにもかも頑張らなきゃっていうのも、理想の母親像に縛られていただけだったんですよね。
母としてのあるべき姿みたいな固定観念と自分のギャップに悩んでいるくらいなら、目の前の家族と笑顔で暮らしたいとも思ったので。暮らしを整えようと。
そんなきっかけがあったんですね。暮らしをシンプルに整えるために、当時は書籍やブログなど、何かを参考にされたんですか?
うーん。今から5年ぐらい前のことなんですが、当時はまだ「シンプルライフ」という発想って今ほど浸透していなくて…。まだミニマリストという言葉すらないころだったんで、断捨離をしている人たちのブログに感化されて、あぁ物を減らすっていいんだなと。育休中の一年くらいをかけて、まずは物をだいぶ減らしましたね。
ただ当時は物を減らすことが家事の効率化に繋がるとは思っていなくて。単純に「断捨離すげぇ!」みたいな。でも、そうした環境をシンプルに整えていったら、家事の手間が減って、時短になったんですよ。
▲昔はたんすを空けたら服がぎっしり詰まっていたそう。
今はシーズン問わず、家族全員の衣類が寝室のハンガーラックにすべて収まる量に厳選。
ハンガーに吊るせば、服をたたむ手間も省ける。
そこから、やらない家事を決めたり、家事をパターン化したり…仕組みを整えるようにしました。それによって物を減らすだけでなくムダな行動や考えが省けて、暮らし全体がシンプルになったことで、忙しくてもゆとりがもてるようになりました。
いちばん手を抜けるのは家事なんです
そんなご自身の経験をもとに、これから復職するママになにかアドバイスをするとしたら?
まずは、固定観念にとらわれないことですね。人は人、うちはうち。家事の正解なんて、家庭ごとに違っていいんです。
でも、最近はみんなSNSで他人の暮らしを見てるから、全部ちゃんとしなきゃいけないって思っちゃっているんですよね。
料理が得意な人は実は収納がニガテだったり、収納が得意な人は料理があまり好きじゃなったりするじゃないですか、実際は。
でも「SNSの中の人」っていうふうにまとめてしまっていて。自分も全部やらなきゃって。だから疲れちゃう。
SNSはあくまで、暮らしの一部を切りとっている場合が多いですからね
分けて考えて、自分と家族に必要な部分だけ参考にできればいいんですけど。でも、他人がどうしているか気にしちゃいますよね。すてきなお家に住んでいる人の生活がのぞきたい気持ちはあるから。
それでテンションがあがって、「よしやろう」と思えればいいんですけど、「私はできない!」って思う人の方が多い気がします。
でも、仕事と育児、家事って考えたら、いちばん手を抜けるのは家事なんですよ。
▲朝食は火を使わないパンなどをワンプレートにと決めている。
パターン化することで、毎日の考える手間を省いている。
家事にもいちおう1から10まで手順があるじゃないですか。
私は1と10さえよければ、あいだの2から9は省いたって、工夫次第でどうにかなると思っていて。ルンバや食洗機を使う方法もあるし。
たとえばお皿をワンプレートにして洗いものを減らすだけでも、その積み重ねで時間は生み出せるので。
復職して、家事が完璧にできないからって、「あぁ私は仕事がむいていないんだ」と諦めてしまうのはもったいない。
仕事の善し悪しは仕事の内容で決めるべきで、家事ができてないなら、家事を改善すべきと。
でも、みんな繋げて考えちゃう。子育ても、家事も、仕事も、まぁ1人の人間がやっていることなので。子どもに優しく接する事ができないのは、仕事が忙しいからだとか、そうじゃないんじゃないかなって。それで仕事をやめるのはもったいないなって。仕事やめたら解決するのかっていったら、たぶんそうじゃないんじゃないかな。
家事がめっちゃ好きって人だったら、全然いいと思うんですけど。なんかやっぱ仕事やってる人って、そんな家事が好きな人いないんですよね。
だからこそ、暮らしをシンプルに整える。
物も行動も考えかたも、家族に必要なものだけにそぎ落とすことが忙しく働く私たちの暮らしにはマッチしているんだと思いますよ。
\ Sumally /
・物の量を減らす事は、家が片づくだけでなく、家事の効率化や時短にも繋がります。
・物だけでなく、行動や考え方のムダを省くのも、シンプルに暮らす方法です。
・そのためには、理想の母親像やSNSの誰かと自分を比較するのはやめましょう。
「こうあるべき」という発想が自分を追い込み、家事の時短を妨げます。
続いては、シンプルな暮らしの子育て術についてお届けします
Profile
シンプルライフ研究家
マキさん
夫と長女(10 歳)、次女(5歳)の4人家族。
広告代理店に勤務するかたわら、ブログ「エコナセイカツ」を主宰。
著書に『ゆるく暮らす 毎日がラクで気持ちいい、
シンプルライフ』(マイナビ出版)などがある。
インスタグラム@econaseikatsu.maki
取材・文/三上順司 撮影/市原慶子